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日本電産・関社長「3年3割賃上げで生産性5割高めたい」

関潤(せき・じゅん)氏  日本電産社長。1984年防衛大学校理工学専攻機械工学専門課程卒。86年、日産自動車入社。生産部門などを歩き、2014年、専務執行役員、19年執行役副最高執行責任者(COO)に就任した。20年1月、日本電産に特別顧問として入社し、4月から現職(写真 太田未来子)
日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの感染拡大第3波は収束の兆しを見せず、日本経済への逆風は強まり続ける。産業景気は今、どう動いているのか。世界の環境規制強化で市場が拡大する電気自動車(EV)用モーターからサーバー、家電、エレベーター用など多様なモーターを生産する日本電産の関潤社長に、景気の実感を聞いた。また、カリスマ経営者として知られる永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が打ち上げた「社員の報酬を3年で3割上げる」という賃上げで、生産性を大幅に引き上げ、「2025年には社内の文章はすべて英語になる」という大胆改革についても聞いた。

――新型コロナウイルスの感染拡大第3波が収まりません。首都圏に続いて大阪、兵庫、京都、愛知、福岡などでも緊急事態宣言が発出され、計11都府県に拡大。昨年末以降の景気の情勢をどう感じていますか。

「いいところと悪いところがはっきりと出てきているという感じですね。例えば、自動車関連の需要は昨年途中から全体的には回復基調なんですけれども、2019年より上回っているのは中国だけなんですよね」

「ほかの地域はやっぱり前年並みまでは回復してないです。欧州は10~12月は(19年を100として)96%ぐらい。北米も似たようなものです。日本はもう少し下で85%とか90%くらい。中国が1人気を吐いていて120%ぐらいでしょうか」

「それでも中国は(自動車販売の)ボリュームが非常に大きいので、世界全体で見るとぎりぎり100%、19年並みという感じですかね。全体的に回復基調だけれども、中国の回復具合が抜きんでているというのが自動車ですね」

エレベーター用モーターなどビル関連需要は鈍化

――日本電産は家電や商業、産業用モーターでも強いですが、状況はどうですか。

「家電は非常に特徴があって、今は冷蔵庫とかが非常に伸びていますね。当社は冷蔵庫用のコンプレッサーを作っていますけれども、商業用、家庭用とも非常に伸びています。個人の巣ごもり消費で家庭用が売れるということもありますが、スーパーなどの業務用冷蔵庫も増えています」

「それと、今一番のトピックとしては、超低温冷蔵庫のコンプレッサーが結構出ているんです。新型コロナのワクチンの保管用なのではないでしょうかね。あとは、掃除機用モーターや物流施設で使う自動搬送機の需要も強いですね」

「ただ、エレベーター用のモーターなど、建築関連はスローダウンしています。少し待っている感じでしょう。(テレワークの拡大などで)計画があってもこのまま建てて大丈夫かということなのか、その関係でエレベーターとかは非常にスローです」

――一方で自動車の電動化といった環境対応の動きは、コロナ禍の中でも止まりません。日本は30年代半ばまでに販売する新車をEVやハイブリッド車(HV)にするという目標を打ち出し、中国も35年までにガソリン車の販売を止め、米国もカリフォルニア州で同年までに同様の規制をするようです。経済の中の明暗という意味では、これは「明」の部分ですか。

「(EV用モーターやそれを中核にした駆動システムの)引き合いは非常に増えています。自動車メーカーさんが相手なので、受注まである程度時間は必要ですが」

「昨年9月初めに欧州で温暖化ガスの規制強化の話が出て、あれからだんだんざわざわしだして、10月に中国政府から35年ガソリン車完全撤廃というのが出た。そこから急に引き合いが来ている感じですね。自動車業界って、そんなに発作的に動かない業界なので偶然かもしれませんけど、もともと動いていたところにそんな発表があったというところでしょうか」

――とはいえ、自動車メーカーは、車の心臓部であるパワートレーンを外部に任せるのは、相当ちゅうちょしそうです。EVの市場構造はどうなるでしょう。

「私も18年末ごろまで、某自動車メーカーの商品企画のトップをやっていたのでよく分かるんですけれども、自動車メーカーにとってパワートレーンというのはやっぱり心臓です。その大事な部分を人に預けるわけにはいかないという、ノスタルジーみたいなものはあります。なので、やはり普通に考えると自分たちで作ろうと考えると思いますね」

「ただ一方で自動運転や電動化、シェアリングなどCASE革命という大変化がある。そこにすごい資金が必要になるので、限られた原資の中で外に任せられるところは任せて、自分たちでやるところに徹底的に力を注ぐ。中国の自動車メーカーはそこをきっぱり割り切って、ぼーんと動くわけです。モーターはお前のところでいいやとかね」

