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丸和運輸機関、アマゾン射止めた物流の新星

丸和運輸機関は首都圏でアマゾンの荷物を宅配する。個人事業主も参加する幅広い協業網がベースにある
日経ビジネス電子版

創業以来、企業間物流を得意としてきたが、ここへきて個人宅に荷物を届ける「宅配ビジネス」が急伸中。原動力となっているのは、2017年から始めた米アマゾン・ドット・コムとの地域限定の配送取引だ。大手がひしめく物流業界にあって、なぜ売上高20位ほどの中堅企業が、電子商取引(EC)界の巨人を射止めることができたのか。

日経平均が2万8000円を突破し、新型コロナウイルス禍にありながら好調を持続する日本株。中でも、「アマゾン銘柄」として注目を集めているのが、中堅物流企業の丸和運輸機関だ。

5年で株価10倍の大旋風

3年ほど前から上昇局面に入った株価は、1月末に2300円台に乗せた。わずか5年で株価が10倍になる「テンバガー」を達成するなど、設立49年目にして一躍「物流業界の新星銘柄」として脚光を浴びている。

株価急騰の原因は誰が見ても明らかだ。17年から始めた、アマゾンとの地域限定の配送取引こそが最大の原動力にほかならない。

もともと佐川急便やヤマト運輸が中心となって担っていたアマゾンの配達業務。だが現在は、各地の中堅配送会社を「デリバリープロバイダ」と名づけ、全国10社近くと取引しているとみられる。丸和運輸機関はその中核的存在。今では東京都や埼玉県など首都圏での配送を任せられるまでになった。

実際、20年3月期の売上高に占めるアマゾン関連事業の割合は19%で、同社にとってアマゾンは最大の取引先。EC市場の拡大に伴い、売り上げも右肩上がりで、21年3月期は7年前の2倍に上る約1100億円を見込んでいる。

従業員の増加を抑えながら収益力を高めた。従業員1人当たりの営業利益。注:2020年3月期のデータ。ヤマトHDの従業員数はパートを含む社員数。その他は期末従業員数と期中の平均臨時雇用人員の合計。日立物流のみ国際会計基準

収益力も高まり、20年3月期の営業利益率は7%強とヤマトホールディングス(HD)の3%弱、佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(HD)の6%強を上回った。従業員1人当たりの営業利益に至っては96万円と、中堅以上では最高水準。荷物の取扱量が減り、引っ越し事業の休止も響いたヤマトHDの5倍に近い。

それにしても、強豪がひしめく物流業界にあって、なぜEC界の巨人は、この業界売上高20位ほどの中堅企業をあえて、首都圏配送担当という重要なパートナーに選んだのか。

1973年の創業以来、原則として企業間物流を主力としてきた同社は、少なくとも2017年の時点では宅配の経験自体に乏しかった。にもかかわらず、アマゾンとの取引を始められたことについて、同社は「個別企業との契約の内容や経緯については一切お話しできない」(広報担当者)と強調する。

だが今回、様々な取材を通じて、その知られざる内幕をうかがい知ることができた。

時は15年。丸和運輸機関は東証1部へ指定替えとなり、経営は外からは順調に見えたものの、社内では危機感が漂っていた。「創業以来、倉庫から店舗に商品を届けるなどの企業間物流を得意としてきたが、果たしてそれだけで成長の持続が可能なのか」(藤田勉取締役)という懸念である。

消費者の行動は、店舗を訪れて商品を買う形から、ECなどを通じて自宅に商品を届けてもらう方向にシフトしていた。店ではなく、個人宅へ商品を届ける宅配事業をより充実させなければじり貧になるとの認識が芽生えるのは当然と言える。

ただ、宅配分野には当時既に、ヤマト運輸や佐川急便などの大手が強力な配送網を整備済み。何かきっかけがなければ突破口は開けない。

そこで、和佐見勝社長らが打ち出した戦略が「成長著しいEC事業者や小売事業者と一緒になって、専用の物流網を新たに構築する」というものだった。このやり方なら、既存の大手事業者と顧客を奪い合わずに済む。

「大手の物流網には集荷や全国の配送網を維持するコストがかかっている。人手不足の中で、いつか今の体制では御社の荷物をさばききれなくなる。そうなる前に自前の物流網を作りましょう」。そんなセールストークで、役員総出でパートナー探しに奔走した。

願ってもない「意中の相手」

この戦略を有効なものにするには、パートナーとなるEC事業者や小売事業者はなるべく大手が望ましい。せっかく専用の物流網を整備しても取引額が少なければ、丸和運輸機関の宅配事業拡大も望めないからだ。こうしてひそかに和佐見社長らが定めた「意中の相手」がアマゾンだったようだ。

中堅企業による世界最大EC企業へのアプローチ。しかし同社は無謀とは考えなかった。というのも、前述のように当時、アマゾンの配達業務の多くをヤマト運輸が担っていたが、物流業界関係者の間では既に両者の「破局」の噂が流れていたからだ。

