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三菱もコロナ禍でかみしめる 岩崎弥太郎「今こそ挑戦」

(更新)
三菱重工業は小型ジェット機の納入延期を繰り返していたところに、コロナ禍による旅客需要消失の直撃を受けた
日経ビジネス電子版

スリーダイヤのマークはもう、かつての輝きを取り戻すことができないのだろうか。

無論、日本を代表する旧財閥系・三菱グループのこと。2020年秋、東京都内で開かれた三菱創業150周年の式典は、コロナ禍という時世も重なり、お祭りムードと呼ぶには程遠い状況だった。

いわゆる「御三家」トップはみな、「変革」「巻き返し」の必要性を強調、危機感をあらわにした。三菱重工業の宮永俊一会長は「大転換期の中でまた新しい芽が出て新しい三菱グループが出来上がっていくと信じている」と話し、三菱商事の小林健会長は「それぞれの企業が社会変革にもがいている」と語った。150年の歴史を誇る三菱各社とて、かつてない逆風の中で今まさにもがきの渦中に身を置く。

御三家で相次ぐ「首位陥落」の現実

無理もない。御三家だけ見ても明るいニュースに乏しく、例えば三菱商事は伊藤忠商事に時価総額で抜かれた。三菱UFJフィナンシャル・グループは2020年3月期の連結純利益で、三井住友フィナンシャルグループに追い越された。三菱重工業は小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」で迷走し、事業凍結に追い込まれた。

では、ここからどう立て直していくのか。首位陥落が相次ぐ三菱にあって、宮永氏が式典であえて引き合いに出したのは、「『挑戦者』として第一歩を踏み出した原点に立ち戻る」という点だ。

挑戦──。つまりは、150年の歴史を経て巨大グループになったものの、現状に甘んじていたり、新領域の開拓に躊躇(ちゅうちょ)していたりする部分はないか。新型コロナウイルス禍という危機だからこそ、自社の歴史や創業者(ファウンダー)の声と行動をひもとき、危機克服と未来へのヒントを探るべきだ。そんな思いがにじむ。

三菱グループの誕生は1870年。幕末の動乱期、土佐藩の後藤象二郎、板垣退助らが海運事業を手掛ける「九十九商会」を設立したことが源流だ。この際、岩崎弥太郎がかじ取りを任され、これが三菱の始まり。「挑戦者たれ」の精神は、弥太郎の教えである。弥太郎は海運事業だけでなく銅鉱山、炭鉱、海運から派生して金融、倉庫業などにも取り組み、三菱グループの礎を築いていった。スリーダイヤのマークも当時、船に使った印が原型になっている。

「三綱領」。これは、弥太郎から小弥太まで初代から4代にわたる社長が受け継いできた精神をまとめたものだ

1つは「所期奉公」。今風に言えば、「企業は社会の公器たれ」という言葉に近い。2つ目は「処事光明」、フェアプレーに徹することだ。そして3つ目が「立業貿易」。時代は違えども、常にグローバルな視点で事業展開と稼ぎ方を考えよ。そう説く。

「三綱領」を掲げる御三家首脳(右から三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長、三菱重工業の宮永俊一会長、三菱商事の小林健会長)

「しがらみ」乗り越え「挑戦」続けられるか

「歴史をたどれば困難な時代にこそ、次の時代を創り出す原動力が生み出されてきた」。三菱UFJの平野信行会長はこう指摘する。

各社ともに激動期で土俵際に追い込まれている今、「三綱領」にのっとった行動をとれるか。片やデジタルトランスフォーメーションに、国内外を含めた最適なポートフォリオ大改革、脱炭素への流れにあわせた事業転換……。明治時代の殖産興業や富国強兵、戦後の高度経済成長に沿って重厚長大産業を軸に事業を拡大させてきた三菱にしては、幸か不幸か、コロナ禍でようやく訪れた「避けては通れない課題」に対し、現状ではあまり挑戦的とは映らない。社内にでさえこんな声がある。

前述の式典で平野氏も「三菱グループは率直に言って、やや自前主義のところがあり、よりオープンなイノベーションによって打ち破っていかないといけない。それが、これだけ激しい流れの時代に生き残っていくための道ではないか」と語った。

いつの間にか、長い歴史の中でついてしまった「砂鉄」や「しがらみ」。三菱の原点は、幕末から明治の近代に新興勢力としてのしあがった挑戦者の姿勢のはずで、多くの強い事業を持ち、長年「組織の三菱」と称されてきた。だが今や「たこつぼ経営の集合体」との指摘さえある。岩崎弥太郎が打ち出したダイナミズムの中から「変化を恐れるな」との学びをかみしめ、反転攻勢できるか。そんな姿勢が問われている。

