/

三菱電機・杉山社長「もうハードにしがみつかない」

杉山武史(すぎやま・たけし)氏 1956年岐阜県生まれ。79年名古屋大学工学部卒業、三菱電機入社。タイ現地法人社長やモバイルターミナル製作所長を経て2008年に生産システム本部生産技術部長。14年から務めた常務執行役リビング・デジタルメディア事業本部長時代には、イタリア業務用空調メーカー、デルクリマの買収に携わる。買収金額は約900億円で三菱電機として過去最大。専務執行役、副社長を経て18年から現職。週末には観劇やゴルフを楽しむ。(写真=的野 弘路)
日経ビジネス電子版

三菱造船の電機製作所を母体として設立してから2月1日で100周年となった。だが、2021年3月期を最終年度とする中期経営計画の目標は未達に終わりそうだ。日本の電機産業が頭打ちになる中、次の100年をどう攻めるのか。三菱電機・杉山社長に聞いた。

――今年度は中期経営計画の最終年度です。業績目標の達成が難しくなっていますが、足元の状況はどうですか。

「結論から言えば、目標は未達成に終わりそうです」

「『FA』や『電力』『ビル』など8つを成長けん引事業と定め、そこに経営資源を投じてきました。2014~17年にかけてはこれらの事業が全社を引っ張ってくれたんです。その流れが続くとみていましたが、米中貿易摩擦で中国経済にブレーキがかかり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響も受けてしまった」

「ただ、経済環境の悪化がなかったとしても伸ばし切れなかったでしょう。今回の目標未達は、8つのけん引事業だけに成長を依存していてはもうだめだという警鐘なのだと思っています」

――三菱電機は、電機大手が苦しんだリーマン・ショック後に一度も赤字に陥りませんでした。

「00年前後に4期にわたって赤字を経験したときの反省は、会社としてのガバナンスが効かず、過剰な投資を止められなかったことでした。半導体、特にメモリー事業に過剰に投資してしまった。その時に決めたのは、弱い事業をすくい上げるよりも、強いものをより強くしようという事業の『選択と集中』です。お金がないので底上げをする余裕がなかった面もあります」

「それと並行して、キャッシュフローや借入金比率の改善につながる全社のムダ取り活動にかなり力を入れました。その改善と、事業として有望なものだけを残したことの掛け合わせが、リーマン・ショック後の業績につながったのだと思います」

「売った後」の商売に移れず

――赤字にはならないけれども、事業を伸ばしきれないのは、どのあたりに課題があるのでしょうか。成長分野をもっと先鋭的に伸ばす考え方もありそうですが。

「いわゆる『モノ売り』だけではなく、運用とか保守といった、モノを売った後に顧客が使う期間に商売するようなビジネスモデルにしてこなかった。そこに我々の弱さがありました」

「例えば電力の事業では、我々は発電機や変圧器をつくって、それを売って収益を得ていました。ところが大型発電所の新設がなくなり、小規模な発電所ばかりになってきた。設備が小型になり、メーカーからすると売り上げが減る方向の変化です。その一方で、今も使っている古い火力発電所を安定運用するためには監視や制御の技術が必要になる。そこに商機があるのに、どうしても新設の発電所に向けたモノ売りに目を向け続けてしまった」

「だから、景気が悪くなってみんながモノの発注を減らしたときに、我々の売り上げも落ちてしまうわけです。運用や保守といった、社会が動いているときに不可欠な部分にも我々は貢献できるはず。ハードだけにしがみついてきたのを変えなければならない局面に来ているんです」

「モノづくりのところは中国や韓国などにいずれキャッチアップされる可能性が極めて高い。モノをつくって納めてきたノウハウや経験を運用のところにどう注入できるか。それが我々の生きる方向性だと思っています。さすがに全部ハードを捨ててソリューション側に行くようなことはありませんが」

――三菱電機を全社で見たときの強みというのは何なのでしょうか。そこが見えにくいように感じます。

「そうかもしれません」

「社名にあるように我々は電気の『電』と機械の『機』の両方から生まれています。やっぱり祖業は発電機なんですよね。大きな発電機は電気的な性能も高くなければいけませんし、機械的な強度や信頼性も必要です。そうした組み合わせから、電波望遠鏡や人工衛星が生まれてきた。かなり大きな『電気と機械の塊』という祖業にはこだわらなければいけないと思っています」

――創業から100年を迎えました。100年続いた理由をどのように見ていますか。

「やはり電気というエネルギーそのものが非常に扱いやすく効率的だったことが大きいと思います。日本が工業化社会になり、家事を助ける洗濯機や掃除機、快適にするための空調機などが生まれ、鉄道も蒸気機関車から電動になった。我々の手掛ける『電気機械』が産業として不可欠だったというのは非常に恵まれていたんでしょうね。さらにパソコンなどの情報化のところも電気がベースでしたから」

平成の30年間に足踏み

――その中で日本の電機が少し頭打ちになっているのは、電化がほぼ行き届いたことと無関係ではなさそうです。

「その通りです。アジアやアフリカなどの新興国と呼ばれるところにはまだ電化を進める余地がありますが、それを日本のメーカーがやりきれるかというと疑問がある」

「30年前ぐらいはメード・イン・ジャパンがナンバーワンといわれて日本のメーカーが世界で活躍していましたが、平成の30年間で足踏みをして、その間に韓国や中国がメインのプレーヤーになったというのは紛れもない事実です」

