女性の政治進出、日本は先進国最低 駐日大使の解決策
19日、衆院選が公示された。政党候補で女性が占める割合はおよそ18%。「2020年代の早期に指導的地位における女性が占める割合を30%に」との政府目標には遠く及ばない。日本での女性の政治参加をどう見るか。女性リーダーの活躍が進むノルウェーのインガ・ニーハマル駐日大使と英国のジュリア・ロングボトム駐日大使に聞いた。(文中敬称略)

ニーハマル「ノルウェーでは、ジェンダー平等が長年にわたって重要な課題です。今年はノルウェーの国会に初めて女性議員が選出されてから100年。ただ、本格的な女性進出が始まったのは1970年代に入ってからで、わずか50年前のことです」
「いまでは国会議員の約45%が女性です。政党に女性候補者枠を義務づける法律はありません。しかし有権者は女性候補者を擁立せず、女性を代表しない党には投票しないでしょう」
ロングボトム「英政府は女性の政治参加を人権と捉えています。英国は現在、下院議員に占める女性の割合が34%と過去最高です。今年のジェンダーギャップ指数で、政治における順位は下がってしまったのですが、他国が進歩していることの表れでもあります」
ニーハマル「日本がランキングを下げた理由は、他国で女性の政治進出がより進んでいるからです。教育と健康の面では、日本の女性は世界トップクラスの水準です。政治・経済の分野でも積極的な役割を果たす準備ができていることは明らかです」

ニーハマル「ブルントラント氏は医師としてキャリアを始めたとき、利用できる保育園がなかったことが政治に従事する動機を与えたと語っています。身近な問題と政治への関心が、女性の政治参加を増やすきっかけとなっています。女性自ら声を上げ、力を主張し、社会を変革しました。権力を最初から与えてくれる人はいないからです。女性の政治指導者は、他の分野でも女性のリーダーシップを刺激します」
「日本の女性らしさの概念は非常に狭いと思うことがあります。女性が多くの分野に参入し、ロールモデルになれば、さまざまな分野で女性のリーダーシップが発揮されるでしょう」
ロングボトム「英国の主要政党は女性のリーダーを迎えたことがあります。これは日本との大きな違いだと思います。女性の候補者がいなければ、人々は女性に投票できません。政党の役割は非常に重要です。英国では政党の自主的な取り組みで女性議員が増えてきたといえます」
「90年代、労働党が野党のときに、どうすれば支持率が上がるのかについて調査しました。多くの女性は『女性が直面する課題を理解していない』という理由で労働党に投票しないことが判明しました。結果として当時のトニー・ブレア党首は女性候補者数を増やしました」
「保守党には『Women 2 Win(ウィミン・トゥー・ウィン)』という、女性候補者をトレーニングし、政治参加に結びつくツールを提供する支援組織もあります。英国の政党は、女性候補を立てることが自分たちの党勢拡大、選挙での勝利といった利益に結びつくことがわかったのです」

ロングボトム「日本では女性への社会的な期待、規範が課題の一つになっていると感じます。だからこそ、もっと多くの女性が政治家になる必要があるのです。そうすれば若い女性も自分の将来像として、権力・影響力を持つ女性を目にすることができます」
「日本では政治家を含むすべての職業の労働環境を見直す必要があると思います。ノルウェーの初代女性首相が指摘したように、保育園がなかったり、親自身が仕事を続けるのが不可能なほど労働時間が長かったりすると、誰にとっても厳しい状況です」
「ジェンダーとは女性だけを意味するのではありません。すべての人を意味します。カップルが男女であろうと、女性2人であろうと、男性2人であろうと、性別をはっきりさせたくない人であろうと、家庭と仕事を両立できるような働き方を実現することは、社会にとって重要です」
ニーハマル「心から同意します。構造的な問題が女性の労働参加の障害となっています。保育園の不足や男女に共通する長時間労働に加えて、現行の税制が抱える問題は働きたい女性を落胆させています。しかし、これらの問題は改善できます。日本の女性は『何を変えたいのか、何を達成したいのか』と自問すべきです。女性が男性に代表されることに満足しなければ、女性自身が指導者や政党に問題と解決策の両方を指摘できるはずです」
「また、政治家が『男女共同参画に賛成だ』と言うたびに『それを促進するために何をしているのか』と問われるべきです。ジェンダー平等に真の前進をもたらすのは具体的な行動です」
女性活躍 掛け声だけで終わらせない
両大使は繰り返し「政治とはその国の社会状況の映し鏡だ」と語った。「いつか男性だけに代表されることに耐えられなくなる人が増えるのではないか」という指摘もあったが、女性にとっては身近な困りごとへの具体的な政策が見えず、政治への距離が遠ざかるといった悪循環が起きている気がしてならない。
ウプサラ大学助教授で政治経済学を専門とする奥山陽子氏は「女性議員の増加は政策の優先順位、立法活動に影響を与える」と海外の事例を踏まえて指摘する。女性議員は子育て政策や医療、健康に関わる分野に着目するという。そのうえで奥山氏は「民主主義は、全市民が参加するときに最もうまく機能する」と説く。日本では「女性活躍」が唱えられて久しいが、掛け声だけに終わらせない時が来ている。
(山下美菜子)
[日本経済新聞朝刊2021年10月25日付]
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