コロナ禍で「ファウンダーの教えに救われた」。そう表現しても言い過ぎではない企業もある。ファスナーの世界大手、YKKだ。「土地っ子になれ」──。創業者の吉田忠雄氏が残した代表的な言葉の1つである。

「地域の事業会社の資金繰りは大丈夫か」。新型コロナの感染拡大で世界経済が大混乱に陥った20年春、世界各地域の売り上げが半減するほどの大打撃の中、同社で威力を発揮したのが地域ごとのグループファイナンスの仕組みだ。

簡単に言えば、世界を6つのエリアに分け、域内で上がった利益をプールしてグループ会社が平等に使えるというもの。資金ショートが続出しかねない事態を防ぐ受け皿になった。大谷裕明社長は「本社からの送金を待たずして、各事業会社が雇用も守った上で乗り切った」と話す。

YKKは世界6極、72の国・地域でファスナー事業を展開している

コロナ禍で生きた「土地っ子たれ」「善の巡環」

もともと「土地っ子になれ」は、吉田氏が1950年代から海外進出とファスナー生産の現地化を進める上で、自らとYKK社内に言い聞かせてきた言葉だ。「進出先の社会との共存共栄」する以外に成功はないと考え、海外赴任者には「まるでその土地で生まれたように溶け込め」と説いた。

YKK創業者の吉田忠雄氏は拠点を置く地元社会にどう貢献するかを重視した

現地雇用、原材料の現地調達はもちろん、その土地で得た利益はその土地に再投資するという考え方が基本になっている。

中国には「高品質で不良のないファスナーを作れば、中国製の衣料品の価値が必ず上がる。成果が上がれば賞与という形で利益を必ず再配分する」と伝え続け、今や売り上げや利益で約3分の1を稼ぐようになった。

インドでは工場敷地内に保育所をつくったり、近隣に住む女性向けの職業訓練センターを運営したりした。

いずれも吉田氏の言葉を借りれば「善の巡環」という別の考え方の延長線上にある。関係者がみな「土地っ子」となり、「善の巡環」を続けていれば、仮に危機に直面した場合であっても「助け合い」へと変わるというわけだ。

吉田氏が今の時代に起こるこれほどの危機を想定していたかは別として、事実、70年余りの月日を経て、コロナ禍で資金のエリア内のスムーズな融通につながった。今回の対応にYKK社内、世界で見ても異論を唱えた人はいない。

YKKの大谷裕明社長は「善の巡環」を引き継ぐ。「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」との教えだ

「社会に貢献するほど、巡り巡って自らの事業も発展するんだ」。大谷社長は、入社して間もなく香港に駐在した1980年代前半、ファスナー工場が入るビルの落成式で熱弁を振るった吉田氏の姿が今も目に焼き付いている。

YKKは創業から非上場を貫き、顧客、取引先、従業員、社会との共存共栄を目指す「大家族主義的」な経営をする。株主価値の最大化を最終目標とし、格差や分断の根源になっているなどとして批判さえ渦巻くグローバル資本主義とは一線を画す。そして「いつになっても偉大なる中小企業であれ」。吉田氏はこんな言葉も残している。同社としては、経営の形や方針が底流からぶれることなど当然なさそうだ。

我が身にも染みる「絶対にやってはいけないこと」

無論、アフターコロナに向けてなお課題は多いが、大谷氏は「一つ一つが小さい組織でも、小回りが利けば結果に対して機敏に動ける。地域事業会社のどこかの調子が悪くても、残りがしっかりやれば全体では良い数字が残せるだろう」と話し、ファウンダーの教えの本領が今後ますます発揮できるはずと自信を見せる。

「ねまり弁慶のごたむき」──。数多くの金言を残してきた吉田氏だが、社内、特に経営層への戒めの言葉として繰り返してきたものもある。

吉田氏の出身地である富山県の方言を使った言葉で、「ねまり弁慶」は、「自分で動かずに人を使おうと偉そうにする人」を指し、「ごたむき」は、「あれこれごたくを並べる」の意味だそうだ。

背筋が伸びるような気持ちになるのは、YKK社内の人間だけではないだろう。

(日経ビジネス 岡田達也、中沢康彦)

[日経ビジネス電子版2021年1月19日の記事を再構成]

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