南ア 牛頭部の煮込み、労働者の味方にインフレの影

南アフリカで労働者らの腹を満たすのが、牛肉の煮込み料理「コップ」だ。オランダ系の入植者らの子孫が主に話すアフリカーンス語で頭を意味する。トウモロコシの粉を練った主食の「パップ」を添え、プラスチックの容器に入れて路上などで弁当として売られる。
1つ40ランド(約330円)程度からのコップは肉体労働者を意識してか、最小サイズでも数百グラムの牛肉が入っており、ボリュームたっぷり。肉はとろりとしたゼラチン質で柔らかい。ほぼ毎日食べるという建設作業員のブライエンさんは「通常の食堂の半額くらいだし、より新鮮だ」と話した。
コップは牛の頭部から作られるが、牛肉が人気の南アでもほほ肉などを珍重する習慣はあまりなく、通常の精肉店では手間と採算を考慮し、頭部は利用しないという。そこで、弁当を販売する人が精肉店から頭部だけを格安で引き取ったうえ、さばく技を持った専門の業者に持ち込む。
8月中旬、低所得者の多いヨハネスブルクの中心業務地区(CBD)のはずれにあるテントで肉をさばいていたジンバブエ出身のアンディルさんは30代半ばにしてこの道20年のベテランだ。なたを振るう解体作業は重労働だが、1日に15~20個ほど手掛けるという。
かつて企業本社などが集中していたCBDは治安が悪化し、今はいくつかの銀行などを残して多くの企業が郊外に出て行った。観光客が強盗被害に遭うことが多いことで知られており、ビルの上層階はうち捨てられているが、路上は安い商品を求める人などでにぎわう。
CBDではカートにのせた牛の頭部を精肉店から運ぶ人や、鍋で肉を煮込んでその場で販売する人の姿がみられた。頭部は1つ380ランド、解体費用は20ランドほど。頭部1つから5~6キロの肉が得られ、15~20食分程度になる。
安さが売りのコップもアンディルさんによると、最近の売れ行きは良くないという。南アは低成長ながら世界的なエネルギー、食料価格の高騰を受け、足元のインフレ率が7%に達した。肉料理に手が届きにくくなっているようだ。
(ヨハネスブルクで、木寺もも子)
[日経MJ 2022年8月29日付]
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