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「辞めてしまえ」会長の叱責、役割悟る 森圭子さん

ダイキン工業執行役員(折れないキャリア)

NIKKEI STYLE

「こちらが当面のスケジュールです」。井上礼之会長の執務室に入るや、スケジュール帳を机に乱暴に置いて、そそくさと退勤した。入社10年目のこと。前日夜に後輩の育成方針を巡って井上会長と衝突した。「お前に何が分かる。辞めてしまえ」と怒鳴られた。翌朝出勤するとそのまま執務室に足を向けたのだ。「会社を辞める覚悟だった」

1990年代、ダイキン工業は国際市場に打って出た。世界を駆け回る井上会長の専属秘書兼通訳として新卒採用された。父が商社マン、小1から中1まで米国で暮らした。堪能な英語を生かせる仕事だ。

ただ担当業務はスケジュール管理と通訳にとどまらない。経営層直属のプロジェクトに関わり、企画立案や社内調整も担う。労使交渉の根回しに駆け回ったことも。黒子に徹し、ときには汚れ役もいとわない――それがプロの秘書だと信じて後輩を厳しく指導した。それを井上会長にたしなめられたのが口論の原因だ。「頑張ってきた自分自身が否定された気がして、感情的になってしまった」と今は笑顔で振り返る。3日欠勤した後、人事部長の仲裁で会長秘書に復帰した。

ダイキン工業は女性社員を修羅場で鍛える方針を持っている。森さんの修羅場は35歳で訪れた。新入社員研修の総責任者を任された。新人と指導役など約200人が5泊6日で会社のスピリッツを学ぶ伝統行事だ。総責任者は例年本部長クラスの男性が担う。女性は初。しかもまだ課長になったばかりだった。

「自分が先頭に立たなくては」。責任感と気持ちが空回りして、全体をまとめられなかった。中盤から開き直り、気負いを捨てた。大集団を1人でカバーできるはずもない。任せられる部分は誰かに任せる。やり方を見直すと、新入社員のムードも一変。最終日には一体感が醸成されていた。

「会長になぜ叱責されたのか。今なら分かる」。適性や意欲は人それぞれ。自分の尺度で人を測ってもうまくいかない。個性に目を向け、潜在能力を引き出すことがリーダーの役割だと経験を積んで悟った。

入社以来、ずっと秘書一筋だった。今年執行役員に昇格し、人材育成を担当する。「誰もがモチベーション高く働けるよう、社員一人一人と対話していきたい」と意気込む。

(聞き手は編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞朝刊2021年10月25日付]

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