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9割減収でもあきらめず、遊具の技術を医療分野に展開

大学院在籍時、4坪の店で小物販売を始め、卒業後ワン・ステップ設立。「できることはすべてやれ、やるなら最善尽くせ」がモットー
日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス禍で、多くの催しが中止となり、エアー注入式大型遊具のレンタル・企画販売のワン・ステップ(宮崎市)は経営にダメージを受けた。しかし、エアー注入式遊具の技術を医療設備に転用、てこ入れを図り、危機を克服した。

◇   ◇   ◇

「このままでは、1年後に債務超過だ」

新型コロナウイルス感染が広がる2020年4月、エアー注入式大型遊具のレンタル業「ワン・ステップ」は売り上げが7割も減少。山元洋幸社長が危機感を募らせていた。書き入れ時の5月の大型連休の催しも軒並み中止となり、売り上げは一時9割減に。

だが、お先真っ暗ともいえる状況の中、山元社長は前向きだった。年間売上高を前年比の50%に戻せば、会社は2年は存続可能と分かったからだ。

「2年の猶予があれば立て直せる。現状の7割減から、5割減にまで挽回する」。発想をプラスに転換した。目をつけたのが、新型コロナ対策のエアー注入式医療設備の開発だ。エアー遊具で培った、空気で膨らませる技術が応用できる。その結果、20年度は医療分野の売り上げを全体の約2割に高め、苦境から何とか脱することができた。

宮崎に働き口を、と起業

山元氏は、宮崎大学大学院農学研究科修士課程を修了して間もない02年、ワン・ステップを設立。就職に際して「働く場所がない」と、宮崎を離れる友人も多かったため「若い人の働き口がないなら、自分が会社を興そう。会社が大きくなれば、雇用も生み出せる」との思いがあった。エアー式遊具レンタル業に参入したのは、周囲にイベント遊具を扱う会社が少ないため、成長が見込めると判断したからだ。その読み通り、ビニールを空気で膨らませた巨大滑り台やトランポリン遊具などの大型遊具は、親子連れが集まる商業施設などの催しで人気を集め、受注が増加。売り上げは年平均10~20%増のペースで順調に伸び、19年度は6億1000万円と西日本最大級の規模に成長した。

20年度に参入した医療用設備の主力は、コロナ陽性の疑いのある患者を隔離・検査する簡易陰圧室だ。「コロナ禍でニーズがある」と取引のある商社の知人から話を聞き、すぐに開発に着手した。陰圧室は内部が外よりも気圧が低い。空気は気圧の高いところから、低いところへ流れる性質があるため、患者のいる室内から空気が外に漏れにくく、感染防止効果がある。宮崎大学農学部付属動物病院と真空ポンプ製造会社「アルバック機工」からの協力を得て、20年10月、商品化にこぎ着けた。

簡易陰圧室=写真=は、普段はコンパクトなサイズで収納でき、数分間の空気注入で完成する便利さが受け、緊急時の備えとして21年3月までに病院、介護施設など全国約60施設に計約110台を販売するヒット商品となった。

同社がこれまでこだわってきたのが、豊富な商品数と商品開発力だ。商品は、常時300点以上をそろえ、毎年50~100点以上の新作を投入する。宮崎市郊外にある本社に併設する巨大倉庫には、巨大迷路や6メートルの恐竜、釣り堀、だるま落としなど、あらゆる遊具が並ぶ。やがて、取引相手から「こんな遊具は作れませんか?」「こういうのを作って」などの要望が来るようになった。多品種の商品を扱うのは、こうした顧客の心を動かす狙いもあった。「会社として商品と顧客のニーズとをつなぐ仕組み作りにはこだわってきた」と山元氏は話す。長年の信頼と技術力が新規事業を生み出すエンジンとなった。

あきらめずに成功体験を生かす

コロナ禍で大変なときにも山元氏が冷静に対処できたのは、大学時代の体験があったからだ。大阪府出身で、奈良の名門・西大和学園高校に進学した山元氏は、高校時代に真剣に打ち込めるものが見つからず、モヤモヤしていた。大学入学時、経験したことのなかったアメリカンフットボール部に入ろうと考えたが、大学にアメフト部がない。縁があって他大学の先輩に社会人のアメフトチームに誘われ、入会した。

在籍メンバーは10人前後だったが、社会人は普段仕事がある。平日の練習は学生ばかり片手で数えるほどの人数しか来なかった。「少人数で練習をしても意味がない」。山元氏が不満を言うと、チームに誘ってくれた先輩はこう言った。「それは正論かもしれないが、将来このチームをリーグで優勝するほどに強くしようと思ったら、まず自分たちが今できることからやる以外に未来の道は開けない。先を想像してから、今自分たちができることを考えよう」

その後、学生が真剣に練習に取り組む姿を見て、社会人も本気になった。そして、山元氏が大学院1年のとき、チームは所属する九州2部リーグで優勝を果たした。先を見通して、今やれることをやる──。この実体験を通じ、その姿勢と覚悟の大切さを学んだ。

ワン・ステップの売上高推移

この経験が今の経営にも生きている。20年度は潜在需要を先取りする形で、陰圧室以外にも屋外に設置できる空気注入式の医療用テント、検温ゲート、テークアウト用テントなどの商品を次々投入、コロナ禍による販売低迷分を補った。最終的に20年度の売り上げは前年比の2割減にとどまり、21年度はV字回復を見込む。医療用設備分野には入社4年目の若手が主に関わっており、社員も育ってきた。「これまでは『山元社長の会社』だったが、これからは社員一人ひとりが『私たちの会社だ』と考えられるように会社を大きくしたい」と山元氏。今の会社の成長はまだ通過点だ。

(日経ビジネス 小原 擁)

[日経ビジネス2021年5月3日号の記事を再構成]

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