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大分、アジア初の「宇宙港」 決め手は温泉と町工場

米ヴァージン・オービットは航空機で人工衛星を打ち上げる「水平型宇宙港」に大分空港を選んだ(出所:Virgin Orbit/Greg Robinson)
日経ビジネス電子版

「大分がアジア初の宇宙港に」──。2020年4月、米ヴァージン・オービット(カリフォルニア州)と大分県が提携し、22年の人工衛星打ち上げを目指すという計画が突如発表された。20年9月には内閣府の「宇宙ビジネス創出推進自治体」にも選定。地元では、大分が宇宙産業の一大拠点になるかもしれないと新産業創出に期待が高まる。

宇宙港(スペースポート)とは、宇宙船の離着陸場の総称だ。大分県の計画では、国東市の大分空港を活用。ジャンボジェットがロケットを抱えて離陸し、空中から発射させる「水平型」の宇宙港を想定する。

大分県に宇宙港の話が持ち上がったのは19年のこと。アジアで拠点を検討していたヴァージン・オービットが、国内で宇宙港開港のために活動する一般社団法人「スペースポートジャパン」(東京・港)に相談を持ち掛け、大分空港が候補として浮上した。

大分空港がヴァージン・オービットの目に留まった理由は大きく3つある。1つ目は地理的条件。打ち上げ用ジャンボジェットが離着陸可能な3000メートルの滑走路があることや、離陸後すぐに洋上に出られる海の近さなどの条件がそろっていた。

2つ目は、産業基盤の存在だ。大分には自動車産業や精密機械産業に携わる企業が集積しているため、ロケットや人工衛星の部品生産やメンテナンスに地元企業の技術を活用できる。例えば、H3ロケットでは多くの部品で自動車用部品が使用されているなど、自動車や電子分野と宇宙産業との親和性は高い。18年には、大分県内の中小企業4社と九州工業大(北九州市)が人工衛星「てんこう」を共同開発。打ち上げに成功し、宇宙領域で実績のある企業も出てきた。

そして3つ目が別府温泉や由布院温泉などの観光資源だ。将来的に、宇宙港の周りには打ち上げ事業者やエンジニア、宇宙旅行へ向かう旅行客や見学者など多くの人が集まる。海外では砂漠のど真ん中に宇宙港がつくられるケースもある中、地上の観光資源は集客の強みになる。スペースポートジャパンの青木英剛理事は「アジア中から観光客が来る可能性もある。『宇宙港経済圏』と呼べるほど大きな波及効果が期待できる」と話す。

大分県国東市の大分空港。2022年に最初の打ち上げを予定している

宇宙旅行の事業開始が迫り、各国で人工衛星の打ち上げが活発化したことで、宇宙港へのニーズは世界中で高まっている。海外の試算では地域への年間経済効果は100億円とも言われ、米ニューメキシコ州では州政府が約200億円を投じて更地に宇宙港を整備した。大分県先端技術挑戦室の佐藤元彦室長は「降って湧いたような話。このビッグチャンスを絶対にものにしたい」と意気込む。宇宙ビジネスという新産業によって雇用を創出できる上、製造業や観光産業など既存の産業もさらに大きく育つ可能性を秘めている。

「誰でも宇宙」時代へ

「宇宙港とは何をする場所か」「人工衛星を使うと何ができるのか」──。ホテルや土木、輸送、保険会社まで。宇宙ビジネスのコンサルティング会社minsora(大分市)の元には、連日相談に訪れる人が後を絶たない。高山久信代表は「どんな産業にもチャンスはある。宇宙を使ってビジネスをしたい、大分を良くしたいという地元の期待感は大きい」と話す。

ただ、9割以上を官需に頼ってきた国内宇宙産業には、エコシステムが確立されていないなど課題も多い。宇宙産業の人材はわずか9000人ほどとも言われ、新事業として宇宙領域に飛び込みたくとも、手がかりや知識がなく難しいといったハードルもある。

大分では、民間が主体となって宇宙分野で産業創出する仕組みをつくろうとする取り組みも始まった。2月26日に一般社団法人「おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)」(大分市)が発足。民間主体で宇宙ビジネスや人工衛星利用の需要を掘り起こし、必要であれば法やインフラ整備について国や県に提言する。3月16日には意見交換や情報共有をする交流拠点「スペースベースQ」も開設。「宇宙を活用すれば地域課題を解決できる可能性もある。実現性や継続性を織り込んだビジネスモデルを早急に描く必要がある」(高山久信専務理事)

宝くじに当たるような話が持ち上がり、地域が一丸となって宇宙産業創出に向かって走り出した大分県。宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)が22年2月に大分で開催されることが決まるなど、さらなる追い風も吹く。「誰でも宇宙」の時代が、訪れようとしている。多くの県民が「宇宙産業に関わっている」と口にする日も遠くないかもしれない。

(日経ビジネス 橋本真実)

[日経ビジネス電子版 2021年3月17日の記事を再構成]

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