札幌・二条市場、「Go To トラベル」一時停止で再打撃

国の観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止の影響で、再び苦境に陥っている。コロナ禍以降、インバウンド需要の激減で消えた活気を、取り戻しつつあった直後の出来事。「何をどうすればいいか分からない」状況まで追い込まれている。その影響について、札幌二条魚町商業協同組合の佐々木一夫理事長が語った。
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少しずつにぎわいを取り戻しつつあった札幌市の中心部、二条市場が再び、人通りがまばらな状況に戻ってしまいました。2020年12月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、札幌市が、大阪市と並んで国の観光支援事業「Go To トラベル」の対象地域から外れた影響が早くも出た格好です。その後、Go To トラベルは全国一斉で停止となり、年が明けてからは先が全く見えない状況になってしまいました。
二条市場は明治時代に開設された市場であり、100年以上の長い歴史を持っています。多くの人が訪れる大通公園や歓楽街として全国的にも知られるすすきのからも近く、札幌の街のど真ん中といっていいところにあります。
古くからの店も多く、北海道の新鮮な食材を扱う店や飲食店がそろっています。カニなどの水産品や干物などを扱う店のほか、メロンやジャガイモなどの果物や野菜を扱う店もあり、「北海道の旬の味」を楽しめる場所として発展してまいりました。
復活したバブル期の活気
私は市場にある24店が加入している札幌二条魚町商業協同組合の理事長を務めています。福岡県出身の私は高校を卒業後に北海道に来て魚市場などで働いた後、40年ほど前に結婚を機に二条市場にある宮田商店に入りました。
当時の二条市場は、観光客が1~2割ほどにとどまっており、多くが地元のお客さんでした。しかしその後、周辺にスーパーができたことなどを受け、次第に観光客向けの商売にシフトしてきました。
そんな市場の活気は、1990年代前半のバブル経済の崩壊を機にいったん底まで落ちたかに見えましたが、7~8年前から状況が変わってきました。インバウンド(訪日外国人)が一気に増加したのです。
地域別には東南アジアなどからの観光客が数多く訪れ、イートインコーナーなどでカニやホタテ、メロンなどを食べる姿が日常的になりました。お土産も、干した貝柱やナマコなどが人気となり、中には電卓と片言の日本語で商談し、数百万円分の買い物する人も出てきました。

国のインバウンド政策と歩調を合わせ、2020年1月には免税カウンターなどを備えた観光インフォメーションセンターも設置しました。振り返ればあの頃はまだ「今年は市場にとってこれまでにない飛躍の年になりそうだ」と思っていました。
それが2月ごろから、コロナ禍が深刻化し一変しました。まず、2月中旬からインバウンドがほとんどいなくなりました。それでもこの段階では、まだ卒業旅行などで訪れる国内客がいたのですが、2月末に、北海道が独自の緊急事態宣言を出したことでこちらもほぼ姿を消しました。4月に国が緊急事態宣言を出したのを受け、私は自分の店を4月から休業しました。国の緊急事態宣言が5月で終わっても二条市場の観光客はなかなか増えませんでした。市場では人通りが少なく、私は店を開けても赤字になるだけだと判断し、6月以降も休業を続けました。
そんな状況が好転するきっかけとなったのがGo To トラベルでした。とりわけ10月から、それまで除外されていた東京都がGo To トラベルの対象になると、市場は活気を取り戻し始め、私も店を再開しました。
私の店でいえば、ここ数年は、地域別には地元の北海道より、東京を中心とした首都圏からみえられるお客さんの方が多い状況でした。それだけに、Go To トラベルの対象に東京が加わった効果は大きかった。
もちろん、再開にあたってはフェースシールドや消毒液を整えるなど、新型コロナウイルス対策に万全を期しました。思っていた通り、10月以降は、うちの店でも地域共通クーポンが毎日どんどん集まり、多い日には10万円分ほどになりました。その結果、10月の売上高は、何とか例年の半分くらいまで戻りました。
しかし、そんな状況が長く続かなかったのは既にお話しした通りです。Go To トラベルの一時停止により、二条市場の灯は再び消えてしまいました。私の店では採算ラインが1日の売り上げで25万円ほどなのですが、昨年暮れは店頭での売り上げが1万~2万円という日もありました。状況は年が明けても変わらないため、私の店は1月4日から再び休業しています。首都圏で再び出された緊急事態宣言が終わり、Go To トラベルが再開するまで営業の再開は難しいかもしれません。
あと2年、どうしのぐのか

これだけ感染者数が増えてきている以上、Go To トラベルの一時停止は仕方がないことだとは思います。こうなってしまった以上、国はまず全力で感染拡大を防ぎ、1日も早くコロナ禍をどうにかしてほしいです。これまでは打つ手が遅かった印象がありますし、これからは、もっと早めに手を打ってほしいと思います。
腹立たしい気持ちはありますが、いろいろ考えるとコロナ禍はあと2年ほど続くのではないでしょうか。経営者として何とか手を打たねばならないのは重々承知していますが、どうしたらいいか分からないのが正直なところです。ネット販売に力を入れている店もありますが、それほどうまくはいっていないようです。
干した貝柱などインバウンド向けの商品は在庫になっており、いずれ期限が来るのも気がかりです。近くのすすきのでは飲食店などが相次いで閉店していると聞きます。
私どもも20年は何とか持ちこたえましたが、21年はどうなるのか見当がつきません。国にはサポートをもっとしてほしいと思います。同時に、できるだけ多くの皆さんに、コロナ禍が落ち着いたらぜひまた、北海道に観光に来て二条市場に立ち寄ってほしいと思います。
[日経ビジネス電子版2021年1月15日の記事を再構成]
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