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「失敗恐れない」元宇宙飛行士が語るスペースXのスゴさ

ギャレット・リースマン氏 1998年、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士に。2008年と10年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在。ISSで日本の実験棟「きぼう」設置にも携わった。11~18年までスペースX勤務。NASAとの橋渡しや、有人宇宙船の打ち上げを準備するチームを率いるディレクター・オブ・スペース・オペレーションズを務めた。現在はスペースX顧問、南カリフォリニア大学教授(提供:Garrett Reisman、http://garrettreisman.com/)
日経ビジネス電子版

2020年は地球に住む人類がいかに脆弱な存在であるかを思い知らされる1年だったように思う。新型コロナウイルスが私たちの暮らしを大きく変え、これまでの当たり前が当たり前ではなくなった。

一方で、数多くの科学者や技術者たちが取り組んできた「未来の技術」にスポットライトが当たった1年だったとも感じる。筆者が技術誌に在籍し仮想現実(VR)技術を取材していた10年ほど前は、VRによる遠隔勤務や旅行などが本当に必要なのか疑問に思っていた。でも今なら、「移動しない」選択肢をつくっておくことがどれだけ重要かが分かる。時代の先を見て技術を開発する科学者や技術者には頭が下がる。

02年にイーロン・マスク氏が火星への移住計画を目的に宇宙開発ベンチャーのスペースXを設立し、16年に後に「スターシップ計画」と呼ばれる、巨大な宇宙船で火星に人類を送り込む計画を発表したときも、本当にニーズがあるか疑問だった。でも今なら「なるほど」と思える。

パンデミック(世界的大流行)を体験して、人類が地球以外の惑星に脱出したくなる日が来るかもしれないと考え直したことが一つ。さらに、スペースXが筆者のような凡人の予想をいい意味で裏切り、猛スピードかつ着実にスターシップ計画につながる技術を確立していることも大きい。

同社は06年にロケットの発射実験に着手してからたった14年で有人宇宙船の打ち上げに成功した。20年5月30日に民間企業として初めて2人の宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)に輸送した後、11月15日にも宇宙航空研究開発機構(JAXA)の野口聡一氏を含む4人の宇宙飛行士をISSに送り込んだ。

12月1日にマスク氏はドイツのメディア企業のインタビューに答え、26年までの有人火星飛行の実現に「強い自信を持っている」と話し、「運が良ければ24年の実現もありうる」と付け加えた。火星移住はもはや絵空事ではなくなってきたのだ。

なぜスペースXは、これほど短期間で有人宇宙船を打ち上げられるほどの高い技術力を身につけられたのか。火星移住計画の第一歩は、マスク氏の言う通り数年のうちに踏み出せるのか──。

08年と10年にISSでの任務にあたった元米航空宇宙局(NASA)宇宙飛行士で、現スペースX顧問・南カリフォリニア大学教授のギャレット・リースマン氏に、こうした疑問をぶつけてみた。聞けば同氏はNASA時代、筑波や東京で訓練を受け、日本の実験棟「きぼう」のISSでの設置にも携わった親日家だった。

◇  ◇  ◇

――12月9日にスペースXは大型宇宙船「スターシップ」の無人実験機をテキサス州の研究開発施設から打ち上げました。スターシップは月や火星などへの惑星間飛行を実現するための機体として開発されたもので、使い捨てではなく地球に着陸させて、丸ごと再利用できるタイプです。残念ながら今回の着陸は失敗して爆発してしまいましたが、どんな気持ちで見ていたのですか。

「スペースXが生み出してきた数々のイノベーションが集約された機体なので、とても興奮して見ていました。技術が進展して機能が飛躍的に向上し、信頼性も増しているのにコストは下がっている。とても良い傾向です」

「自宅で家族と一緒に中継を見ていたのですが、もうすぐ10歳になる息子がそれはもう大興奮して……。スターシップが飛び立った後、再び地面に着陸しようというタイミングで自分自身もおなかから机の上にダイブして、胸に青あざをつくったほどです(笑)」

「確かに着陸は『ナイス』とは言えませんでしたが、期待以上の成果を上げられました。私から見れば、何が正常に機能しなかったかも含めて素晴らしいニュースでした」

――息子さんはお父さんと同じように宇宙飛行士になりたいのでしょうか。

「本人はそう言っています。どうなるか分かりませんが……(笑)」

誰もやろうとしなかった「再利用」

――スペースXが持つ技術の中でも、革新的なものは何ですか。

「スペースシャトルと同じように機体を再利用できる技術を確立したことが業界に革命をもたらしました」

「米国がスペースシャトルを高い頻度で宇宙に飛ばすことができたのは、船体部分を再利用できて経済的だったからです。それでも外部燃料タンクは使い捨てで、開発費が高額になっていました」

「スペースシャトル以外の一般的なロケットは、すべてが使い捨てです」

「スペースXはまず(大気圏を突破する推力を得るための)ブースターを、打ち上げ後に地面に着陸させ、再利用する技術を確立しました」

「スターシップでは、人を乗せる宇宙船も回収することを狙っています。実現すれば100%再利用可能になるのです」

「再着陸させる発想自体は以前からありましたが、誰も着手してこなかったのは、実現が技術的にとても難しいからです」

――再着陸はそんなに難しいのですか。

「いったん大気圏を出た機体を再び大気圏に突入させるので、高温から機体を守るのはもちろん、さまざまな方向に回転する機体を安定させ、着陸間際に減速してソフトランディングさせなければなりません。非常に精緻な制御が必要になります」

