生理用品「白色」以外はNG?フェムテック市場に法の壁

女性のカラダなどの悩みをテクノロジーで解決する「フェムテック」が注目されている。一方で普及には規制の壁も立ちはだかる。「吸水ショーツ」など生理中に使える製品が登場するものの、従来の生理用ナプキンとは別物で広告に規制がかかり、認知度が上がらない。流通する際の法律の整備など課題を政治主導で解決する取り組みも始まった。
量販店などの店頭にカラフルな吸水ショーツが並ぶ。吸水ショーツは吸水性、防水性のある布を何層も重ね、1枚の下着に仕立てたものだ。生理用ナプキンをつけずに使用可能で、装着や交換に伴う負担を軽減できる。繰り返し洗って使えるため、ごみを減らし、持ち歩く荷物を少なくできる点でも注目されている。
吸水ショーツ、「生理」「経血」の説明なし
これまでスタートアップ企業が中心となって市場を育ててきたが、大手も参入し始めた。ファーストリテイリングは9月、「エアリズムキュウスイサニタリーショーツ」を発売した。薄紫や茶など色も様々で、おしゃれな印象だ。
ところが商品の説明文をみると「30~40ミリリットルの水分を吸収」などとあるだけで、「経血を吸収」といった説明はない。生理という言葉もない。販売サイトのコメント欄には「どのように使えばいいのか? 詳細を記載してほしい」ととまどう声も寄せられる。
一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム(MFC)によると、国内のフェムテック商品・サービスの数は2020年に97と、前年(51)からほぼ倍増した。経済産業省の調査では商品・サービスの普及で25年には2兆円の経済効果を見込む。
中でも吸水ショーツは代表的な商品だ。だが冒頭の例にもあるように、普及には課題が見えてきた。規制の壁だ。
日本では生理用品を製造販売する事業者は、改正医薬品医療機器法(薬機法)や厚生労働省が定める「生理処理用品製造販売承認基準」に基づき、都道府県か厚労省から承認を得る必要がある。ところが基準をみると、生理用品は「白色」「においがほとんどなく、異物を含まない」との記載がある。吸水ショーツには当てはまらない。
フェムテック商品のオンラインストアを運営するフェルマータ(東京・品川)の杉本亜美奈最高経営責任者(CEO)は「基準で言う生理用品とは、要するに紙ナプキンを意味している」と説明する。そのため吸水ショーツのような新たな商品は承認を受けられず「生理用品であるということを明確に言えない点が、普及の壁になっている」。
直接的な広告表現できず
現時点では吸水ショーツは、特定の品質基準が設定されていない「雑品」に分類される。そのため「経血を吸収」など直接的な広告表現はできない。最終的な判断は都道府県に委ねられているが「ナプキンを使わず着用可能」などの説明も薬機法に抵触する可能性がある。広告表現が曖昧になる原因はここにある。
規制は生理用品にとどまらない。フェムテックで先行する米国などでは、自宅でおりものの状態を測定し体の状態を検査する機器など幅広い商品が流通している。一方、日本の薬機法ではこれらの製品に該当する分類がなく、承認が受けられないものも多い。

「課題解決へ政治の俎上(そじょう)に載せよう」。前衆院議員の宮路拓馬氏らは昨年10月、フェムテック振興議員連盟を立ち上げた。今年6月までに7回の会合を重ね、フェムテック製品普及に向けた法整備を求める提言を提出。6月に閣議決定した「骨太方針2021」には「フェムテック」の文字が初めて盛り込まれた。
遅ればせながら行政も重い腰を上げ始めた。厚労省や事業者により、フェムテック製品の薬機法上の位置づけを検討する産官ワーキンググループ(WG)が始まった。
法令上の位置づけが不明確
6月から月2回のペースで会合を開き、吸水ショーツを繰り返し洗った場合の吸水力や抗菌性検査など、厚労省が審査できる環境整備に向け議論を進めた。シリコーン製で膣(ちつ)内に挿入して経血を受け止める「月経カップ」についても、品質に関する自主基準設定に向けWGで議論する。
おりものを分析して妊娠可能かを測る機器など「各種デバイス」の扱いも話し合う。1年をめどに各製品の薬機法上の位置づけ、必要な規制などについて結論を得る。

転職サイト「女の転職type」を運営するキャリアデザインセンターが8月、女性会員818人に行った調査では使ってみたい生理用品に約3割が吸水ショーツ、2割が月経カップを挙げた。フェムテック商品への関心は高い。
MFCの青木勇気事務局長は「法令上の位置づけが不明確なままでは、粗悪品が出回る危険性もある」と指摘する。フェルマータの杉本CEOは、生理用品が脱脂綿から紙製のナプキンに移った60年前の変化を例に挙げ「7年間で市場の7割がナプキンに変わった。市場拡大には法制度などの環境整備が必要」と話す。

生産性が改善するといった目線だけで議論すべきではないが、フェムテック製品の普及により、結果的に女性が働きやすくなることもあるだろう。振興議員連盟によって生理が政治の世界でオープンに語られだしたのを契機に、働く女性を取り巻く環境整備が進むことを願う。(小林伸代)
[日本経済新聞朝刊2021年10月18日付]
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