――日本の電機産業は次の100年に向けて何をしていくべきでしょうか。

「菅義偉首相が2050年の『カーボンニュートラル』を宣言しましたが、その実現のために日本のメーカーが果たすべき役割はものすごく大きい。もう一段の省エネもやらなければなりませんし、CO2(二酸化炭素)を回収して利用するカーボンリサイクルも必要になる。そのためには相当な技術革新が欠かせません。そういうところに日本のメーカーの活躍の余地がある」

「それから、健康ですね。本当に健康な状態で長く生きるための『ヘルステック』の領域。新興国ではまだまだ『若い人たちの生活をどうやって良くしていくのか』という需要がありますが、少子高齢化が進む先進国では『高齢者がどうやって楽しく生きるか』というところに需要が生まれてきます」

――今やありとあらゆる会社が健康の分野を目指しているように感じます。

「もっと科学的に処理ができるはずなのにまだ実現できていないものが医療の世界にはたくさんあるんです。例えば患者が食事を残したときに、今は看護師が気になったことをメモに残すようなやり方をしていますが、何を食べなかったのかをカメラで毎回自動的に把握できるようになれば、患者の状態が変わったことを早期に発見できるかもしれない」

「センサーが安くなり、コンピューターも安くなったことでIoT(モノのインターネット)が広がっているわけですが、それによって介護の負荷を減らせる可能性もある。現場にある困りごとに対して我々が果たせる役割はまだまだあるはずです」

「これまで100年続けてこられたのは、社会構造の中で三菱電機が必要とされる会社だったから。では、これから100年も必要とされる会社になるために何が必要か。ほかの会社でも言い尽くされたことかもしれませんが、社会課題に本気で向き合っていこうと決めました。今、事業部門に対して『それぞれの事業が社会課題の何に寄与しているのかをもう一度考えてほしい』と指示し、事業を総点検してもらっています」

――過労を原因とする自殺などの労務問題の頻発を受けて、再発防止に向けた対策を打ち出しました。

モノのノウハウを運用に注入。それが我々の生きる道。 労務問題は多様化に合わせられなかったのが原因。(写真=的野 弘路)

「三菱電機全体にパワハラ体質や根深い欠陥があるかというと決してそうではないと思っていますが、現実にそういった問題が起きてしまいました。考え方の多様化、人の多様性にうまく対応できていないことが原因の一つだったとみています。昔は働く人たちの考え方が同質化していましたが、今の若い人たちは働くということについて多様な考えを持っています。ところが、職場によってはそういう多様化に合わせた動きが取れなかった」

――部門ごとの壁は関係ないのでしょうか。閉じこもった世界で外からのチェックが働きにくいこともありそうです。

「総務や人事、経理などの担当者は部門を越えて定期的に異動していますのでそれなりに風通しはあると思っています。確かに技術系の部門は異動が少ないのですが」

「研究開発の比率が高い部署は個人でやる仕事が多いため、プレッシャーを抱え込みやすい面はあったかもしれません。周りが気付いてあげられなかったという反省はとても大きい。同じ部署の人には相談しにくいところもあるので、異なる部署の人に相談できるような仕組みもつくりました。うまく手を差し伸べられる体制を整えたいと思っています」

リスクを伴う判断、ためらわない

――経営面では、杉山社長の5代前から社長が4年サイクルで交代しています。期間が短いと、大きな投資やリスクを伴う判断がしにくいのではありませんか。

「私が4年で辞めるかどうかは決めていませんが、確かに4年の在任期間に成果を上げることは非常に難しいです」

「むしろ、それが分かると長期的な視点に立てるんです。自分の在任期間に何か手柄を立てたいという思いに駆られることは私もありますが、期間が短く、それができないと割り切れば、次の世代にどう渡すのかという視点になる。私も今の成果は前任の柵山(正樹・現会長)がやったことを享受しているのだと思っています。いいことも悪いことも」

「確かに短いサイクルで社長が代わってきましたが、それぞれの代が『次の世代にどうつなげるか』という思いでやってきたのだと思います。その結果として、外部からの三菱電機の評価はそれほど悪くなっていない」

――後任のことを考えるあまりリスクを取らなくなるといった問題は起こらないと。

「大きなM&A(合併・買収)や事業ポートフォリオの見直しをためらうことはありません。今は業績はそれほど良くありませんが資金が潤沢なので、役員には『お金があるから使ってね』と話しています」

「短いサイクルだと、自分の次の社長候補に加えて、その次の候補もある程度見えます。その人たちを予備軍として想定して、どう経験を積ませるかという人事ができる。例えば社長の任期が10年だとすると、次の次、20年先の人はたぶん見えませんよね。そういう経営者の育成ができるのも短いサイクルのメリットかもしれません」

聞き手から
 「あそこはもう総合電機ではなくて、FAの会社だから」。かつて半導体や液晶、携帯電話機などの事業を相次ぎ撤退・縮小していた三菱電機に対し、電機業界ではこんな陰口が聞かれました。しかし、ほどなくエレキの華を捨て実をとった成果が表れ、この10年ほどは業績面では業界の優等生に。一時は役員に億円プレーヤーが並びました。
 ここに来て収益力に陰りが見えます。かつての構造改革で築いた枠組みでの収穫期がピークを過ぎたように見えます。もう一度、構造転換すべき時期かもしれません。業績が「悪い」というほどではないだけに難しい作業です。4年という比較的短期で社長が交代する中、うまく方向を変えられるか。創業100年で興味深い局面を迎えました。

(日経ビジネス編集長 東昌樹)

[日経ビジネス電子版2021年1月29日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。雑誌発行日の前週の水曜日から順次記事を公開。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちら

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン