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ソロス氏もファミリーオフィスに衣替え、その実態は

米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメント問題をきっかけに「ファミリーオフィス」が問題視されている。自己資産運用会社と言う立て付けなので、当局への運用情報開示義務から除外されているからだ。その結果、創業者ビル・ホワン氏の事例のように著名ヘッジファンドが「ファミリーオフィス」に看板替えするケースが少なくない。本来、富裕層の資産を守るという目的ゆえ、保守的な運用に徹していたはずだが、近年、積極運用に走る事例が急増中だ。

ジョージ・ソロス氏も、顧客の資産運用を「卒業」して、ファミリーオフィスとして「ソロス・ファンド・マネジメント」を設立している。90歳になった御大は慈善事業に熱心で、運用はプロ任せ。それも腕利きのファンドマネジャーをCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー=運用最高責任者)としてリクルートしている。ソロス氏の右腕ともなれば名誉ある地位ゆえ、競争は激しい。ソロス氏の運用目標も厳しい。人材の去就も激しく、現CIOのフィッツパトリック氏は、部下のファンドマネージャーの首を相次いですげ替え、そのアクティブ運用ぶりがヘッジファンド業界では話題になっている。ソロス氏の息子がCIOになったときもあったが、結局、父から辞任を言い渡された。要は、運用成績が悪ければ、即解雇との姿勢である。また、フィッツパトリック氏と意見が合わず、「のれんわけ」のごとく、独立して「ソロス・ファミリー」として活動している人たちもいる。フィッツパトリック氏は「市場がパニックになれば買いに動く。市場が動揺しているときにカネを入れられる立場は優位だ」とも語っている。コロナ禍の市場では円換算で4000億円ほどを投じ、不動産関連などレバレッジ過多の企業を締め上げて年率30%のリターンを達成。暗号資産にまで運用対象を拡大している。運用総額も円換算で3兆円近くになったと報じられている。ホワン氏を負け組とすれば、フィッツパトリック氏は勝ち組ということになろうか。

なお、米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)には、一定の規模以上のファミリーオフィスに対する情報開示などの規制も盛り込まれている。ただし、対象となるファミリーオフィスの定義は条文を見ると実に複雑だ。そのような状況下でソロス・ファンド・マネジメントに関しては3カ月に1度、運用銘柄を13Fという報告様式で米証券取引委員会(SEC)に提出している。

いっぽう、業界内ではファミリーオフィスと見なされているファンドが「物言う株主」として日本企業に圧力をかけた事例もあった。

ボルタ・グローバルが浅沼組に100億円相当の特別配当あるいは自社株買いの実施に加え、100%の配当性向への方針を19年3月期に形式化するように求めたとされる件だ。このボルタ・グローバルは、スイスフランでの運用に失敗したエベレスト・キャピタルというヘッジファンドの創業者兼CIOと部下のファンドマネージャーが結成したファミリーオフィスである。アルケゴスのホワン氏同様に、看板は変わっても、ファンドマネージャーとしての血は騒ぎ、保守的運用とは名ばかりで積極運用にも走っていった。

著名投資家スティーブ・コーエン氏も、SACキャピタルというヘッジファンドを立ち上げたが、金融監督当局から、内部トレーダー監督不行き届きで、顧客資金の運用を禁止された。そこでポイント72という名称のファミリーオフィスに看板替えした。フィンテックや人工知能(AI)関連スタートアップ企業と組んだり、ダーク・プールという新たな取引プラットフォーム創設に関与したりしている。ファミリーオフィスといっても、HPに記された運用規模は円換算で約2兆円。社員数は1650人である。

なお、今年は、ポイント72が、ネット掲示板レディットの標的になり、締め上げられたヘッジファンドに名を連ね、年初以来の運用成績がマイナス10~15%といわれている。

かくして、ファミリーオフィスの積極運営事例となると、枚挙にいとまがない。アルケゴス問題の根は深い。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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