自動車メーカーの戦略は分かれる

――欧州メーカーはどうですか。日本電産は仏グループPSAとEV用モーターの製造で合弁会社を作っています。

「そうですね。ドイツや日本の伝統的な自動車メーカーは当然、自分たちでEV用モーターを作ろうという考えのようです。ただ、そうではないところもある」

「例えばPSAは、当社と合弁をやって完全に主導権は渡さない。半分つかまえておいて開発・製造はあなたたち、やってよということです。今はPSAもFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と経営統合を決め、規模は世界4位になろうとしています。EVには非常に力を入れていますね」

「PSAはバッテリーもエネルギー会社と合弁で開発・製造に乗り出すなど同じ戦略を採っています。結局、EVに強いところはそういう形を取っていくのではないでしょうか。今、中国がこの分野で非常に抜きんでようとしていますから、合弁で専門メーカーの力を借りながら、主導権は渡さないというこんな戦略も出てくるはずです」

――その後はどうなるでしょう。かつて家電メーカーも、モーターや液晶などの開発を自前でやることにこだわりましたが、結局そうはなりませんでした。

「電動化は大きい車と小さい車でどこから入るかというと、やっぱり小さい車側から入ってくる可能性が高いでしょう。その時、高級車の方は自動車メーカー自身がEVモーターなど電動化を自分たちでやって、小さい方の車のモーターは他社に任せるみたいな傾向が出るのかもしれないですね。分かりませんが」

「でも結局、価格や機能などのパフォーマンスが見えてくると収れんしていくのではないでしょうか。仰るとおりかつて家電はその経路をたどってきたんですよね。家電メーカーもモーターやコンプレッサーは自分たちでやると言っていたのですが、小さい方から外に出していって、高級商品は自分でやっていたんだけれども、結局全部外に出すことになった。似たような絵になっていく可能性があると思います」

――これからが激戦の時代になるわけです。それでも30年までにEV用モーターなどで世界シェア40~45%という高い目標を掲げています。ライバルとの差はなんですか。

「1つは、我々はこれが初めてじゃないということです。当社の飛躍のきっかけになった1980年代以降のパソコンなどのハードディスク用モーターでは、今までなかった市場に、どうやって製品を投入して高いシェアを取るかという戦いを経験しています」

「同じような準備をやっていくということですね。重要な部品や重要な設備は内製化していく。よそに頼らないと。重要な部品とか重要な設備でメーカーが限られていると、一挙に需要が拡大したような時にそこがボトルネックになって伸ばせないといったことが起きる。そういうことを理解しているわけです」

社内書類はすべて英語で作成することになる

――しかし、半導体など容易ではないものもありますね。以前から永守重信会長は半導体メーカーを買いたいと言われていました。まだ、その考えに変わりはありませんか。

「半導体メーカーうんぬんはともかく、やりませんよとは言えない。必要だったら買ってきますよ」

――ところで、永守会長は今後3年で3割賃上げをするという考えも表明されました。かなり高いハードルです。

「ぜひ挑戦したいと思っています。これは1つは従業員に対する投資です。賃金を上げる代わりにもっと個々の能力を高めてほしいとも考えています。今、やってもらっている仕事に対して賃金を3割乗せるのではなくて、3割乗せるのでもっと効率的に仕事をしてほしい。質のいい仕事ですね」

「コアな仕事とそうでないものがぐちゃぐちゃになってやっているのを、コアな部分に集中してやる。ノンコアなところは自動化したり、外部に出したりする。そうやって仕事の質を高めて生産性を上げるわけです。少なくとも3割、可能であれば5割ぐらい生産性が上がると思っています」

――5割も生産性を上げるのは、かなりハードルが高いですが。

「例えばデジタル化です。残念ながら当社はまだ遅れています。もっとデジタルトランスフォーメーション(DX)をやっていく。人材のダイバーシティー(多様性)にしても、弊社は結構おじさん、それも日本人のおじさんの会社なんです。ダイバーシティー化を進めながらですが、例えば25年ぐらいに社内のほとんどの書類は英語になると思います。日本語の書類を作らないで最初から英語だけでやれと」

「今、海外の拠点とのやりとりでは日本語と英語の併記になっていたり、日本語の書類と英語の書類に分かれていたりするんですけど、それ2つ作っているということになりますよね。そんなことも変えていきます」

(日経ビジネス編集委員 田村賢司)

[日経ビジネス電子版2021年1月18日の記事を再構成]

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