英国、5個入りドーナツ価格が1年で5割高

ロンドン近郊の地元スーパーでいつものジャムドーナツを手に取り、ぎょっとした。昨年までは5個入り50ペンス(約82円)だったが数カ月前に69ペンスに値上がりし、ついに75ペンスに達したからだ。1年で値段は1.5倍に。欧米を悩ますインフレは日々の暮らしに着実に迫っている。
英大手スーパーの1つ、モリソンズの店内のベーカリーで揚げられる丸いドーナツにはイチゴやラズベリーのジャム、カスタードなどが入る。粉砂糖が振りかけられた状態で5個入りパッケージで販売。日によってジャムの量が少なかったり、粉砂糖を振り落とさなければならないほどの量だったりと、工場生産品とは異なる個性が楽しめる。お手ごろ価格で、英国のどのスーパーでも似た商品が入り口やベーカリーに山積みで売られている。
ところが、この1年間で日常食品の値段は大きく変わった。英国の国家統計局(ONS)によると、5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で9.1%上昇した。40年ぶりの高水準で、大きな要因はガソリンなどのエネルギーや食料品などの値上げ。世界のエネルギーの価格高騰と穀物の原料高が反映されているようだ。
また、ONSの別の調査によると最安値の500グラムの乾燥パスタは昨年4月から22年4月にかけて5割値上がりしている。主要な生産地であるカナダや欧州の干ばつなどにより、パスタの原材料であるデュラム小麦の値段が高騰したからだ。ロシアのウクライナ侵攻も世界のエネルギーや小麦価格高騰に影響している。世界的な物流網の運輸コスト増も大きい。このため英国では商品の値上げや、値段は変えずに内容量だけ減らす「ステルス値上げ」も目立つ。
人々が安いものを求め、格安スーパーのリドルやアルディに流れているとの分析もある。そのため、流出を防ごうと大手が逆に値下げをする動きもある。アズダは4月、100以上の商品の値段を下げ、22年末まで価格を維持すると公表した。モリソンズやセインズベリーも一部商品の値下げを同時期に発表している。
ただ全体としては商品価格や光熱費などの生活コストは上がり続けそうだ。英イングランド銀行(中央銀行)はインフレ率が年内に11%を超えると予想。ドーナツを含め、庶民の味方である食品はせめて据え置きをお願いしたいところだが。
(ロンドン=今出川リアノン)
[日経MJ 2022年7月4日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。