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巨額赤字の近鉄、8ホテル売却で「リスクはなくなる」

ブラックストーンに売却される客室数988の「都ホテル京都八条」
日経ビジネス電子版

近鉄グループホールディングス(GHD)は3月25日、8つのホテルを米国の投資ファンド、ブラックストーン・グループに売却すると発表した。同月31日には阪急阪神ホールディングス(HD)も大阪新阪急ホテルなど6施設の営業終了を決めた。コロナ禍の影響でホテル事業は鉄道会社の重荷となっている。近鉄GHDの江藤健一・総合企画部長と子会社である近鉄・都ホテルズの酢谷卓也・経営戦略室長に、売却の狙いとホテル事業の見通しについて聞いた。

――近鉄・都ホテルズが運営する24のホテルのうち、「都ホテル京都八条」など8つを売却すると発表しました。売却金額は600億円ともいわれますが(売却金額は非公開。簿価は423億円)、コロナ禍による赤字(2021年3月期は780億円の最終赤字を見込む)の穴埋めが主眼なのでしょうか。

江藤健一・近鉄GHD総合企画部長(以下、江藤氏)「それよりも、資産を持たずに運営に特化するマネジメント・コントラクト方式への転換が目的です。ホテルの営業を終了したり、事業から撤退したりするわけではありません」

「今回、8つのホテルの不動産と備品などを、ブラックストーンが出資する特定目的会社(SPC)に売却します。このSPCには当社も少額出資しますが、あくまでも主体はブラックストーンになります。そしてホテルの運営はこれまで通り近鉄・都ホテルズが担うスキームです。ホテル事業は設備や人件費などの固定費の比率が大きく、コロナ禍のような状況ではリスクが高い。設備を持たずに運営を受託することで、そのリスクを軽減できます」

――設備投資の負担は減ると思いますが、賃料や人件費はかかるのではないですか。

江藤氏「賃貸借契約ではなく運営受託契約で、売り上げの一部を手数料として得るスキームです。運営の継続性の観点から従業員は引き続き近鉄・都ホテルズの所属としますが、その人件費はオーナーであるブラックストーンが出すことになっています」

――得られる収益も減るのではないでしょうか。

江藤氏「収益をシェアするので増加した分を総取りすることはできませんが、我々が赤字を計上するリスクはなくなります。売り上げが増えれば、ブラックストーンと近鉄・都ホテルズのどちらも収入が増えるので、向いている方向は同じです」

「ホテルはボラティリティー(変動幅)が高いビジネスです。以前はビルを建てる時に『まず商業施設を入れ、次にオフィス、最後に余ったらホテルでも入れようか』と言っていたくらいで、もともと高い収益を得られるものではなかった。ここ数年、インバウンド需要が盛り上がっていましたが、昔からホテルビジネスをやってきた立場から見ると異常値だったと思いますね」

「我々のホテル事業は鉄道に付帯した事業として始まった経緯もあり、これまで自前主義から抜け切れませんでした。以前から資産を持たない構造改革は検討しており、コロナ禍を機にようやく踏み切れました」

――なぜ、24のホテルのうち中核ではない8つが売却対象として選ばれたのでしょうか。

近鉄グループホールディングスの江藤健一・総合企画部長

江藤氏「ホテルを4つに分類しました。1つ目は『都シティ東京高輪』などの第三者から賃借しているホテルで、所有権がありませんから売却できない。2つ目は大阪上本町駅に直結している『シェラトン都ホテル大阪』などで、鉄道施設と切り離せず売却に適しません。そして3つ目が『ウェスティン都ホテル京都』『志摩観光ホテル』などの基幹ホテル。これらはターミナル駅や沿線の観光地にあって、近鉄グループの戦略と不可分です。これらは引き続き保有し続けますが、当てはまらない8施設を売却することにしました」

――現状ではホテルの利用客が落ち込み、21年3月期の業績予想ではホテル・レジャー部門は601億円の営業赤字を見込んでいます。これは運輸部門の営業赤字307億円よりも大きい。先行きも明るいとは言い切れず、買い手がいたこと自体が不思議なようにも思えます。

