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飲食店とは運命共同体 運転代行業にも迫る廃業の足音

会津若松市の中心部は、外出自粛と時短要請の影響で昼夜ともに静まり返っている。本田氏は「飲食店と一体で運転代行業をしてきた」と話すが、想像以上の苦境と補償の落差にため息が漏れる
日経ビジネス電子版

福島・会津若松で運転代行業を営んできたが、新型コロナウイルス禍で状況が一変した。街の夜の明かりも人通りも消え、「利用者が片手で数えられる日」が続く。公的な補償も十分とは言えず、忍び寄る廃業の足音にあらがう手段を見いだせていないと、とまと運転代行(福島県会津若松市)代表の本田裕康氏は語る。

◇  ◇  ◇

とまと運転代行代表 本田裕康氏 1952年福島県生まれ。帝京大学卒業後、会津若松市役所へ。その後、地元建設会社勤務、建設会社立ち上げを経て90年に運転代行業に転身。現在、加盟事業者42社の会津若松・美里地区運転代行業協議会の会長も務めている

新型コロナウイルスの感染拡大の影響は私たち運転代行事業者の経営も確実にむしばんでいます。営業地盤の福島・会津エリアもその影響の例外ではなく、公的な補償も飲食店に比べ少ない。これから事業を続けていけるのか、私を含め事業者はみな真剣に悩んでおり、経営は岐路に立たされています。

都会に住む方々にとってはあまりピンとこないかもしれませんが、会津をはじめ各地方にとって、運転代行は重要インフラ、生活インフラなのです。街の電車の本数もタクシーの台数も限られる地方にとっては、欠かせぬ移動手段。飲食店とは切っても切れない関係にあり、代行業者がいるからこそみな安心してお酒が飲める。「飲食店と運転代行業者は一体」。そう思って30年、営業を続けてきました。

「あって助かった」の声に安堵

弊社の場合、料金は初乗りで1200円、3キロメートルで1700円。タクシーに比べても良心的な設定になっていると思います。会津若松市の中心部には居酒屋やスナックなどが500店ほどあり、私が事業を始めたのは、夜はこの街で楽しく飲んでもらいつつ、飲酒運転による事故をこの世からなくしたいという思いからでした。利用する人は官公庁に勤務する人、学校の先生なども多かったですね。

最盛期には車の保有台数は10台以上あり、従業員も20人ほど抱えていました。年商も6000万円ほど。コロナ禍の前までは、地方都市といえども夜は活気があり、弊社の待合場所も夜遅くなると多くの人で埋まっていました。「車の順番待ちの間、もう一杯」。そんなお客さんもいらっしゃいました。

肩書は代表でも私も運転手の一人なので、代行を使ってくれる方から「あって良かった、助かった」と声をかけられるとほっとしましたし、運転席で身の上話を聞いていると、私までまるでその前の会合に参加していたかのような楽しい気持ちになれました。この会津の街で過ごした人々とたくさんの話題を共有できること。これがこの仕事を続けてきた一番の理由です。

ところがコロナ禍で街の景色は急激に変わりました。こんなにも会津若松の夜が静まり返っている光景は、生まれてこの方、見たことがありません。飲食店と二人三脚だった運転代行の利用者も激減。一晩で30万円ほどの売り上げがあった時期が遠い昔のようです。

運転代行業にとって痛いのは、たとえ売り上げがでなくても固定費がかさむことです。代表格は事故防止のために加入している車への保険。1台につき月2万5000円ほどかかります。保険なしでは警察から営業認可が下りませんし、「闇営業」などするわけにはいかないからです。

通常時でも保険料がこれだけかかるので、したがってコロナ禍では代行用の車の台数を絞らざるを得ない。最盛期と比べ減らしてきたもののコロナ禍の前までは7、8台で回していました。それが今は、たった1台の稼働。保険料まで切り詰めて経費全体を圧縮し、縮んでしまった需要に対応せざるを得ない。そんな状況になっています。

2021年の年明け以降、私たちに待っていた現実はもっと残酷でした。首都圏などを中心に政府から緊急事態宣言が再び出ましたが、福島県でも県独自の判断で1カ月あまり、緊急事態下となりました。外出自粛と飲食店の営業時短が求められ、給付金をもらう代わりに夜8時以降、ほとんどの店が閉まっている状況は福島も同じです。

正直、この対応についてはお上(かみ)のやることではない。怒りさえ通り越し、あきれに似た心境です。何より急すぎる。1月半ばに知事が記者会見してただちに実行されましたが、あまりにも突然。前もって心の準備をすることすら許してもらえませんでした。

補償20万円では未来描けず

補償に関しても、飲食店への対応はざっと130万円程度です。前述の通り、「運転代行業者があるから飲食店は安心してお酒が提供できる」。私たちはそんな自負でやってきましたが、行政の対応には大きな落差がありました。追って代行業への補償は、なんとか決まったものの、最大20万円ほどと聞いています。私たちの立場がお上にいかに軽くみられたものか。今はため息をつくことしかできません。

しかも補償を受け取ることができるのは早くても大型連休近くになると言われている。そのころに20万円もらっても、車の保険料をはじめこの1年の経費の支払い分でほぼ相殺されてしまうでしょう。給料が払えないので従業員にも休んでもらっている。こんな対応では今後事業を続けるのは難しい。協議会加盟社の中にも実際に廃業を決めたところが出始めています。

今年1月に限っては弊社のケースで、「一晩での利用者が片手で数えられるほど」「売り上げが1万円にも届かない」、そんな事態が何日も続きました。2月15日以降、県の宣言は解除されましたが、街の活気と人の往来は元通りと呼ぶには程遠い。売り上げは例年比で98%減です。私もいよいよこの事業を続けていくことができるのか、分水嶺に差しかかっていると考えています。

3月11日、東北は東日本大震災から10年を迎えました。震災当時、ガソリンの調達が難しく、毎日新潟県まで片道100キロメートルの道のりを車で走り、ガソリンを大量に持ち帰って当座をしのぐ。そんな日々を過ごしていました。今思えば、たとえ震災時であっても、街の明かりが消えることはなく、細々であっても私たちが食べていけるだけの需要がそこにはあった。代行を使ってくれるお客さんがいたからです。

今はそんな日常さえ許してもらえない。苦境も理解いただけない。コロナの収束を願うばかりですが、その時まで会社は持つのか。「なんとかなる」とは決して気軽に言えぬ状況です。

[日経ビジネス電子版 2021年3月12日の記事を再構成]

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