ソニーがローカル5Gで新サービス 自宅まで無線化へ

ソニーグループ傘下のソニーワイヤレスコミュニケーションズは1日、ローカル5Gを利用した国内初のインターネット接続サービス「NURO(ニューロ) Wireless 5G」の提供を開始した。
ローカル5Gは、携帯通信事業者でなくても高速通信規格「5G」の基地局を設置できる新たな免許制度だ。一般的には、工場の敷地内での遠隔監視や遠隔操作など、産業分野での利用に関心が集まっている。消費者向けのサービスは珍しい。
月額4950円(税込み、以下同)で、データ容量は無制限。無線通信は固定回線よりも速度が遅いイメージがあるが「光ファイバーと比べても遜色ない」と同社執行役員の永井直紀氏は胸を張る。スペック上の通信速度は下り最大4.1ギガ(ギガは10億)ビット毎秒、上り最大2.6ギガビット毎秒で、同じソニーグループの固定回線サービス「NURO光」(下り最大2ギガビット毎秒、上り最大1ギガビット毎秒)よりも速い。
最大のメリットは、宅内配線が不要で電波を送受信するホームルーターをコンセントに差すだけですぐに利用できるようになることだ。手軽なだけでなく、物理的に光ファイバーを敷設できない集合住宅でも高速な通信を使える点が強みだと永井氏は話す。
戸建ての場合、最寄りの電柱から光ファイバーを部屋に直接引き込めるが、集合住宅ではそうはいかない。MDFと呼ばれる配線盤までは光ファイバーを引き込めても、そこから各家庭までは、以前からの電話線(メタル線)を使うケースが少なくないという。そこがボトルネックとなり、光ファイバーを使った固定通信サービスを契約しても思ったほど通信速度が改善しないという声があった。特に新型コロナウイルス禍によりテレワークが一般的になってからは、不満はさらに顕在化している。
NURO Wireless 5Gは、集合住宅の壁面や近隣の電柱にソニーワイヤレスが基地局を設置して建物全体を通信エリア化。基地局までは光ファイバーを用い、そこから先の各家庭までをローカル5Gでつなぐ。いわゆる「ラストワンマイル」を無線に置き換えるわけだ。光ファイバーと同程度の通信速度が出る5Gだからこそ踏み切れたといえる。
現時点で通信エリア化されている物件はほとんどなく、エントリーを受け付けている状況だ。要望が一定数集まった物件から、管理組合などと交渉して基地局の設置を行うという。その都度、免許の申請が必要になるため、基地局の設置までには「数カ月から半年くらいかかる」(永井氏)。設置後は対象物件の入居者に広く営業していく予定という。
通信技術の進歩により高速・大容量化が進んでいるが、集合住宅の宅内配線のように、物理的に、あるいは費用面で更新が難しいインフラは多い。そこでラストワンマイルを無線に置き換える動きは他にもある。
ラストワンマイルを無線化する動きが続々
NTTドコモは3月29日から「homeでんわ」の提供を始めた。利用中の固定電話機を専用の機器につなぎ替えることで、ドコモの携帯電話回線を利用する音声通話に置き換わる。「03」などの市外局番から始まる、以前からの電話番号が使えるのが特徴だ。月額基本料金は1078円、ドコモの携帯回線とセットなら550円となり、NTT東日本・西日本よりも安くなる(いずれも無料通話分がない「homeでんわ ライト」の場合)。

同種のサービスはすでにKDDIが「ホームプラス電話」として、ソフトバンクが「おうちのでんわ」としてそれぞれ提供済みだが、もともと固定回線網を強みにしてきたNTTグループが提供を始めるインパクトは大きい。NTTの澤田純社長は「2020年にドコモを完全子会社化したことで、固定通信と携帯通信の垣根を越えたサービスを提供できる体制がようやく整った」と感慨深げだ。
澤田氏は、固定回線を運営するNTT東西との事前の調整については否定した。ただ、持ち株会社のNTTにとっては、固定電話からhomeでんわに乗り換えが進んでも、グループ内の売り上げが付け変わるだけで痛みはない。澤田氏は「(設備の設置や維持などの)コストを考えると、ラストワンマイルは無線を使ったほうが有利だ」として、今後は無線への置き換えが進むだろうと話す。
ケーブルテレビ業界も加入者宅との接続や撤去の工事費用に頭を悩ませており、ラストワンマイルをローカル5Gで置き換える構想がある。ケーブルテレビ最大手のJCOMを傘下に持つ住友商事とインターネットイニシアティブ(IIJ)、ケーブルテレビ会社5社などが共同出資してグレープ・ワン(東京・千代田)を設立し、ローカル5Gプラットフォームの構築を進めている。ラストワンマイルの無線化が今後本格化していくのは間違いない。
(日経ビジネス 佐藤嘉彦)
[日経ビジネス電子版 2022年4月1日の記事を再構成]
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