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CPI発表直前に米国株反騰 インフレに楽観論も

市場参加者が警戒する1月の米消費者物価指数(CPI)発表の直前だった9日の米国株は上昇した。背景としてインフレへの楽観論と好調な米10年物国債の入札結果が指摘される。

米国の著名投資家ビル・ミラー氏はCPIなどニュースの見出しになる数字より、市場参加者のインフレ予想を示すBEI(ブレークイーブン・インフレ率)に注目せよと説く。同指数(10年物)は年初の2.6%から2.4%に低下している。現在のインフレ基調が長期的には定着しないと市場はみているわけだ。

9日には米連邦準備理事会(FRB)関係者から発言があったが、注目はその解釈だ。

アトランタ連銀のボスティック総裁は「年内3回から4回の利上げ」を見込む。利上げ幅予測は0.25%刻みにとどめている。金融引き締めに積極的な「タカ派」とされる米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の発言としては意外感がある。市場は今や年内4回以上の利上げを織り込みつつあり3、5月の利上げ確率はほぼ100%に達しているからだ。10日発表の1月の米CPIも、市場予想は7.2%と12月の7%から加速が見込まれている。だが、ボスティック氏は、仮に前月比でインフレ鈍化傾向が続けばFRBはタカ派姿勢を弱めるだろうとも述べている。

ボスティック氏より「タカ派度」が強いとされているクリーブランド連銀のメスター総裁の発言も注目された。同氏は利上げにも資産圧縮(QT)にも積極的とされ、メディアではしばしば発言が取り上げられる。

しかし、メスター氏の講演原稿を読むと「0.5%刻みの利上げを正当化するほどの状況とは思わない。インフレに鈍化傾向がみられれば、利上げ回数は減るであろう」とも述べている。QTに関しては、住宅担保証券をアウトライト(直接)に売却することに言及した。満期がきた債券を再投資せず自然減により資産を圧縮するよりアグレシッブな引き締めだ。ただし、米国の住宅市場がすでに過熱しているのにFRBが住宅担保証券を購入して保有し続けていることが、そもそも経済合理性を欠いている。売却は不動産セクター以外では歓迎されよう。

両総裁の発言に共通するのは結局「データ次第、新型コロナウイルスの感染次第で決める」ということだ。年後半の利上げ回数となると「全てのFOMC会合がライブで、リアルタイムで決める」と述べたFRBのパウエル議長に歩調を合わせている。「ドットチャート」と呼ばれるFOMCメンバーの政策金利見通しは注目されているが、あくまでも四半期ごとの参加者による個人的な予想にすぎない。経済環境が流動的なためFRBがフォワードガイダンス(金融政策の指針)を示せないことが、市場のボラティリティー(変動性)を激化させる傾向は変わるまい。

9日の米長期金利は1.9%台前半となり、一時2019年11月以来の高さである1.97%を付けた前日からは低下(債券価格は上昇)した。要因としては10年債入札が好調だったことが挙げられる。海外投資家の購入が7割程度を占めたと伝わっている。

やはり、米国債には安全資産としての買いが根強い。政府系ファンドや年金基金、さらに外貨準備の資産として一定の需要が見込まれる。日本の保険会社や年金基金の動きも米国債の価格変動要因として常に注目されている。

FRBは経済を熱しも冷やしもしない「中立金利」を2.5%としており、米長期金利も2%を突破すれば「そろそろピークアウト」との見方が増えるだろう。ゼロ金利を解除したとしても歴史的な低金利は続く。BEIは低下してきたといっても、それを名目金利から差し引いた実質金利はマイナス圏が続いており、株式などリスク資産への投資には追い風となろう。

2年と10年の長短金利差はさらに縮小して、米国債の利回り曲線(イールドカーブ)は平たん化が進んでいる。FRBの金融引き締めへの転換が遅れ、しかも性急に利上げすることで将来の景況感が悪化するとの市場の見方を映しており、株式市場では歓迎できない。むしろFRBが保有債券を減らすことで長期金利の秩序ある上昇の素地を固め、イールドカーブの傾きを急にさせる方が経済的には健全だろう。

今週に入り、米国株の動揺は一服し、決算発表後の急落で米株価指数の変動性指数(VIX)に代わる「恐怖指数」とみなされるようになった米メタ(旧フェイスブック)の株価も9日は久しぶりに反発した。

しかし、1月の米CPIの結果に対する解釈次第で米国株はまだ乱高下が続く可能性がある。筆者としては、積極的に発言しているFRBのタカ派より、沈黙を守っている金融引き締めに慎重な「ハト派」の意見を聞きたい。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁、シカゴ連銀のエバンス総裁、そして理事時代には「超ハト派」だったFRBのブレイナード新副議長候補の認識は、どの程度修正されているのか。

9日には、ボストン連銀の新総裁にミシガン大のコリンズ教授の起用も発表された。前任のローゼングレン氏は個人的な株式投資が問題視され辞職して空席になっていたポストだ。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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