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食パン「乃が美」にモスが挑戦状 食品も医療も赤い海

日経ビジネス電子版

競争が激しい「レッドオーシャン市場」に打って出る企業が後を絶たない。医療、キャッシュレス決済から高級食パンまで――。参入する前には肥沃に見える市場だが、果たして本当にそうなのだろうか。

3月上旬、東京・麻布十番にある食パン専門店「乃が美」。1本(2斤)864円(税込み)と、コンビニエンスストアやスーパーで買える食パンの4~5倍ほどの価格にもかかわらず、開店を待つ人の行列ができていた。

1人で5本買う人や、車を横付けしてさっと買って帰る人など客が途切れない。大阪発祥の同店が東京1号店として開いた約2年前の喧騒(けんそう)とは違うものの、底堅い需要があることが見て取れる。

1斤400~600円という価格を付けた高級食パン。2013年に開業した乃が美や、パン店プロデューサーによる専門店に加えて神戸屋(大阪市)やアンデルセン(広島市)など大手パン店もメニューに追加し、一気に広がった。調査会社の富士経済(東京・中央)は20年の市場規模を18年比1.8倍の255億円と見込んだ。市場が拡大し、参入事業者も増えている。

その「レッドオーシャン」をさらに赤くするニュースが、21年2月に流れた。モスバーガーを展開するモスフードサービスが、完全予約制で持ち帰り専用の高級食パンを発売すると発表したのだ。

約1000店で参入の衝撃

乃が美は全国で209店舗。これに対しモスは首都圏や関西、九州などの約1000店舗で売り出す。従来の参入企業とは規模が違い、市場は一気に赤く染まる。

3月12日から毎月第2、4金曜日に予約販売。商品名は「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」と特徴的だが、1斤600円(税込み)の高い価格もまた目を引く。

「コロナ禍で外食の機会が減る中、週末に家で楽しんでもらえればと企画した」。営業本部付の吉野広昭グループリーダーはこう語る。ハンバーガー用で取引のある食品メーカーからの提案を採用。バターをふんだんに使っており「品質を加味して適正と思われる価格に設定した」(吉野氏)という。

なぜ今、モスが高級食パンなのか。同社は20年3月期~22年3月期の計画として、店舗数を異例の純減としている。国内既存店の収益力強化が課題で、出店戦略だけでなく商品でも利益の見込める新機軸が必要だった。

受注した分だけメーカーに頼むことのできる食パンであれば、廃棄ロスをなくすなどの形で「本数が少なくても売れた分だけ利益になる」(同社)。レッドオーシャンとは分かっているが、それはつまり需要があるということでもある。さらに、パンの引き取りを消費者の来店動機とし、従来のメニューの販売増加ももくろむ。

乃が美は紙袋で食パンを提供し、ちょっとしたお土産にもできるという新たな需要を掘り起こした。阪上雄司乃が美ホールディングス社長は「高級食パンはブームから文化になる。敵は外ではなく、慢心せずクオリティーを守り続けられるかという自社の中にある」と話す。

レッドオーシャン市場は分野を問わず広がる。19年10月の消費税増税をきっかけに一気に参入が増えたのがキャッシュレス決済だ。国はキャッシュレスで支払えばポイントを還元するという政策で消費者に利用を促し、参入企業が一気に増えた。

PayPay(ペイペイ)、LINEペイ、メルペイ、楽天ペイ、ゆうちょペイなど全国区の企業のサービスに加え、鹿児島銀行が独自の決済手段を開始するなどまさに乱立した。

ペイペイが100億円還元キャンペーンなどなりふり構わぬ販促策を打ち、急速に存在感を高めた。ただ、日本のキャッシュレス決済の比率は欧米に比べて低く、激しい競争が依然として続く。伊藤忠子会社のファミリーマートは21年2月、小口の貸し付けや代金の後払いサービスを始めると発表した。後払いはファミペイのチャージ残高が足りていなくても最大10万円利用できる。

「ペイペイの躍進で競争環境は変わった。ファミペイが主流になるのは難しいだろう」。こう見る業界関係者もいるが、コンビニで唯一の決済サービス提供企業であるため差別化を図れると考え、ヤマダ電機やウエルシア、ケンタッキーや島忠などの店舗でも使えるようにするため提携にまい進している。

米アップルとの対決

そして、消費者向けも企業向けも含めて多くの企業が参入方針を掲げる「成長市場」が医療・ヘルスケアだ。

売上高を全体の5割に引き上げる――。電子部品のNISSHAが2月に公表した30年12月期を最終年度とする長期ビジョン。中核事業に据えた医療機器や医薬品などの「メディカル」分野の売上高を1500億円と、現状の7倍超にする野心的な構想を打ち出した。

NISSHAだけではない。EMS(電子機器の受託製造サービス)大手である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のシャープも20年9月、遠隔診療など医療関連事業の強化を宣言した。トクヤマ、東洋紡味の素コニカミノルタ。医療・ヘルスケア分野の開拓を今後の経営の重点項目にしている企業は、業界や規模を問わず枚挙にいとまがない。

もちろん、参入障壁の高さを生かしている企業もある。その1つがオムロンヘルスケア(京都府向日市)のウエアラブル血圧計「HeartGuide(ハートガイド)」だ。手首を加圧することで血圧を測定できる端末で、「7年もの時間をかけて腕時計サイズにまで小型化した」と循環器疾患事業統轄部の松尾直グループリーダー代理は話す。

医療機器の認証を取得しており、18年12月には米国で、19年末には国内でそれぞれ発売した。血圧の変動を常時測れるようになることで、高血圧治療に生かせる。日本での価格は約8万円と高額だが、「想定を超える引き合いが来ている」と吉村実統轄部長は明かす。

そんなオムロンヘルスケアが警戒するのが、米アップルの腕時計型端末「アップルウオッチ」だ。20年9月に厚生労働省から「家庭用心電計プログラム」などの医療機器承認を取得。これを受けアップルは21年1月、日本でもアップルウオッチで心電図を記録し、不規則な心拍が起きた時に通知する機能を持つようになると発表した。

吉村統轄部長は「アップルウオッチには(医療機器としての)制約があるし、(ウエアラブル血圧計との)補完関係もある。ただ、医療機器承認を時間をかけて取得したのは脅威だ」と本音を漏らす。

米IT(情報技術)企業では、米アルファベット傘下の米ベリリー・ライフサイエンシズも医療向けウエアラブル機器の開発を加速させている。これから医療・ヘルスケア分野に参入しようとする企業は、米アップルなどのGAFAのような巨大グローバル企業もまた競合になることを覚悟しなければならない。

(日経ビジネス 庄司容子、佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2021年3月9日の記事を再構成]

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