ビジネス目線「企業内両親学級」 子育てもキャリアも

2021年6月に「改正育児・介護休業法」が衆議院本会議で可決、成立しました。男性の育休取得を促進する大きな一歩です。東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部 チーフコンサルタントの塚越学さんは、産後すぐに育児をスムーズにスタートさせ、子育てのパートナーシップを育むためには、「企業内両親学級」を広めることが大切だと話します。
企業と従業員の双方にメリットがある「企業内両親学級」とはどのような内容なのでしょうか。21年1月に厚生労働省イクメンプロジェクトとファザーリング・ジャパンが共同開催し、塚越さんが講師を務めた両親学級の様子を編集部がリポートします。
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平日の午後にオンラインで行われた講座には21社から約30人が参加。参加者の内訳は1人で参加している人が83%、夫婦で参加が14%でした。両親学級というとお産の流れや赤ちゃんのお世話の解説といった内容をイメージしますが、今回の企業内両親学級は完全にビジネスパーソン目線です。講座は全部で7パート。順を追って説明していきましょう。

なぜ仕事より育児のほうが疲れるのか
パート1では、東レ経営研究所の渥美由喜さんが見いだした「夫婦の愛情曲線」を紹介。妻から夫への愛情は、産後低迷し、子どもが幼いときに夫婦で育児をできていないと、子どもが成長した後も低迷したままであること、それは熟年離婚につながる可能性があると解説します。産後すぐに夫が育休を取り、夫婦で一緒に育児をスタートすることは、長期的なパートナーシップにも影響を及ぼすのです。
塚越さんは妊娠中から産後すぐにかけての夫婦がどのように親になっていくかにも言及。妻は、胎動など、自分の体に変化があるなど母親になっていける機会が多いが、そうした機会の少ない夫は能動的に意識を切り替える必要がある、と説明しました。意識の切り替えをパソコンにたとえた、「妻は自動で新しいOS(基本ソフト)がインストールされ、更新されるが、夫は手動でOSを入れ替える必要がある」という説明はイメージしやすく、顔出ししている参加者の中には大きくうなずく人もいました。
続くパート2では同じ時間だけ仕事と育児をした場合、なぜ育児のほうがより疲れるのかを、論理的に分析。育児では授乳やオムツ替えといったサイクルが1日に何度も繰り返され、育児以外の自由な時間にも緊張が続くことを説明します。
産後の妻のホルモン変動やメンタルヘルスの大切さなどにも触れ、産後3カ月間にパパが取るべき役割についても細かな解説がありました。
複数回取れる男性育休の取り方についても言及。塚越さんは「産後すぐに夫婦で育児をスタートするために、男性が産休・育休を取ることはとても大切です。しかし、その後の取り方は100人いたら100通り。柔軟に考えましょう」とパターンを紹介しながらアドバイスします。
パート3のテーマは子どもの成長と新しい働き方の関係。乳幼児期に子育てはどのように変化するか、コミュニケーションツールとしての絵本の選び方、子どもの成長とともに働き方はどのように変化するかを解説。
続いてのパート4はグループワークからのスタートです。参加者が4~5人ずつのグループになり、「妻が自分にしてほしいと思っていること」などをトークしていきます。その後は、夫が思っていることと、妻が実際に思っていることを比較したり、分析したり。それを踏まえて、パートナーとよい関係をつくるにはどうしたらいいかについて、解説がありました。
子育てもチームビルンデイングが必要 諦めるとワンオペに
続くパート5~6はまさに企業内両親学級ならではの切り口でした。共働き世帯が過半数となった時代の子育て世帯を取り巻く環境や、子育て世代のキャリアの在り方について 触れていきます。
塚越さんは夫婦の育児分担度を横軸に、「仕事への向き合い方」を縦軸で整理した図上で、いわゆる「バリキャリ」や「ゆるキャリ」の2択だけではない「育キャリ」を紹介し、今後の姿がどこに当たるかを説明。「自分だけでなく、家族や周囲のキャリアが伸びる在り方も考えて」と提案します。
個人ワークも行われました。家事と育児の分担状況について、自分がどのくらい担当しているかを書き込んでいきます。それを踏まえて、塚越さんは、育児・家事の多くは妻が担っているというデータを紹介。「家事・育児負担への思い込みは男女共に根深いです。自分の思い込みはいったん白紙にして、夫婦で話し合い、わが家に合った形を模索しましょう」とアドバイスします。
最後のパートでは、共働き子育てのフレームワークのつくり方を提案。夫婦だけでなく、祖父母や先生、家事代行、最新家電など「チーム」で子育てを進め、そのために、ヘルプではなくシェアする力の大切さなどを解説します。また、チーム子育てはビジネスのチームビルディングと同様に段階ごとに発展し、ワンオペ育児はチームからの離脱であると説明し、成功させるポイントについて話します。育児体験が仕事スキルを向上させることについても詳しく言及しました。
最後に塚越さんは「今しかない子育ての時間を楽しみ、その姿を後輩たちに見せてください。それが日本の働き方や子育てを変えていきます」と参加者にアドバイス。2時間の講座が終了となりました。
まとめ:企業内両親学級の流れ
新生児育児の大変さや産後の妻のホルモンやメンタルの変化を解説。男性が産休・育休を取り、家事や育児を担当する必要性を説明するとともに、育休の取り方についても、柔軟に考えてよいとアドバイス。
●グループワークで産後の妻が希望することを話し合う(パート4)
少人数のグループに分かれ、男性は妻の気持ちを推測してトーク。女性参加者は、自分が夫に求めていることをコメントした。夫婦で歩み寄るパートナーシップのつくり方や言葉かけ、気遣い、妻が何を求めているか考える大切さを学んだ。
●共働き子育てのフレームワークなどを解説(パート5~7)
「チーム子育て」をする上で、男女の役割分担の思い込みを断ち切ることの必要性を知る。共働き子育てを成功させるために、職場、パートナー、自分に必要な要素を学ぶ。育児が仕事スキルを成長させることについても触れられた。
参加したパパ&プレパパに感想を聞きました
「昨年秋に第1子が誕生し、産後すぐに2週間の育休を取得しました。新生児期は本当に大変でした。今日の講座を聴いて、その原因は、子育てでは子どもと関わっていない時間も常に緊張していることや、続けて休めないことだと分かりました。このようなことも先に知っていたら、心構えができてよかったと思います。自分が職場復帰する日は、妻が1人で育児をするのかと思うととても不安でした。後輩には産後すぐの時期は、4週間くらいは休むように勧めたいです」
(Uさん 30代 通信業・陸運業 第1子誕生後に受講)
●これから妊活 働き方をどう変えるかの大切さを事前に知れてよかった
「今日、この講座を聴くまでは、育休取得については、収入がどう変わるかという物差しでしか考えたことがありませんでした。しかし、講座で新生児育児の大変さや妻と一緒に育児をスタートさせる大切さを聞いた今、産休・育休は取らないといけないと思っています。子育てをしながら共働きをする際には、働き方をどう変えるかが大切なことも分かりました。わが家はこれから妊活予定ですが、事前に知ることができてよかったです。今のうちにしておこうと思ったのが、料理のスキルを上げること。赤ちゃんが生まれることになったら、産後すぐの食事はもちろん、離乳食や作り置きおかずなども作れるようにしておきたいです。ただし、頑張り過ぎず、宅配サービスもうまく利用したいですね」
(Tさん 30代 サービス業 妊活中に受講)

(取材・文 福本千秋=日経xwoman DUAL)
[日経xwoman 2021年9月21日付の掲載記事を基に再構成]
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