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米経済の実態、飲食業は「弁当販売中止」日本に教訓も

2日発表の米連邦準備理事会(FRB)地区連銀経済報告(ベージュブック)を読むと、米経済の回復ぶりの実態が鮮明にみえてくる。ニューヨーク市場で働く元同僚たちとの定例のオンライン会議で聞く様々なエピソードとも合致する。

その典型が飲食業だ。レストランは、いよいよ本格再開するが、どこでもとにかく労働者不足と素材価格高騰に悩む。キッチンと接客スタッフがリクルートできない。抑えつけられてきたペントアップ需要を満たそうとする来店客に対応するため、新型コロナウイルスの感染拡大中は主力業務になったテークアウトまで手が回らない。素材調達難やスタッフのシフトの関係で日曜を休業とする店も増えている。店内サービスも遅れがちで行き届かない。労働者不足は、手厚い失業保険による勤労意欲の減退や感染への不安が背景とみられている。

時短と酒類提供の自粛でどん底の日本との対比が鮮明だ。米国の事例はぜいたくな悩みと映る。とはいえ、これが日本の飲食業の半年後の姿かもしれない。東京五輪の開催にかかわらず、ワクチン接種が進めば日本でもペントアップ需要も噴出は必至だろう。そう考えれば、暗闇のなかの一筋の光明にもみえる。

米国のレストラン業を巡る今後の注目点は、コストアップの転嫁だ。ベージュブックでボストン連銀は、マサチューセッツでメニューの価格が急騰と記している。

エール大学の研究室でシラー教授と対談する筆者

住宅部門はすでに過熱傾向が顕著だ。代表的な住宅価格指数とされるケース・シラー・インデックスの3月分は、前年同期比13%の急上昇で、15年ぶりの上げ幅を記録した。この指数を開発した米エール大のシラー教授は「これまで経験のない勢いだ」とコメントしている。筆者は同教授と大学の研究室で対談したことがある。彼は熱心な株式投資家でもあり、やはり自ら開発した「シラーPER(CAPEレシオ)」による株価の割安・割高判断などから相場の見通しを説明してみせた。

ベージュブックでも各地域での過熱感が描写されている。米大統領選で激戦州だったペンシルベニア州にあるフィラデルフィアの地区連銀は住宅部門が売り手市場で、買い手の提示価格が売り手の希望価格を上回る事例が珍しくないと指摘する。決済は即現金。下見もせず、と報告している。

ニューヨーク市場の関係者とのオンライン会議でも、過熱感はしばしば語られる。

例えば、典型的な地方都市であるデンバーでは、コロナの影響でより自然に近い住宅環境を求め、州内の小都市への転居が増えている。その際にデンバーの住宅は売らず、賃貸に回すという。将来デンバーに戻りたくなっても、住宅価格は手が届かぬ水準まで高騰している可能性があるからだ。下見といっても、売り手は特に構わずほったらかし状態のまま。それでも平均1週間以内で買い手が決まるようだ。

郊外への転居で経済的に余裕ができると、共働きのうちの一人が離職する傾向もあり、これは労働参加率低下の一因となりかねない。このように「原状復帰」に戸惑う飲食業と、バブル感漂う住宅部門を重ね合わせると、今の米国経済の断面図がみえてくる。

6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は今回のベージュブックを基礎資料として議論が交わされる。金融緩和の縮小(テーパリング)について「話し始めることについて話し合う」段階だが、決断は容易ではなかろう。今や、市場のキーワードは「忍耐」。辛抱強く待つということである。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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