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生理データに子宮内善玉菌 フェムテックは女性の味方

バリノスは自社の検査施設で、子宮内フローラを分析する
日経ビジネス電子版
生理前のイライラした気持ちに、じんとする下腹部の痛み。そして、妊活、更年期障害のときに感じる目まいや体のほてり……。年齢を重ねるごとに、避けられない女性の悩み。こうした女性が抱く体や健康への不安をテクノロジーでサポートする「フェムテック」の分野が盛り上がっている。フェムテック は「female」と「technology」を掛け合わせた造語。新市場として、さらに企業の福利厚生としても求められているフェムテックの最前線を追う。

「以前は排卵日が来たら焦る気持ちもあった。今はチャンスが増えたようで楽になった」──。

こう話すのは、スマートフォンアプリ「ルナルナ」の利用者だ。ダウンロード数が1600万件を超えるルナルナでは、ユーザーは生年月日などのプロフィル、生理が始まった日と終了日、基礎体温などを登録する。それらのデータから独自のロジックを用い、月に1度の「排卵日」に加え、妊娠確率の高い5日間がいつになるかを予測する。有料プランでは基礎体温をもとに、より妊娠しやすい日などの情報を配信する。パートナーとの妊活を考える女性にとって心理的な負担の軽減につながる。

アプリ「ルナルナ」上では生理の予定だけではなく、妊娠の可能性が高い期間などを表示する

アプリを使う会社員の女性(33)は「排卵日は月に一度しかない、と捉えるのではなく、期間で表示されるのはありがたい。不妊治療中だけれど、自分の夫に対しても、生活に対しても心に余裕ができたかもしれない」という。

排卵日の予測といえば、1924年に荻野久作医師によって考えられた「オギノ式」が国内ではよく使われている方法の1つ。28日間の生理周期を前提とし、生理が始まる14日前を排卵日と推定する。ただ生理周期には個人差があり、100年前と今では食生活や生活リズムも異なるため、実際の排卵日とずれてしまうことも少なくない。

アプリ「ルナルナ」を運営するエムティーアイでは、20~45歳までの妊娠を希望する15万人のうち、病院などの検査で排卵日を特定できた7043人を抽出。月経周期と排卵時期の相関関係を分析し、排卵日や妊娠の確率の高い5日間を予測する独自のロジックを見つけ、2014年からサービスに実装した。

同社でルナルナの事業を担当する那須理紗氏は「オギノ式と比べ妊娠の確率が上がったというデータもある。生理痛やつわり、妊活などについては女性の間でも悩みや事情が異なっており、男性だけでなく、女性同士でも理解を深めるきっかけになれば」と話す。

70年の常識を覆す?

20年近くにわたってユーザーの記録を蓄積してきたエムティーアイが保有する生理に関するデータは世界でも有数の規模。こうしたビッグデータを通じ、東京医科歯科大学、国立成育医療研究センターなどと協力し、31万人の女性の生理周期のデータを活用した共同研究を開始した。

20年9月に公表した研究結果は、生理周期が年齢によって変化するというもの。23歳で平均30.7日、45歳で最も短い27.3日となり、以降は再び生理周期が長くなる。

現在の生理周期や年齢による変化は1950年代の研究結果を基にしており、70年近く続いてきた常識が変わる可能性もある。研究データを生かすことで、生理周期のずれに悩む女性の不安を取り除いたり、適切なタイミングでの医療受診につながったりするのではないかと、研究チームは見ている。

現代女性の生涯の生理回数は約450回とされ、100年前のおよそ9倍に増えているといわれる。初産の平均年齢が30代を超えたことや、生涯に産む子供の数が減ったことが背景にある。おのずと、月経前症候群(PMS)や生理痛などと向き合う回数も増える。

那須氏は「女性の人生は多様化している。ストレス、年収など様々な因子と掛け合わせ、ヘルスケアの面でサポートできる支援サービスを開発したい」という。データの活用が進めば、「平均的な女性」といった枠にはめるのではなく、それぞれの生活、年齢、職業、ライフスタイルから自身の体とうまく向き合えるようになる。

妊活をサポートする「善玉菌」

医療スタートアップのバリノス(東京・江東)は、子宮内の善玉菌を検査するサービスを世界で初めて実用化した。同社が調べるのは子宮内にいる乳酸菌の一種で「ラクトバチルス菌」と呼ばれる善玉菌。膣(ちつ)の内側の粘液を採取し、分析する。子宮内にどのような菌が含まれるのかを調べ、善玉菌や悪玉菌の比率を割り出す。東京大学医学部付属病院など全国に約100の協力病院がある。

子宮内には菌がいないという定説を覆したのが、15年の米ラトガース大学の研究だ。子宮内に善玉菌が存在し、その後、他の大学の研究で善玉菌の豊富な女性の方が妊娠の確率が高いことも分かった。仮にラクトバチルス菌の割合が低くても、専用のサプリメントを飲むことで子宮内の菌の環境が改善する可能性は高い。

バリノスは桜庭喜行最高経営責任者(CEO)と、長井陽子最高技術責任者(CTO)が共同で立ち上げたスタートアップ企業だ。2人とも遺伝子機器装置で世界最大手の米イルミナの出身。それぞれ病院や専門機関で研究員としての経験を持つなど、いわば遺伝子検査のスペシャリスト。バリノスを起業したきっかけは、海外では遺伝子検査分野が多様なスタートアップを生む成長産業であること。そして、日本が世界有数の「不妊治療大国」であることだ。

日本産科婦人科学会が20年に公表したデータによれば、日本ではおよそ16人に1人が体外受精によって生まれ、米国のおよそ30人に1人よりも割合としては多い。不妊治療を受けるカップルは増えているものの、体外受精の成功率は日本では低いとされる。

成功率が低い要因の一つに挙げられるのが晩婚化だ。日本では初産の平均年齢は30歳を超える。不妊の要因は男性と女性、それぞれに考えられる。バリノスの桜庭CEOは「体外受精のピークの年齢で見ると、成功率が日本より高い米国は34歳、一方の日本では40歳。35歳を過ぎると妊娠の可能性が落ちてしまうことも分かっているが、日本の女性にこうした事実が届いていない」と話す。著名人の高齢出産が話題となることも多く、高齢出産でも問題ないといった考えが広がっている側面も否めない。

バリノスは妊活専門の情報配信サービスを手がけるファミワン(東京・渋谷)と協力し、自宅まで検査キットを郵送し、子宮内の善玉菌を分析するサービスを始める。バリノスの桜庭CEOは「クリニックに行くことに抵抗がある女性にまず検査キットを手にとってもらいたい。妊娠が少しでも頭の中にある女性には、こうしたサービスをきっかけに妊活、出産、婦人科の受診を考えてほしい」という。

フェムテック市場には多種多様なサービスは出てきているが、女性の体の負担がなくなったわけではない。データやアプリ、最新の技術は女性の不安や心配を軽くするだけかもしれないが、女性が主体的に生きる上での味方になることは間違いない。自分にあったサービスやツールをうまく使っていく必要がある。

(日経ビジネス 大西綾)

[日経ビジネス電子版2021年1月22日の記事を再構成]

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