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食パン1枚でホットサンド 燕三条発の新発想メーカー

(更新)
日経ビジネス電子版

家庭でホットサンドを手軽に作れるホットサンドメーカーで、1年近く生産が追い付かない状況が続いているヒット商品がある。これまでは食パンを2枚使って焼き上げるものが主流だったが、食パン1枚で「程よい」分量のホットサンドを作れることがヒットを呼んだ。新発想のホットサンドメーカーはどのようにして生まれたのか。

「ホットサンドソロ」

新潟県の燕三条地域で生まれたホットサンドメーカー「ホットサンドソロ」の販売が好調だ。開発したのは、新潟県燕市の金属加工メーカーである杉山金属が県内のデザイン会社と立ち上げたチーム「燕三条キッチン研究所」。2019年10月に発売してから、コロナ禍の巣ごもり需要やキャンプブームを背景に注文が殺到。関係会社の協力も得ながらフル回転で製造しているが、需要に追い付かない状況が続いている。

使い方は簡単。開いた状態のホットサンドソロの上に食パン1枚を置き、好みの具を載せたら折り畳んでふたを閉める。そのままコンロなどの火にかけて片面2~3分ずつ焼けば、こんがり焼き目の付いた食パン半分のサイズのホットサンドができあがる。

人気の秘密は、ホットサンドを食パン1枚で作れるようにしたことだ。これまで家庭で使えるホットサンドメーカーは食パンを2枚使うものが主流で、1枚の食パンで作れる製品は「ありそうでなかった」(杉山金属の小川陽介営業部長)。

食パン1枚でホットサンドを作る構造にした

開発のきっかけは家庭での1コマにあった。毎朝のように自宅で手作りのホットサンドを子どもとともに食べていた小川部長。自身にとっては食パン2枚を使ったホットサンドは適量だが、小学生の子どもは食べ残してしまうことが多かった。「食パン1枚でホットサンドを作れたら、子どもにもちょうどいい量になるのではと、ふと考えた」(小川部長)

食パンがちぎれてしまう

ちょうどそのころ、杉山金属は新ブランドの立ち上げを旧知のデザイン会社と模索していた。これまで70年にわたって調理器具などの金属加工を手掛けており、フライパンやケトル、食パン2枚を使うホットサンドメーカーなどを製造してきた。だが、今後のさらなる成長のためには「何か新しい風が必要。これまでとは違った目線、コンセプトで世界を広げていきたい」(小川部長)との考えがあった。

そうして17年に立ち上げたのが燕三条キッチン研究所。その第1号商品として開発することになったのが、小川家の朝食から着想した「食パン1枚で作れるホットサンドメーカー」だった。

食パンを折り畳むように焼く仕組みにすることは決まったが、開発は簡単ではなかった。1枚の食パンを折り畳むと、折り目部分に想定以上の負荷がかかってしまい、食パンがちぎれてしまうのだ。中身が漏れてしまうようではホットサンドメーカーとしての魅力は落ちる。

食パンがちぎれないようにするにはどうしたらいいか。開発チームは何度も試作を繰り返した。食パンを置く場所の深さや形状を0.1ミリ単位で調整していき、具を載せて折り畳んでも食パンがちぎれにくい構造をようやく見いだした。

折り重なったパンの耳が圧着しやすく、食感も良くなるように閉じ口を波形にするといった工夫も盛り込んだ。製品化のメドが立ったのは、開発に着手してから1年ほどが経過したころだった。

折り畳んでもパンがちぎれにくい構造を見つけだした

SNSで一気に知名度向上

開発チームは5分程度で手間なくホットサンドを作れるまでに完成度を高め、19年10月の発売にこぎ着けた。燕三条キッチン研究所が決めたブランドコンセプトは「4w1h」。キッチンという場所(Where)は変わらないが、それ以外の「Why」「When」「Who」「What」「How」を全て見直すとの思いを込めた。

ところが、当初はまったく売れなかった。ブランドの知名度が低く、商品の良さが伝わらなかったのだ。「月に数台ということもあった」と小川部長は振り返る。

流れが変わったのは20年4月。緊急事態宣言が発出され、家庭での食生活をより良いものにしたいという機運が高まっているころだった。購入者がSNS(交流サイト)でホットサンドソロを紹介した投稿に大量の「いいね」が集まり、一気に広く知られるようになった。店舗でも直営のEC(電子商取引)サイトでも注文が殺到。税抜き4500円という決して安くない価格にもかかわらず、400~500台あった在庫があっという間にはけていった。小川部長は「相次ぐ注文に、社内では何が起きているのか分からない状態だった」と苦笑いする。

好調は一過性では終わらなかった。10店舗でホットサンドソロを扱う雑貨店のロフトでは、21年1月からの約3カ月間で590台を販売した。ロフトの広報担当者は「入荷分はほぼ全て売れている状況。1人1台と制限をかけている店舗もある」と話し、「購買層は20~50代の女性が多い。自分用に買う顧客が目立つが、カップルや家族で使う人も一定数いるようだ」とみる。コロナ禍でブームとなっている「ソロキャンプ」での需要も多いようだ。

「正直、これほど売れるとは思っていなかった」と小川部長は驚きを隠さない。販売台数は非公表だが、「今でも注文が相次いでおり、生産が追い付かずお待ちいただいている状況だ」(小川部長)。

あまりの人気が負の側面も生みつつある。フリマサイトなどで定価の倍以上の値段でホットサンドソロを取引する例が出てきているのだ。小川部長は「あるべき姿でないことは十分に理解している」と話すが、地方の金属加工メーカーが急激な増産投資に踏み切るのは難しい。他の商品も並行して生産しなければならない。品薄状態はしばらく続きそうだ。

(日経ビジネス 藤中潤)

[日経ビジネス電子版 2021年3月26日の記事を再構成]

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