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背水の製鉄能力2割削減、日本製鉄が挑む2つの難題

日本製鉄は25年度までに国内粗鋼生産能力を2割削減し、人員を1万人減らす
日経ビジネス電子版

日本製鉄は5日、国内粗鋼生産能力を2割減らす生産再構築を柱とした2025年度までの経営計画を発表した。国内を縮小する一方、海外を強化して長期的に世界生産能力1億トンを目指す。50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標も掲げる。生産網立て直しと製鉄技術革新という2つの難題に同時に挑む「綱渡りの構造改革」は成功するか。

「内需の減少に加えて、輸出でも採算が取れない厳しい状況が続く」

日本製鉄の橋本英二社長は国内の生産規模縮小を決断した理由をこう明かした。25年3月末までに東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)で高炉1基を休止する方針を表明。製鉄所の中核設備である高炉は、既に休止済みのものを含めて25年度までに15基から10基に絞り込む。国内粗鋼生産能力は年5000万トンから4000万トンになる。さらに、協力会社を含めて合計1万人の人員を減らす。

この能力削減は、日鉄をはじめとする日本の製鉄業が粗鋼の輸出によって国内製造業の海外進出を支えてきたモデルの転換点を意味する。

少子高齢化や顧客の海外展開が進み、国内の粗鋼需要は減少の一途をたどる。20年の国内全体の粗鋼生産量は約8300万トンと51年ぶりの低水準となった。それでも、日鉄はこれまで国内の生産規模を何とか維持してきた。国内で生産した粗鋼を海外の下工程(圧延工程)の拠点に輸出して最終製品に加工するビジネスモデルが機能していたからだ。

ところが、世界の粗鋼生産の6割を握るまでになった中国鉄鋼メーカー勢との海外での競争が激化。コスト競争力に圧倒的な差がある中国メーカーを前に、輸出戦略の継続が難しくなった。それが国内を身の丈に合った生産能力までスリム化する決断を下した理由だ。橋本社長は「国内製鉄事業の再構築は25年度までにやり遂げる。そうでないと他の計画をやり遂げられない」と背水の陣を敷いて構造改革に挑む覚悟だ。

海外市場で成長探る

国内製鉄事業を再構築する一方で、成長は海外市場で探るしかない。「ASEAN(東南アジア諸国連合)の30年の鋼材需要は19年比80%増の1億4000万トンになる」と日鉄はそろばんをはじく。

今後の海外展開は、現地メーカーのM&A(合併・買収)を基本戦略とする。外資企業が一貫製鉄所を一から立ち上げるには膨大な時間や資金がかかり、経営リスクが大きすぎるためだ。新興国では国内産業の育成や長期的な経済発展のため粗鋼生産から加工までの一貫生産体制を整えた製鉄所が求められており、もはや従来型の下工程拠点は必要とされていない。

この日、橋本社長は「中国やASEANで一貫製鉄所の買収や資本参加の検討をしている」と明かした。海外での粗鋼生産能力は現時点で1600万トンしかなく、これを中長期で5000万トン以上に引き上げる。国内の1000万トン減を海外増加分で補い、世界での粗鋼生産能力を現状に比べて30%増の1億トンにすることを目指す。

日本製鉄は中国やASEANで一貫製鉄所の買収や資本参加を検討する(写真はインドで買収した製鉄所)

ただ、国内から海外へのシフトにたとえ成功したとしても、日鉄は目指す山の中腹にしかたどりつかない。その先には粗鋼生産で世界首位の欧州アルセロール・ミタル、世界2位の中国・宝武鋼鉄集団などライバルとの「ゼロカーボン・スチール開発競争」が待っている。

「誰が一番先か。当然、日本製鉄である」

鉄鋼生産は「カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)」の達成に向けた難題とされる。鉄鉱石と石炭を原料として二酸化炭素(CO2)を大量に排出する従来の生産工程を抜本的に見直さなければならないからだ。石炭の代わりに水素を使う「水素還元製鉄」では、高炉を使わない製鉄技術が必要になる。大型電炉による高級鋼板の製造なども求められる。新しい生産工程への移行には設備投資も含めて4兆~5兆円かかるとされる。

ミタル、宝武などとの激しい技術開発競争がこれから予想されるが、橋本社長は強気だ。「(脱炭素の製鉄技術について)これらを商業ベースで確立できた鉄鋼メーカーはまだない。先んじれば新しい還元法のヘゲモニー(覇権)を握れるが、2番手3番手になれば高いコストを払ってまねるしかない。問題は誰が一番先にめどをつけるか。当然、日本製鉄である」と決意を述べた。

21年3月期の連結最終赤字が1200億円になる見通しで、かつてない危機に立っている日鉄。国内の生産能力削減と海外M&A、そして技術革新。挑む山の頂は猛吹雪でまだ見えない。

(日経ビジネス 岡田達也)

[日経ビジネス電子版2021年3月8日の記事を再構成]

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