「ECの拡大によって荷物量が急増し、ヤマトも人手の確保が追い付かず苦しんでいる。このままではいずれ宅配網が破綻しかねない。そうなる前にアマゾンと縁を切るのではないか」──。そんな見方だ。

そして17年、それは現実のものとなる。ヤマト運輸は法人顧客向け運賃の値上げに動き、アマゾンとの取引は大幅に縮小した。これに伴いアマゾンは従来の配送方法を改め、全国各地で配送会社「デリバリープロバイダ」を募り、主に当日配送向けの独自の宅配網を築くことに決めたのだ。

ここで手を挙げずして、いつ手を挙げるのか──。同社が真っ先に名乗りを上げたのは言うまでもない。丸和運輸機関は一気に宅配事業を広げていく。

とはいえ、この段階では配送網はまだ十分でなかった。ヤマト運輸でさえ音を上げた膨大な荷物量を、地域限定とはいえいかにしてさばいたのか。

EC関連事業が急成長を支える。左は売上高の推移、右は物流事業内の売上比率

中小・零細事業者の力を結集

答えは単純明快。その膨大な荷物量をさばけるだけの、強力な配送網を一気に築いてしまったのだ。自前でトラックを手配し、ドライバーを一から雇用したわけではない。同じように宅配事業への進出を考える既存の中小物流事業者を束ね、その力を結集させたのである。

協力会社のネットワークは1500社に。アズコムネット会員企業数の推移

和佐見社長は、来るべき宅配分野への進出をにらみ、早い時期から協力会社のネットワークを強化し始めていた。15年には、協力会社の経営を支える団体「AZ-COM丸和・支援ネットワーク(アズコムネット)」を設け、会員139社でスタート。20年末には1500社まで増え、膨れ上がる荷物量をさばく原動力となっている。

会員企業を募り荷物輸送を委託するこうした「協業ネットワーク」は、せっかく構築しても、その後、旗振り役が会員企業に仕事を回せなければ先細りは避けられないし、うまくいかなければ業界内での信用すら傷つきかねない。しかし「今回の商売相手」はあのアマゾン。仕事が回せなくなるなどという心配は一切不要だったのである。

もっとも、アズコムネットの会員企業が順調に増えたのは、必ずしも丸和運輸機関がアマゾンと手を組んだからだけではない。

協業する運送会社が増えている(2019年のアズコムネット総会)

アズコムネットは中小・零細の会員企業に「実利を提供した」(和佐見社長)。例えば費用面では、配送用車両のリース代やガソリン代の大口割引の恩恵を受けられる。教育も支援し、ドライバーには運転技術や車両点検の仕方を、管理者には労務管理について教えるなど、中小・零細企業の手が回らない部分を様々なアプローチでバックアップする。

会員企業の一社、NTSロジ(東京都東久留米市)の笠原史久社長は「軽自動車による宅配を2台から始め、1年半で20台まで増やせたのは費用面などで支援を受けたことが一因」と話す。

会員の希望を募り、アマゾンの米国の物流センターや米ナイキの欧州にあるセンターを見学するツアーも組む。手厚い支援によって「会員企業が、丸和運輸機関と取引のない企業も誘って紹介してくれるようにもなった」と、アズコムネットの坂俊之理事は話す。

一定の規模を持つ物流会社であれば協力会社をまとめる組織は持つものだが「会員を集めてゴルフ大会を開くといった親睦が目的となる場合が多い」(業界関係者)。和佐見社長はそれだけでは意味がないと考える。

中堅物流の幹部は「荷物量が増えて対応できなくなったときに、協力会社に配送を丸投げするだけという例もある中で、丸和運輸機関さんの取り組みは関係づくりの上で大きな意味を持つ」とみる。

人材企業を辞め配送事業者として一念発起した尾木竜一郎さん

丸和運輸機関はこうして既存の物流事業者に結集を呼び掛ける一方で、「協力会社だけでは人と車両が足りなくなる」(岩﨑哲律取締役)と、協業するドライバーの養成にも乗り出している。

17年から始めた、個人事業主として配送ビジネスを始めたい人材を支援・育成する仕組み「桃太郎・クイック エース(MQA)」がその母体だ。

東京都練馬区で宅配ドライバーとして働いている尾木竜一郎さんも、MQAの仕組みから生まれた個人事業主の一人。19年8月、人材系の企業を辞めて一念発起した。「40歳を迎え、転職を視野に入れ始めたとき、個人事業主という働き方もありだと思って始めた」という。

所得の7割補償で支援

丸和運輸機関はここでも、ドライバー第一の考え方を貫いている。同社が開業に必要な手続きなどを支援しており、開業資金はなくても済む。週休2日を前提とする中で、年商600万円以上に上るケースも多い。

