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専門は暗号資産、バイデン政権「規制の凄腕」

ウォール街でゲンスラー氏といえば、過去に米商品先物取引委員会(CFTC)トップで、大胆な規制強化を実行した「規制のプロ」として恐れられていた。その彼が米バイデン政権の証券取引委員会(SEC)トップに指名され、14日に上院で人事が承認された。承認に手間取るうちに、投資家交流サイト「レディット」の乱、投資会社アルケゴスの問題などが相次いで発生し、金融市場の整備・規制が喫緊の課題となっている。民主党急進左派エリザベス・ウォーレン上院議員などが強烈に突き上げている。

問題山積のなかで、ゲンスラー氏はまず暗号資産市場の整備・規制強化に取り組むことになりそうだ。同氏は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でブロックチェーンや暗号資産を専門に教鞭(きょうべん)をとっていた。承認当日に、暗号資産の交換所大手であるコインベースがニューヨーク市場に上場したのも象徴的だ。

まず規制の対象として議論されるのは、暗号資産業界の「悲願」といえるビットコイン上場投資信託(ETF)になりそうだ。そもそも暗号資産は「コモディティー」と見なされ、CFTCの管轄下になる。しかし、ETFとなれば監督機関はSECだ。

ETFができれば個人投資家の参入が加速し、暗号資産市場の裾野は広がる。空売りも可能になって、ヘッジファンドの参入で流動性も急増が見込まれる。長期的には、上昇トレンド一辺倒だったビットコインの価格には下押し圧力もかかり、健全な価格形成になるともいえる。

このビットコインのETFを、SECはこれまでことごとく退けてきた。なぜか。

筆者は金のETFの米国市場での上場で、SECと交渉した経験がある。ゴールドを原資産とするETFで、SECが最もこだわったのは原資産の価格に正確に連動するのか、という点だった。ETFと原資産の価格の乖離(かいり)をSECは最も嫌う。正確に連動することがETFの原点なのだ。

そこで顧客の売買注文に値付けするマーケットメーカーの存在が重要視される。特に市場が荒れた時、常に適正なオファー(売値)とビッド(買値)をリーズナブルな値差(スプレッド)で、自らリスクをとって示す機能が不可欠だ。このマーケットメーカーが3社は必要とされている。

この点が暗号資産では難関となろう。暗号資産の価格のボラティリティー(変動性)は異常に激しい。原油のETFでも同様の問題があったが、その比ではない。暗号資産ETFは原資産の価格変動からの乖離が頻繁に生じかねない。

マーケットメーカーの適役として、大手投資銀行のトレーディング部門の参入が望まれる。だが、アルケゴス問題の記憶は鮮明で、彼らは自己勘定による暗号資産の売買を許容できる状況ではあるまい。

暗号資産の先物市場の整備、市場参加者の財務基盤強化、コンプライアンス(法令順守)の徹底が急がれる。暗号資産と金融市場の知見が必要なだけに、ゲンスラー氏は適任だ。暗号資産業界からも期待される人事だろう。

バイデン政権内でもイエレン財務長官は暗号資産に強い拒否反応を示す。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長も、「投機的」などと発言し好意的ではない。中央銀行の通貨発行・管理の外にある暗号資産は「目の上のたんこぶ」とみえるのだろう。

ゲンスラー氏に待ち受けるのは暗号資産だけではない。

オンライン掲示板「レディット」を舞台にした米ゲームストップ株の短期売買を巡っては、ネット証券が手数料を無料として個人から受けた売買注文を高速度取引業者に回してリベートを受け取る制度にメスを入れる必要がある。高速度取引が席巻する時代に、売買契約成立から清算まで2日かかるという長年の業界慣習も短縮が望まれる。契約から清算までの期間が長いと当事者の追加証拠金不足など債務不履行発生の確率は高まる。これは市場の清算インフラ構造の改革なだけに相当の時間を要する。

ヘッジファンドの空売りへの規制強化や透明化も必要とされる。空売りには、過熱した価格上昇を冷やす機能もあるので、バランス感覚が求められる。

そしてアルケゴスの問題では、個人資産の管理会社である「ファミリーオフィス」の透明化や投資銀行のリスク管理の見直しなども必要だ。

規制緩和に徹したトランプ政権時代に骨抜きにされたSECは、バイデン政権下で再建が急がれる。「規制のプロ」の腕の見せどころでもあり、ウォール街は警戒感も抱きつつ見守っている。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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