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終電2時間も繰り上げ 中国地方にみるローカル線の現実

JR富山港線はLRT化したことで利用客が大幅に増加。赤字ローカル線再生のモデルケースとなった
日経ビジネス電子版

JR各社をはじめ鉄道会社は3月13日に大幅なダイヤ改正を予定している。新型コロナウイルスの影響が色濃く反映され、大都市圏では最大30分ほど最終電車の時刻が繰り上がる。しかしもともと利用客が少ない地方はより厳しい。最終電車が2時間以上繰り上がり、20時台で運行が終わるようになるのが山口県宇部市を走るJR小野田線だ。

◇   ◇   ◇

鉄道各社は首都圏や関西圏で最終電車の時刻を繰り上げる理由について、新型コロナで深夜帯の利用が減ったことを機に、深夜から早朝にかけての保守点検作業の時間を延ばして働き方改革につなげるのが主眼と説明する。

首都圏では最終電車が30分ほど繰り上がるだけでも騒ぎになるが、実は137分も繰り上がる路線がある。山口県のJR小野田線だ。

小野田駅(山陽小野田市)から宇部新川駅(宇部市)へと向かう列車はこれまで22時20分が最終だったが、20時3分に早まる。反対方向の最終列車は109分の繰り上げで、宇部新川駅発19時28分と異例の早さになる。この宇部新川駅にはJR宇部線も乗り入れているが、こちらの最終電車も新山口駅(山口市)の発車が現在の22時46分から21時44分へと62分早くなり、東京駅を18時過ぎに出る最終の「のぞみ」から乗り継げなくなる。

137分という大幅な繰り上げには、あるJR関係者も「JR西日本は大胆なことをしてきた」と驚く。地元でもさぞ大騒ぎになっているだろうと、宇部市役所を取材してみると、極めて冷静な反応が返ってきた。「19時台で運行が終わってしまうのは、沿線の住民にはなかなか厳しいだろう」(公共交通を所管する宇部市総合戦略局の担当者)としつつも、「通学客の多い朝夕の本数が維持されることはありがたい」(同)と話すのだ。

JR西の資料によると、小野田線は2~3時間に1本の運行で平均乗車人員は1日444人(2019年度)。宇部線は1時間に1~2本の運行本数があるが、それでも平均乗車人員は1日2450人(同)で、両線とも旧国鉄時代の廃線基準である1日4000人未満を大きく下回っている。JR西は両線の終電大幅繰り上げについて「保守点検作業の時間確保というよりも、夜間の利用者がそもそも少ない」と説明する。

「影響はない」の声 地元にも

やや古いデータになるが10年の国勢調査によると、宇部市内、山口市内、山陽小野田市内の移動手段は圧倒的に自動車が多く、鉄道の占める割合は1~3%にとどまっている。宇部線が走る宇部市と山口市の間の移動では鉄道が10%前後のシェアを持つが、小野田線が走る宇部市と山陽小野田市の間では鉄道の利用は5%ほどしかない。

宇部市は宇部興産の企業城下町として知られるが、「宇部地区の事業所への通勤は自家用車が大半。東京への出張は山口宇部空港の利用が基本なので、最終ののぞみに接続しなくなることによる影響はないだろう」(同社広報)という。宇部市の担当者も「宇部興産の最寄りである宇部新川駅から歩く通勤客を見ることはほとんどない」と話す。

加えて小野田線、宇部線には国道190号線が並行しており、日中は路線バスが多数運行されている。圧倒的なクルマ社会である当地では、商業施設や医療施設もロードサイドに集積。そのためマイカーで移動できない層にとっても、鉄道よりも停留所が多い路線バスのほうが利便性が高い。鉄道と並行する路線バスの利用者は約5000人と、鉄道を上回っているという。つまり、鉄道の存在感が極めて薄いというのが実態なのだ。

マイカー社会で公共交通の需要が少ない上、さらにその小さなパイを鉄道と路線バスで食い合う問題は宇部市も認識してきた。しかし鉄道は沿線の高校への通学の足として重要で、「ピーク時の利用客を通常の路線バスで輸送するのは難しい」(宇部市)という。

そこで宇部線の線路をバス専用道路とし、110人が乗車できる連接バスを使ったBRT(バス高速輸送システム)に転換できないか、JR西、沿線の3市で勉強会を立ち上げ、調査を行ってきた。路線バスの利便性と、鉄道の輸送力や定時制を両立しようと考えたのだ。

しかし結論は厳しいものだった。20年12月に公表された報告書によると、線路を撤去したり、バスを導入したりする初期費用に約153億円がかかると試算された。国からの補助を加味しても、約71億円をJR西と地元自治体で負担する必要がある。また運行経費も年間で約7億円かかる。運賃収入は、路線バスの運賃を基準とすれば8億6000万円で黒字となるが、鉄道の運賃水準を維持すれば4億3000万円にとどまり、採算性にも疑問符が付く。

折しもコロナ禍。行政はマンパワー、財政共に新型コロナへの対応に追われている。「BRTにしてもマイカー社会がすぐに変わるわけでもなく、コストに見合う将来像が想定できない。直ちに取り組むべき課題ではない」(宇部市)として、勉強会は休止することとなった。

宇部市の担当者は「コロナ後は移動ニーズが変わるかもしれず、将来の自動運転車の普及も考慮しなければ」と話す。この判断が吉と出るか、凶と出るかは分からない。ただ少なくとも、最終電車が大幅に繰り上がり、運行本数が減って、鉄道の存在感がますます低下することだけは確かだ。

JRと自治体との足並み乱れる

コロナ禍で余裕がなくなっているのは宇部市だけではない。岡山県の岡山駅(岡山市)と総社駅(総社市)を結ぶJR吉備線では、約10年後の運行開始を念頭にLRT(次世代型路面電車)化の協議が進められてきたが、岡山市と総社市、JR西の3者は2月9日、協議の中断を発表した。

政令指定都市である岡山市を走る吉備線は、LRT化で駅数や運行本数を増やすことで、利用客数を増やせると見込まれていた。JR西としては、LRT化した富山市の旧富山港線(第3セクターの富山ライトレールを経て、現在は富山地方鉄道が運営)に次ぐ、ローカル線の経営分離・活性化の事例になるはずだった。

国の補助を除いた総事業費160億円について、18年4月にJR西と地元自治体との負担割合で合意に達していたが、コロナ禍で自治体の財政やJR西の業績が悪化。3者はLRT化の方向は変わらないとしているが、いつ実現するかは見通せなくなった。

JR西の長谷川一明社長は、コロナ禍に伴う乗客減により新幹線や大都市圏の収益で地方ローカル線の赤字を補う内部補助のスキームは限界に来ていると話す。

3月のダイヤ改正では、幹線とされている山陽本線ですら大幅な減便に踏み込む。岡山県・広島県・山口県の都市部から離れた区間では、日中の運行本数を1時間に2本から1本へと半減。「コロナで利用客が減っているため」(長谷川氏)だが、1時間に1本しか電車が走らないとなれば、さらなる利用客の減少を招きそうだ。

長谷川氏は赤字ローカル線について「鉄道以外の交通手段への転換コストが負担できるうちに持続可能な交通体系を提案したい」としている。しかし、自治体の反応は鈍い。このままではその機を逸し、座して死を待つことになりかねない。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版2021年2月25日の記事を再構成]

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