事業を継続する上でキャッシュフローの確保が重要なため、個人事業主への支払いは月末締めの翌月20日払いとしている。物流業界では60日間ぐらい要する例もある。丸和運輸機関のキャッシュフローの余裕は失われるが、まずはドライバーを優先する。さらに19年、けがなどで配達業務ができなくなっても所得の7割を補償する保険を設けた。

急ピッチで整備したネットワークなだけに、サービス水準の維持などで苦労したのは事実。当初は、好条件に引かれた働き手が多く集まったが「来る者拒まずで人材を集めた結果、業務指示になかなか従ってくれないというような支障が出てしまった」(MQA募集の責任者)

働きたい人には少人数の説明会で理解を深めてもらう

そこで募集に際してはまず、少人数での説明会を通して業務内容をしっかり理解してもらうよう改めた。契約後は座学や先輩ドライバーに同乗する実地での研修によって、サービス品質を高める意識を植え付けていった。

「喜びを届けるために、荷物は両手でお客様に手渡す。他社では自由な服装もあるようだが、うちはきちんとユニホームを着る。そんな基本動作をしっかり教育していきたい」と和佐見社長。

現在、EC事業で稼働する車両は3500台まで広がった。MQAの人材の中には、100台以上のトラックを抱える運送会社を経営し始めた人もいる。

次の目標は「ECの川上」

こうしてEC界の巨人を味方につけ、物流業界の台風の目となった丸和運輸機関。ネット通販はまだまだ成長が続くと見込まれているが、丸和運輸機関には今も危機感がある。EC事業者が自ら個人ドライバーを集める動きを見せているからだ。一時は顧客を手放したヤマト運輸も再び荷受量の拡大に動いている。

そんな事態に対応すべく、同社は今、新たな事業の方向性を打ち出しつつある。それは、物流事業の柱を増やすことではなくこれまで培った知見を生かし、EC事業を深掘りすることだという。

EC事業者から個人宅への荷物の配送の依頼を受けるだけでなく、配送センター間を結ぶ幹線輸送や、センターそのものの運営など、EC市場の川上に上っていく試みだ。

技術の進化や新市場の出現で経営環境が目まぐるしく変わる今は、中堅企業であっても立ち振る舞い一つで、大きな下克上を起こせる時代でもある。業界の潮目を読んだ経営者の戦略的行動で旋風を起こした丸和運輸機関は、まさにその実例と言っていい。

丸和運輸機関とは

和佐見勝社長に聞く 取引先の成長が自社を伸ばす、利他の考え重視

「新型コロナウイルスの感染拡大によってECの需要は増えました。食品スーパーやドラッグストアの物流需要が落ち込みましたが、2021年3月期連結で売上高1100億円、営業利益79億円とどちらも過去最高を見込んでいます」

「そういう意味ではEC分野に参入しておいてよかった。今のように急速に市場が拡大する前から、欧米に出向いてEC関連の物流事情を視察していました。いずれ日本にもこういう時代が来ると考えていた」

「日本で10年代に入ってEC市場が広がると、宅配各社は増える荷物を背負いきれなくなり、苦しんだ。特に大手は荷物の配達だけでなく集荷も担います。そこが収益の源泉でもあるわけですが、配達する荷物の量が増えていけば、いずれ業務に差し支える。EC事業者には、配達に特化した新たな物流網の構築を提案してきました」

物流センターの運営も含め、企業の物流を一括管理する3PLで成長。その後EC分野に参入した

「17年、同分野に本格参入後、ラストワンマイルの配達網を支えているのは協力会社や個人事業主といった外部のパートナーです。我々の企業文化の基本にあるのは相手、すなわち取引先の成長を支えることが自らの成長につながるという利他的な考えです。配送だけでなく、企業の物流センターの運営も請け負う『サード・パーティー・ロジスティクス(3PL)』の事業で当社が先行したのも、そんな考えが基本になっています」

「外部パートナーに提供する様々な経営支援のメニューは、リース会社などの協力で成り立っていますが、支援に際し、手数料などは一切頂いていません。丸和運輸機関のスケールメリットをそのまま享受してもらっているわけです。社内には『手数料も収益源にしたい』という声もないわけではないですが、パートナーとしてフラットな関係を築いた方が、将来的なビジネス上のメリットは大きいはずです」

「働く環境も同様です。運輸業界は長時間労働が常態化してきました。我々は今、MQAに参加する個人事業主の実働時間を原則1日8時間以内としています。繁忙期はそれを超えますが、それでも週60時間以内に拘束時間を抑えるのが目標です。必要に応じて応援の車両やドライバーもあてがいます。目先の利益水準は落ちるかもしれませんが、長期的には働き手に安心感を持ってもらうほうが労働力を維持する上で重要だと考えています」

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版 2021年2月5日の記事を再構成]

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