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音楽配信、周回遅れの日本 「着うた」でガラパゴスに

日本はサブスクリプション型の音楽配信サービスの普及が遅れている
日経ビジネス電子版

日本ではCDなど音楽ソフト市場がピーク時から3分の1以下に落ち込む一方、世界全体を見ると「スポティファイ」のようなサブスクリプション(定額課金)型サービスをけん引役に音楽産業は成長している。日本の音楽ビジネスは「周回遅れ」の感が否めない。

「日本の音楽市場はかなり独特」。こう話すのは日本レコード協会の担当者だ。CDやDVDなど音楽ソフトの市場は2020年、1944億円と19年比で15%も減少し、ピークの1998年(6074億円)から3分の1となった。

一方で、ストリーミングやダウンロードなど音楽配信市場は20年、782億円となり、19年比11%増となった。けん引するのはサブスク型の音楽配信サービスだ。同サービスに限れば、1年で25%の成長を遂げている。

日本の市場が独特なのはフィジカル、すなわちCDやDVDなどの音楽ソフトと音楽配信の構成比だ。国際レコード産業連盟(IFPI)によると、19年の世界のフィジカルの売り上げは44億ドル(約4800億円)なのに対し、音楽配信は3倍の129億ドル。配信の成長がけん引し、全体の市場規模が拡大している。

対して日本は配信が全体の3割。その比率は年々高まっているものの、世界とは市場の構造が逆になっている。フィジカルの退潮に伴って全体の市場規模が縮小を続けている状態だ。

国内で配信の普及が遅れている理由の一つはスマートフォン以前までの携帯電話「ガラケー」の存在だ。実は、日本の音楽配信市場が最も大きかったのは09年だった。世界に比べても市場はいち早く膨らんだといえる。その規模は909億円。背景にあるのは「着うた」の流行だ。

廃れた着うた文化

覆面グループ「GReeeeN」の曲「キセキ」に、青山テルマさんの「そばにいるね」など着うたでの流行曲が音楽シーンを引っ張った時代があり、配信市場が広がった。ただ、ガラケーに特化したサービスで、スマホが浸透するにつれて着うた文化も廃れた。配信市場は13年、416億円まで縮んだ。

その間に、世界ではスマホ、そして4Gなどの高速通信規格の浸透を見据え、ストリーミング型の音楽配信が登場し始める。スウェーデンのスポティファイ・テクノロジーがサービスを始めたのは08年。ネット上の海賊版への対抗策という文脈も持ちながら利用者をどんどん増やし、11年には世界最大の音楽市場、米国に上陸する。

ただ、日本ではサブスク型の音楽配信サービスがなかなか出てこなかった。着うたで稼げていたし、現状の3倍以上の売り上げがあった1990年代の「CDバブル」の残像がちらついていた。

バブルの間に確立した、シングルを発売しつつ、一定期間がたった後にシングル曲をまとめてアルバムとして発売するという日本独特のビジネスから抜けきれなかった。その上、2010年代以降は「握手会商法」などでCDの売り上げを温存しようと動いた。

日本人の気質としても「モノとして買って手元にある状態で楽しみたいという人が多い」(日本レコード協会担当者)。「音源」としてというよりも「ファングッズ」としてCDを購入する文化が日本にはある。

業界にとって、サブスクサービスはCDの売り上げ減少を加速させる要因にしか見えなかったわけだ。日本でサブスクサービスが勃興したのは、サイバーエージェントエイベックスが共同出資する「AWA」や、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)などが出資する「LINE MUSIC」がサービスインした15年。スポティファイが日本に上陸したのは、米国から5年遅れた16年だった。

配信されなかった人気アーティストの楽曲

サブスクサービスの上陸後も、一気に普及するということはなかった。人気アーティストの楽曲が配信されなかったからだ。例えば、「サザンオールスターズ」の全楽曲の配信が解禁されたのは19年末。人気グループ「嵐」の全シングル曲の配信が解禁されたのもこの頃だ。

CDの売り上げへの影響を懸念していた業界が、徐々にサブスクに頼らざるを得ない状況に追い込まれた結果、ようやく配信市場が拡大。再成長の道を歩み始めている。

サブスクの拡大はレコード会社のビジネスモデルを変える。CDなど音楽ソフト、そして着うたのような買い切り型の配信サービスは1枚、あるいは1曲あたりの価格が決まっており、どれだけ購入してもらえるかで収益が決まる。レコード会社の努力次第で、売り上げに天井はなかった。

サブスクサービスの場合、まずサービスそのものの売り上げは「定額課金×入会する会員数」で決まる。そして、曲の総再生回数の中でどれだけの回数を占めているかによって、レコード会社への配分額が決まる。つまり、売り上げの天井を伸ばすのは、会員を増やすプラットフォーマー次第。レコード会社は、配分シェアを争う構図だ。

CDの販売やダウンロードであれば、1度購入してもらった後はどれだけ聴かれても売り上げは変わらない。これに対してサブスクサービスでは、どれだけ繰り返し聴いてもらえるかが売り上げを左右する。息長く再生回数を稼げるアーティストをいかに囲い込むか。それがレコード会社の生死を分けることになる。

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版 2021年3月30日の記事を再構成]

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