江藤氏「ホテルに興味を持つところが少なかったのは事実です。私募REITを立ち上げる手もありましたが、複数の出資者を集めた場合、その後の意思決定が難しくなったのではないでしょうか。この物件は含み益があるから買いたい、というようなピンポイントの話はありましたが、断りました。一体で運営を継続するのが重要だと思ったからです」

「ブラックストーンは投資ファンドですが、世界で10万室以上を保有する有数のホテルオーナーでもあります。彼らのチームと何回かウェブミーティングをしましたが、ホテル出身のメンバーもおり、ホテル事業をよく知っていると感じました。単なる不動産投資ではなく、アフターコロナの観光需要の回復を見据えた彼らなりの判断があったのだと思います」

都ホテルの運営能力が評価された

「加えて、我々のホテル運営ノウハウも評価し、パートナーとして選んでもらえたのだと考えています。例えば今回の売却対象になった京都駅前の『都ホテル京都八条』は1000室近い部屋数があります。これだけ大規模のホテルを運営できる会社は限られており、ブラックストーンが別の運営会社を連れてくるのは現実的ではなかったでしょう」

「ホテル運営の受託期間は非公表ですが、安定的な関係を築けると思います。ブラックストーンが投資する新たな物件の運営にも関われないかと期待しているところです」

――しかし、自社物件ではなくなり、オーナーであるブラックストーンが求める結果が出せなければ運営委託を切られる可能性もありますよね。

近鉄・都ホテルズの酢谷卓也・経営戦略室長

酢谷卓也・近鉄・都ホテルズ経営戦略室長(以下、酢谷氏)「確かにその通りです。これまで以上に、強みに一層磨きをかけないといけないと思っています」

「我々の強みはサービスレベルの高さ。都ホテル(現在のウェスティン都ホテル京都)は130年の歴史があり、『東の帝国ホテル、西の都ホテル』と並び称されたこともあります。志摩観光ホテルは2016年の伊勢志摩サミットの開催地として各国首脳が滞在しました。皇族方もお泊まりになられたことがある。そうした経験を持つスタッフが、ノウハウとクオリティーを引き継いできました」

首都圏などでスピード展開目指す

「一方で弱かったのがマーケティングです。関西以外や海外での知名度が低く、米マリオット・インターナショナルのフランチャイズに入り、都ホテルとのダブルブランド戦略を取ってきました。ここにブラックストーンの力が加わることで、また違ったノウハウが得られるのではないかと期待しています」

「例えば、今はコロナ禍で宴会場の稼働率が低いのですが、ブラックストーンが保有する海外のホテルでの活用事例を聞く機会がありました。こうした情報共有を進め、彼らの持つ知見を生かしていきたい」

「コロナ前から、保有・展開するホテルが関西に集中しており、地域の偏りが課題でした。首都圏など全国の主要都市に展開したいという希望はありましたが、自社でやると土地の確保や建物の建設など、仕込みに5年くらいかかってしまいます。しかし、運営受託ならスピード感を持って展開しやすくなります」

「強みである接客を生かすには、1室20平方メートル以上の少しグレードが高いホテルがターゲットになるでしょう。ただし、宴会場などを備えるシティーホテルだけでなく、宿泊特化型ホテルも増やしていく必要があります」

――資産売却と聞くと事業の縮小のようですが、逆にホテル事業を成長させられるということでしょうか。

江藤氏「近鉄グループの資産状況は、他社と比べて強いとは言えません。だからこそ今、構造改革を進めているわけです。限られたリソースをどこに振り向けるかが重要と考えます。ホテルの自社保有という選択肢を捨てたわけではないですが、土地を購入してホテルを建てるというのは難しいと思います。グループ内にタネ地があれば話は別ですが」

「ファシリティー(設備)はお金をかければいいものができます、しかし運営能力は一朝一夕にはまねできません。我々はそこに投資をしていくということです」

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版2021年4月7日の記事を再構成]

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