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コロナ禍が生んだコメのジン 岩手県二戸市の南部美人

NIKKEI STYLE

岩手県北部の山あいにある南部美人(二戸市)。1902年創業の老舗酒蔵が造るクラフトジンが「和食に合う」と国内外の日本料理店から引き合いが増えている。飲んだ後味にコメのうまみが残って相性が良いという。そんな一風変わったジンは、外食需要を直撃した新型コロナウイルス禍をきっかけに生まれた。

「南部美人クラフトジン」は日本酒を醸造した後に蒸留して造るのが特徴で、200ミリリットル入りと700ミリリットル入りの2種類を用意。二戸市が国産漆の7割を占める主力産地であることに着目し、香りを付けるボタニカルとしてジュニパーベリー(セイヨウネズの実)に加え、樹液採取後の漆の木もあぶって使う。

ジンの製造に乗り出したきっかけは、コロナ禍で日本酒の需要が急減したことだった。感染拡大防止へ政府が外出自粛や飲食店への営業時間短縮などを盛り込んだ緊急事態宣言を2020年4月に初めて出して以降、同社の出荷量も減少。契約栽培している原料の酒米が余ってしまう問題が起きた。

久慈浩介社長は「酒米の栽培面積を減らすと、農家は食用米の生産に切り替える。需要が回復した時に再び酒米を生産してもらっても、以前と同じ品質を保てるかわからない。余るからといって栽培面積を減らせばいいわけではない」と話す。

余剰酒米を消費するには、ワインなどのように長期間熟成させる酒を造る方法もある。だが、長期熟成に向く味に変えるなど熟成中の管理も含めた新たな酒造りのノウハウが必要になるうえ、消費者に受け入れられるかも未知数で、経営上のリスクが高いという。

そこで久慈社長が思いついたのが日本酒から蒸留酒を造るアイデアだった。「酒米を大量に消費できるうえ、常温で長期間保管できる。コロナ禍で消毒液不足が問題化したときは日本酒用の醸造アルコールを消毒液代わりに提供したが、高濃度アルコールを造る設備を持てば、同様の事態が再び起きても備えられる」

蒸留酒のうち、原料にウイスキーのような決まりがないジンに加えてウオッカも選択。市内の製造工場「馬仙峡蔵」に蒸留棟を21年春に新設した。ドイツ製の蒸留器も導入して試作を重ね、700ミリリットル瓶1本の蒸留酒をつくるのに約2.7リットルの日本酒を消費できることも確かめた。

ジンとウオッカは21年8月に発売にこぎ着けた。ウオッカについては、蒸留後のろ過にシラカバの活性炭を使用。久慈市と葛巻町の境に位置するシラカバ美林の名所、平庭高原では、寿命70~80年とされるシラカバが姿を消し始めていることから、炭の需要を生むことで定期的な植樹が進むように後押ししていく。

「蒸留酒は日本酒よりも保存が利き、出荷時期の自由度が高まる。余った酒米を消費するには合理的な手段」と久慈社長。「岩手の漆と炭はどちらも生産量日本一。ここでしか造れない酒で国内外の消費者を魅了し、地元を盛り上げたい」と目を輝かせる。

(盛岡支局長 青木志成)

[日本経済新聞電子版 2022年7月14日付]

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