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Go Toの裏にある事実、旅行会社の倒産「奇跡の数字」

多くの旅行会社が倒産を免れている。観光業の倒産件数と国内旅行延べ宿泊者数の推移。注:倒産件数は帝国データバンク、宿泊者数は観光庁調べ。20年の数字は倒産件数が11月、宿泊者数は10月までの集計
日経ビジネス電子版

年末年始の一時停止が決まった政府の観光需要喚起策「Go Toトラベル」事業。苦境を訴える業界の声とは裏腹に、2020年の旅行業の倒産件数は低い水準にとどまる。新型コロナウイルス禍での業界支援は必要だ。だが一律の支援措置が長引けば、業界の新陳代謝を遅らせる可能性がある。

信用調査会社の関係者が「奇跡の数字」と呼ぶ調査結果がある。帝国データバンクが12月11日に発表した国内旅行会社の倒産件数だ。

2020年1~11月の倒産件数は24件。月換算すると2.18件で、00年以降で4番目に少ない。同社の別の調査では、ホテルや旅館の倒産件数も11月までで111件と、リーマン・ショックで景気が冷え込んだ08年や、東日本大震災で旅行需要が低迷した11年よりも低い水準で推移している。

しかし、観光業界を取り巻く環境が厳しいのは周知の通りだ。観光庁の調査によると、20年1~10月の国内の延べ宿泊者数は前年同期と比べると半分の水準にとどまる。

帝国データバンクがまとめた景気動向を示す景気DIでも旅館・ホテル業は緊急事態宣言下の4月に1.5に落ち込んでいた。基準値は50で、リーマン・ショックの影響が広がった09年1月で16.3、東日本大震災後の11年4月でも10.1にとどまった。「過去にないレベルで外部環境は悪化しており、本来なら業界が全滅してもおかしくない」と信用調査機関の関係者はみている。

こうした状況下でも倒産件数が少ない理由は、コロナ下での手厚い支援にある。実質無利子・無担保融資や、雇用調整助成金、持続化給付金といった一連の支援策に加え、7月からはGo Toトラベル事業が始まった。新型コロナウイルスという自助努力の範囲を超えた外部環境の変化によって苦境に立たされている以上、業界への支援は必要だ。だが、一律の支援を続ければ競争力のない企業を温存させることにもつながる。

インバウンドが課題を覆う

そもそもコロナ以前から業界はいくつもの課題を抱えていた。既存の旅行会社はオンライン化に乗り遅れ、競争力がそがれていた。宿泊業界も新陳代謝の遅れが指摘されていた。特に旅館業界は「コロナ以前から稼働率は平均4割程度で、長年にわたって供給過剰だった」(東京女子大学の矢ケ崎紀子教授)と評されている。団体旅行の衰退とともに経営が悪化した事業者が多く、観光庁が5月に実施した調査によると、生産性が低く赤字傾向のため債務返済のめどが立っていない旅館は全体の約3割を占めている。

それでも近年はインバウンド客の増加で業界は活気を取り戻し、09年施行の中小企業金融円滑化法によって、経営困難な事業者でも資金繰りが改善しやすくなった。新型コロナで受けた大きな打撃は、好調な外部環境を背景に業界が長年の課題を先送りにしてきた反作用とも言える。

「観光業は地方の雇用の受け皿で、新陳代謝に伴う雇用の喪失に注意が必要」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの高津斌徳チーフコンサルタント)という視点は欠かせないだろう。それでもコロナ禍で実施されるさまざまな公的支援が長引けば、後年の国民負担は増える。今後は事業が継続できるようにするだけでなく、ビジネスの仕組みを変えるよう促すことが求められる。廃業支援を視野に入れた施策も必要になるかもしれない。

(日経ビジネス 白井咲貴)

[日経ビジネス電子版2020年12月23日の記事を再構成]

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