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電通は230人を個人事業主化 シニア社員の生きる道

電通は中高年社員を対象に「個人事業主」として働いてもらう制度を始めた
日経ビジネス電子版

企業と個人の関係はこれからさらにどう変わっていくのだろうか。大卒の入社時から「能力評価」によって初任給に差を付け始めたソニー、支店長が目指すポジションという行員一体の価値観と人事コースを破壊し、入行時からIT(情報技術)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)などの専門分野にも進む仕組みを取り始めたりそなホールディングス。100人に及ぶ副業人材を受け入れ、正社員が中核となって動かすという会社の在り方自体を変え始めたヤフー……。そして本社も東京から離れ始め、個人の働き方と場所も集中・固定化から分散・柔軟化へ動く。その中で中高年の働き方と企業との関係にも変化が生まれ始めた。新型コロナウイルス禍による景気低迷やリモートワークの拡大などがそれを後押しする。

電通は2021年1月から中高年の一部の社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始めた。同様の仕組みは健康機器大手のタニタ(東京・板橋)も17年1月に導入しているが、大企業では初めて。個人と企業の関係が大きく変わる中、企業、個人双方から注目は集まっている。

対象は(1)新卒で入社した社員の場合は勤続20年以上で60歳未満(2)中途採用の場合は、勤続5年以上で40歳以上60歳未満。いずれにせよ中高年が対象だ。

20年7月下旬から8月末まで社内公募し、約230人が決まった。電通は、20年11月に事業を支援する100%出資の子会社、ニューホライズンコレクティブを設立。ニューホライズンが元社員らと10年間の業務委託契約を結び、平均で社員時代の年収の50~60%相当の報酬になる仕事を確保されるという。

個人事業主になった人が外で獲得してきた仕事で、他のメンバーに協力をしてもらいながら実施するような場合は、この子会社が受託して、対象者らが引き受ける形になるという。ただし、自ら開拓して自分で仕事が完結するような場合は、子会社を通さなくていいことになっている。年収はこうした自らつくっていく仕事の中で増やしていくことになる。

狙いは、電通にとっては今まで取れなかったような新たな分野の仕事を獲得すること。電通の社員で発案者の一人でもある野澤友宏氏(ニューホライズン設立で転籍)らは独自の試みの狙いを「人生100年時代の新たな働き方を模索することや、これまで電通が受託していないような新たな仕事を探し事業創造につなげるきっかけにできたら」「社内にいてはできない仕事を受託できる面白さもある」と話す。人件費など電通のコストでは難しかった小さな仕事や地方自治体の業務受託などを掘り起こしていくということなのだろう。

「体のいいリストラ」の見方も

実際には「自分で開拓する仕事」の幅は広く、契約者が得意分野の知識やスキルを教える講師になったり、カフェを開業したりするようなことも可能だという。カフェを開業しても、ニューホライズンの仕事を請け負う必要はあるが、その仕事量などが継続的に少なく、それがその後も変わらないと見込めるような場合は、個人側の意志によって契約を外れることもありえるという。

こうした条件から浮かぶのは、社員が独立するのに向けた助走的な役割の姿だ。中高年になり、電通から独立して自営業になるにしても、いきなりではリスクが高い。しかし、この制度を利用すれば、一定の報酬になる電通の仕事を確保されるわけだから、リスクは相当に軽減される。

当面、仕事は地方自治体の町おこしなど「受託単価は高くないがやりがいのあるものを掘り起こすこともできる」(発案者の一人、山口裕二氏)などと言うが、まだ具体的には見えにくい。

電通自体の業績がここ2年停滞していることに加え、こうした点を捉えて「体のいいリストラ」との見方もある。個人事業主となることを決めた230人の平均年齢は約52歳。割増退職金を得たとしても早期退職して、個人がその後の生活のリスクを負うよりも、10年の助走期間を付けて転身しやすくすることでリストラを進めやすくしているといった見方だ。

80歳まで再雇用するノジマ

12年末からの安倍晋三前首相時代、18年秋まで微弱ながら長く続いた景気拡大でリストラは縮小し、むしろ高齢者雇用は急増した。だが、米中対立で世界景気が停滞し始めた19年から、新型コロナウイルスの感染拡大へ続いた20年に入り、その順風も一転した。今後の中高年、高齢者と企業の関係はまた新たな時代を迎えるのかもしれない。

21年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行される。「定年年齢を70歳に引き上げ」「希望者全員を70歳まで継続雇用」「高齢者が希望する場合、70歳まで継続的に業務委託契約を締結」といったものだ。ただし、努力目標である。

景気拡大期には企業が受け入れやすいこれも、ひとたび停滞に入ると様相は一変する。高齢者の手前、中高年層に対する逆風も強まる。コロナ禍はそれをさらに促進する。

結局は個人は自立できる力を強めるほかないのかもしれない。

家電量販大手ノジマは20年7月、定年である65歳を超えた社員を80歳までをメドに再雇用する制度を始めた。13年4月に定年をそれまでの60歳から5歳引き上げ、それ以後も働く希望のある人には健康状態などを見ながら個別に契約していたが、制度として全員適用に切り替えた。

「退職後も働いて戦力になっている人達がいて、それは制度にしてもっと活躍してもらおうということになった」(ノジマの田中義幸取締役)という。65歳以上で現在約50人が売り場や本部の店舗開発部門などで働いており、さらに広げていく考えだ。

360度評価で淘汰されることもある

コロナ禍による「巣ごもり」需要もあって、ノジマの業績は堅調で、企業側から見れば、人手を確保したいという面もある。だが、個人側から見れば、別の要素も浮かぶ。

同社では家電量販チェーンの大半が実施している電機メーカーや携帯キャリアからの応援販売員を04年ごろからやめ、売り場はすべて従業員にしていた。しかも、課長クラスのエリアマネージャーや部長級のブロック長などの役職を離れても子会社やスタッフ部門にいくのではなく、売り場に立つのを慣例としてきた。つまり、幅広い商品知識や販売力がなければ仕事ができない仕組みである。

さらには「360度評価を実施しており、自分の営業成績だけを考える協調性のないようなタイプは自然に淘汰される」(同)という。スキルに加えて人柄も大事になるわけだ。

個人は自らの努力と意志で立っていく覚悟が必要になるのだろう。電通は会社都合で契約を切られることはない点で「優しさ」はある。しかし、スキルの向上もなく、覚悟もなく10年を過ごすのは容易ではないはず。「自立」は、コロナ後の企業と個人の関係のカギなのだろう。

(日経ビジネス 田村賢司)

[日経ビジネス電子版 2021年1月8日の記事を再構成]

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