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次世代技術「核融合」、欧米と日本でこんなに違う扱い

日経ビジネス電子版

米グーグルのほか、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資するのが、次世代原発の1つの形態である核融合炉開発だ。従来型の原発に比べて安全性は非常に高く、廃棄物も出ないが、日本ではこの技術を手掛けるベンチャー企業の境遇は厳しい。欧米と違って投資家の動きが鈍いからだ。

ドーナツ形の真空容器の中に、セ氏1億度を超える超高温の重水素と放射性物質であるトリチウム(三重水素)を閉じ込め、原子をくっつけることでエネルギーを生み出す――。ここで起きているのは地球と1.5億kmも離れた太陽の内部で起こっているのと同じ反応だ。酸素がない宇宙空間で生じている反応であり、もちろん二酸化炭素(CO2)を排出しない。そんな太陽と同じ反応を地上で再現するのが核融合炉だ。

グーグルやアマゾン創業者が出資

グーグルのほか、アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資するのが、次世代原発の1つの形態でもある核融合炉開発だ。核融合炉は日本では「次世代原発」として語られることが多いが、電力供給が止まれば反応が止まるため、従来の原子力発電に比べれば安全性は非常に高く、廃棄物も出ない。

この分野の研究は、日米中韓、欧州連合(EU)、インド、ロシアの7国・地域が共同で進める国際熱核融合実験炉(ITER)が約20年前に着手した。しかし、国家間の調整が進まないことからプロジェクトの進捗が遅れている。こうした現状を横目に、盛んになっているのが民間企業の動きだ。ここ数年で欧米中心に40~50社の関連企業が生まれている。

「核融合発電に必要な機器を作ってくれないか」。欧米の核融合炉関連企業からそうした引き合いがくるのが、2019年10月に設立した京都大学発のベンチャー、京都フュージョニアリング(京都府宇治市)だ。核融合炉は、プラズマの中で核融合反応を起こす過程と、そこで発生する熱を取り出す過程から成る。京都フュージョニアリングは後者で利用する機器に不可欠な独自技術を持ち、共同創業者の小西哲之・京大エネルギー理工学研究所教授の研究成果がベースになっている。

グーグルが出資する米TAEテクノロジーズやゲイツ氏が投資する米コモンウェルス・フュージョン・システムズは数億ドルレベルの資金を投資家から調達している。一方、京都フュージョニアリングは累計調達額が5億円程度にすぎない。調達資金の規模には2ケタの違いがある。

「海外ではチャンスでも日本ではリスク」

背景にあるのが、重厚長大産業のベンチャーが育ちづらい日本の土壌だ。米国では電気自動車(EV)メーカーのテスラを筆頭に重厚長大産業で新しい会社が生まれているが、日本市場に目を向けると主要プレーヤーの顔ぶれはここ数十年代わり映えがしない。

「海外ではビジネスの種と捉えられても、日本ではリスクとしかみられない」と京都フュージョニアリングの長尾昂CEOは嘆く。実用化は「50年以降」(小西氏)とみられている核融合炉。たしかに設立数年で大きな売り上げ、利益を上げるのは難しい。それが、米国では助走期間と解釈してもらえるのに対し、日本では「なかなか収益を上げられない会社」と見られてしまう。

現状では、核融合を手掛ける多くの欧米企業は多くが最終製品メーカーであるため、技術が実用化されなければお金にならない。それに対し、京都フュージョニアリングはそれらのメーカーに機器を販売する企業向け(BtoB)事業を手掛けるので、実用化以前でも売り上げは立つ。それでも、日本で活動していると投資家の目は厳しいのだという。

民間の動きが鈍い日本

これと似た現象が先行して起きているのが宇宙産業だ。米国の宇宙産業は当初、国が主導して進められていたが、近年では専門のベンチャー企業が生まれ、情報技術(IT)関連企業との連携も進み、民間主導へ移行した。一方、日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心とする国主導の形態は変わらず、米スペースXのような中核企業は育っていない。日本の宇宙産業の市場規模は数千億円。米国と比べると2ケタ違う。民間の動きは鈍い。

エネルギーの分野は日々革新が進む。ただでさえハードルが高い2050年のカーボンニュートラル(炭素中立)を実現するには、イノベーションや大規模な資金は欠かせない。日本の産業界、投資家が及び腰のままでは、世界競争の中での成功はおぼつかない。

「脱炭素」に関して、日本の政府が企業の研究開発を支援するために創設した基金は、今後10年間で2兆円だ。4年間で2兆ドル(約216兆円)を投じる米国や、約30年間で水素戦略だけで4700億ユーロ(約60兆円)を投じる欧州連合(EU)に、大きく水をあけられている。

もっとも、国が巨額を投じるだけではイノベーションは生まれない。国が新たな市場の立ち上がりを支援しながら、米国のように民間企業に資金が回るような土壌づくりが不可欠だ。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版 2021年3月5日の記事を再構成]

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