横浜ビール ハマの「ビアバイク」で醸造所巡り

明治時代初頭に日本で最初のビール醸造所が開設され、ビール産業発祥の地となった横浜市。いまは醸造所が10カ所以上集まるクラフトビールの街として盛り上がっている。その中心にいるのが1999年創業の横浜ビール(横浜市)だ。地元の農家や醸造所と連携し、横浜の魅力を発信する「ビアツーリズム」に力を入れている。
2021年10月、横浜港を背景に街の中をひときわ目立つ「バイク」が走り始めた。四輪の車体に屋根付きのカウンターがあり6人が向かい合ってペダルをこぎながらビールを飲んでいる。
この乗り物の正体はオランダ発祥の「ビアバイク」だ。座席の下にあるペダルをこぐと早歩き程度の速度で走行し、文字通りビールを飲みながら移動できる。ハンドルとブレーキはスタッフが操作し、公道の走行も可能だ。
横浜ビールは市内のクラフトビール醸造所や旅行会社と連携し、横浜・みなとみらいの景観を楽しみながら醸造所をビアバイクで巡るツアーを企画した。同社の担当者は「横浜・みなとみらいは徒歩圏に5カ所も醸造所があり、日本で一番密集している。ただそのことがあまり知られていない」と指摘する。
日本では同様のビアバイクは珍しいといい「燃料はビール」をうたい文句に月3回程度実施。体験したいと全国から参加者が集まっており、9月末まで予約が埋まる。
「ビールで人と街をつなげる」。同社はビールを通じた街づくりに取り組む。8月6日には初めて市内のホップ農家への収穫体験ツアーを実施した。この農家のホップを使ったビールを飲むという企画で、女性や高齢者などが幅広く参加した。

大都市のイメージがある横浜だが、市の面積の約7%は農地だ。同社は農産物をただ仕入れるだけでなく、収穫や種まきの手伝いをするなど、地元生産者との関わりを深めてきた。今後も小麦の収穫祭などの企画を検討中だ。
ビール造りもこだわりをみせる。毎年季節ごとに希少な綱島の桃「日月桃(じつげつとう)」や戸塚のブランド梨「浜なし」などを使った限定ビール「めぐりあい」シリーズを生産している。21年6月にはリニューアルし、農家のイラストを瓶にあしらった。「貴重な果実を使わせてもらっている。素材を生かすレシピの改良は毎年重ねており、自分たちの住む街で造っていると誇りに思ってもらえるように」との思いを込める。

コミュニティづくりにも積極的だ。18年からはランニングクラブを運営する。横浜の街をランニングをした後、同社のレストラン「驛(うまや)の食卓」でビール1杯無料で飲めるイベントを実施。SNS(交流サイト)を通じて募集し、毎回50~60人が参加する。
交流の輪は広がっており、フットサルや読書会など相次いで同様のクラブができた。「地元の人とビールでワクワクする機会を広げたい」(同社)。ビールの街、ヨコハマへと文化の醸成は続く。
(横浜支局 二村俊太郎)

[日本経済新聞電子版 2022年8月25日付]
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