「加えて、あくまで目的は再利用なので、なるべく機体を傷つけないようにする必要があります。傷だらけで着陸すれば、修理にまたコストがかかって意味がないからです」

「一つひとつの問題を解決するのも大変なのに、これらすべてを一気に解決しなければならないので、とても難しいのです。ほとんどの人がこれまで挑戦しようとも思わなかった理由がここにあります」

「失敗」が開発スピードを加速する

――それほどまでに難しい技術を、なぜスペースXは短期間で確立できたのでしょうか。

「要因は、大きく2つに集約できると思っています」

「一つは、非常に優秀な技術者を集めたこと。もう一つは、そんな優秀な技術者のやる気を最大限に引き出し、かつ失敗を恐れないようにしたことです」

「スペースXでは、机上で何年も考え込んで素晴らしい設計図を描くことよりも、実際に造って試してみて、描いた設計図が本当に機能するかどうかを試すことを優先させます」

「失敗は私たちにたくさんの知恵を授けてくれます。失敗すると、現在の設計の問題点がたくさん見えてくる。それらをすべて修正し、また実際に試してみると、今度は別の問題が見えてくる」

「これをスピーディーに繰り返すことで、どんどん成功に近づいていく。失敗を早く重ねることこそが、スペースXが短期間で高い技術力を身につけられた一番の要因ではないでしょうか」

リスクを取らない開発は「損」

「私の古巣のNASAでは、こうはいきませんでした。NASAだけではありませんが、既存の宇宙開発産業では、安全を優先するあまり、リスクをなかなか取れないのが一般的でした」

「もちろん、有人飛行で安全は何より優先すべきことです。でも、長く業界にいると、リスクを取ることを恐れるあまり、それほどリスクがない部分まで及び腰になってしまう傾向にありました」

「スペースXは、人命に影響があるなどの致命的な結果を招かない限り、たとえ大きなリスクであったとしても積極的に取ります。これも開発のスピードを速めた要因だと思います」

――でも「爆発」は決して安くありません(苦笑)。

「そうですね(笑)。スターシップの爆発などは決して安いとは言えませんでした」

12月9日の実験で着陸に失敗し、爆発したスターシップの実験機=ロイター

「もちろん、何でも無謀にやっていいわけではないですが、コストも実は、実際にやってみて失敗したほうが安くつく場合が多いのです」

「というのも、失敗を恐れて実験をしなければ、同じ問題を解決するのにもっと長い年月がかかってしまいます。高給で優秀な技術者を長期間、雇い続けなければなりません。でも失敗をしてそこから学べば、結論に早くたどり着けます。失敗は、それほど数多くの知見を技術者に与えてくれるものなのです」

シャトル発射前に見たスペースXの取り組み

――リースマンさんご自身がスペースXに入ったのはどんな経緯だったのですか。マスク氏から連絡があったのですか。

「いいえ、私からマスク氏にアプローチしました」

「私がNASAの宇宙飛行士になったのは1998年。2008年にスペースシャトル『エンデバー』でISSへ行き、95日間、滞在してから『ディスカバリー』で帰還しました。10年に再び『アトランティス』でISSへ向かう日、雨で発射が延期になり、私たちクルーに奇跡的に1日のお休みが与えられました」

ニューヨーク近郊のニュージャージー州出身のリースマン氏はヤンキースファンとして知られる(提供:Garrett Reisman、http://garrettreisman.com/)

「その時、私たちが希望したのが、近くの古い発射台をリノベーションして発射準備をしているという新興企業の見学をすることでした。スペースXです」

「彼らの様子を見学した途端、彼らが『本物』であることを確信しました。ものすごいスピードで発射台をよみがえらせて、自社のロケットを打ち上げる準備を整えていました。NASAなら数年かかるような仕事を数カ月で成し遂げていたのです」

「マスク氏と意見が合わないこともあった」

「地球に帰還後、当時、スペースXのバイスプレジデントを元NASA宇宙飛行士の友人が務めていたので、相談してカリフォルニア州の本社を訪問させてもらいました。そこでまたスペースXの仕事の進め方にさらに感動したのです」

「その後、スペースXについて勉強した後、マスク氏にアプローチし、11年に入社しました。それから18年に顧問に退くまで、NASAとの橋渡しや有人宇宙船打ち上げオペレーションのチームの統括などを担当しました」

――マスク氏と働くのは、正直なところ、どんな感じだったのですか。

「スペースXの職場は、とてもエキサイティングである一方、大変でもありました。非常に優秀な技術者たちに囲まれて、毎日のように新しい予期せぬことが起きて、うれしい成功もたくさんあって……」

「でも非常に難しい任務を高いプレッシャーの中で遂行しなければならなかったので、簡単ではありませんでした。ストレスも多かったように思いますが、その分、やりがいもありました」

「マスク氏とは……最初の頃は意見が合わないこともありました」

(日経BPニューヨーク支局長 池松由香)

[日経ビジネス電子版 2020年12月23日の記事を再構成]

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