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武漢封鎖1年、大規模ワクチン接種に見た光と影

日経ビジネス電子版

世界に衝撃を与えた中国湖北省武漢市の封鎖から1年がたった。当初、対応が遅れたと指摘される中国政府だが、感染拡大を認めてから新型コロナウイルスの封じ込めに注力してきた。今なお世界中がコロナ禍に苦しむ中で、2020年は主要国で唯一の経済成長を達成している。この1年、中国のコロナ対策はどのように変わってきたのか。上海の大規模ワクチン接種の現場から見えてきたものとは。

◇   ◇   ◇

1月19日午後、上海市嘉定区にある体育館に市民が順番に入っていった。ここは、上海市が用意した57のワクチン接種指定会場の1つだ。

事前予約制ということもあり、特に混乱はなく粛々とワクチン接種が進んでいく。この日、接種を受ける人は、自動車大手の上海汽車集団の社員が多かった。会社単位でまとめてワクチン接種を申請したのだという。

「多くの人が受けているし、特に不安はなかった。人口密度が高い職場で部品などにウイルスが付着していれば感染が拡大する恐れもあるので、ワクチンを受ける必要性は理解している」。接種後、万一副反応が出た際に備えて会場で30分間の待機中だった上海汽車社員は、こう語った。

「上海市は1月18日までに24万人を対象に2回の接種を完了した。1回分の接種を終えた人は58万人いる」。上海市衛生当局の担当者は、市民へのワクチン接種が順調に進んでいるとアピールする。

ワクチン接種は膨大な人数が対象となる一大プロジェクトだ。そのため、様々な手順をきちんと決めておく必要がある。

中国ではまず中央政府の衛生当局が優先度の高い人を指定した。税関や検疫の職員、港湾の物流関係者、新型コロナ感染者の治療にあたる医療従事者、ビジネスや留学で海外渡航を予定する人、医療機関の一般スタッフ、政府機関や警察、消防、エッセンシャルワーカー、水道や電気、ガスなどインフラ企業の社員、高齢者ケア施設の職員などが対象となった。その後、それ以外の市民へと対象を拡大している。接種は無料との方針を打ち出した。

ワクチンは中央政府が一括管理し、各地方に数量を割り当てている。ワクチンの発注から物流までを統一管理する仕組みを整え、24時間常にセ氏2~8度に温度を保つ医療品用の冷蔵庫を各拠点に配備した。

一般的にワクチン接種において、わずかとはいえ一定確率で副反応が起きることは避けられない。中国の国家衛生健康委員会が1月9日に明らかにしたところによると、これまで約900万人に接種した中で重い症状になる確率は100万分の1だったという。こうした問題を考慮しても、それを上回るメリットがあると判断している。

今回のコロナ禍では、欧米企業が開発期間短縮のため新たな技術を用いて「mRNAワクチン」を開発したのに対し、中国企業は伝統的な手法による「不活化ワクチン」を開発した。中国製ワクチンはデータ開示が不十分との批判がある。中国政府は積極的な「ワクチン外交」を展開しており、新興国ですでに接種も始まっている。国際基準に沿った迅速なデータ開示が求められる。

ワクチン接種が始まったとしても、新型コロナの感染拡大を封じ込める取り組みの手を緩めることはできない。集団免疫が成立するに十分な人数がワクチン接種を受けられるまでには、時間がかかるからだ。「免疫の持続期間は半年ほどと考えている」と上海市衛生当局の担当者は説明する。

河北省や黒竜江省などでは移動制限も

初期の感染拡大を抑えて以降、中国で報告される感染は基本的に「輸入症例」と呼ばれる国外からの渡航者が感染していたケースがほとんどだった。だが、冬に入ってから河北省や黒竜江省などで国内感染が拡大し、大規模な移動制限がかけられた。首都・北京市でも感染者が確認されており、緊張が高まっている。

上海市でも1月20日に定期PCR検査で上海市の中心部にある病院スタッフ1人の陽性が確認された。それを手掛かりに、同僚や近隣住民、濃厚接触者、濃厚接触者の濃厚接触者など計3万2837人に検査を実施し、23日までに計12人の陽性が確認された。陽性者がいた現場の物品サンプル3028件を検査したところ、35件からウイルスが検出されたという。

濃厚接触者218人と、2次濃厚接触者518人はホテルなどで健康観察隔離対象となっている。検査対象となった人は、基本的に自宅隔離となった。いったんは陰性となってもしばらくしてから陽性になるケースがあることから、その間に人が移動することで感染が拡大することを予防するための措置だ。

市内の学校は当初25日からを予定していた冬休みを前倒しし、店舗は入場時に健康コードの提示とマスク着用を厳格に求めるようになった。そこかしこで警戒が高まっていることを感じるが、基本的には通常の生活と経済活動が続いている。陽性者が出たらすぐにエリアと対象を絞って厳しい制限をかけ、経済への影響を極小化する。現時点で、そんな中国流の新型コロナウイルス対策は機能しているといえそうだ。

新型コロナウイルスの対応を検証する世界保健機関(WHO)の独立委員会は1月18日、中間報告で中国当局とWHOによる初期対応の遅れなどを指摘したが、中国国内では報道されていない。武漢市での流行拡大期にその実情を現場から発信しようとした人が複数拘束され、その後の裁判で有罪判決を受けたケースもある。WHOの調査チームの武漢への受け入れがようやく実現したのは、今年1月14日のことだ。中国の情報統制に大きな問題があることは明らかだが、この1年間で確立したシステマチックな感染対策が市民の信頼を得ていることも否定できない。

日本では新たに河野太郎氏が担当大臣に任命され、ワクチン確保や接種スケジュール策定などの準備を急ピッチで進めている。コロナ対策やワクチン接種体制作りにおいては、先行する中国の手法を参考にできる点があるかもしれない。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版2021年1月25日の記事を再構成]

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