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魚・ひき肉こねる理由 タンパク質が生む「粘り」カギ

NIKKEI STYLE

つみれ、練り物、ハンバーグ……。ひき肉、たたいた魚肉に塩分を加えて練ると、粘り気や弾力が出る。筋肉中のタンパク質が溶け出て絡み合うことで、おいしく、見栄えよく仕上がる。

梅雨から秋にかけてはイワシがおいしい季節になる。梅煮やかば焼きにするのもよいが、つみれもおいしい。手間のかかる印象があるかもしれないが、細かくしてしまうので、うまくさばけなくても問題ない。忙しければ売り場で頭やワタを取る下処理をしてもらおう。小骨だって身と一緒によくたたけば気にならない。ショウガをきかせたつみれ汁にネギなどの薬味を散らせば、さっぱりとして暑い日にも食が進むはずだ。

つみれのタネには細かくたたいた魚肉のほか、ひき肉を使うこともある。味付けには塩や味噌、臭み消しで酒やショウガ汁、つなぎに片栗粉や卵白などを用いる。よく練り合わせ、手やスプーンですくい取り、沸騰しただしやスープに入れて加熱してつくる。

魚でもひき肉でも、ポイントとなるのは「練る」「こねる」という工程だ。塩や味噌といった塩分を含む調味料を加えて練ることで、タネに粘りや弾力が出てまとまりやすくなる。加熱したときもくずれにくい。これには動物や魚の筋肉を構成する「アクチン」と「ミオシン」というタンパク質が関係している。

筋肉の中ではアクチンとミオシンがそれぞれ集まり、細かい糸のような形になっている。これらがたくさん集まって束になり、筋肉の繊維をつくり上げている。糸がより合わさってひもになるのをイメージしてもらうとよい。

アクチンやミオシンには塩水に溶け出しやすいという性質がある。ひき肉やたたいた魚肉に塩分を加えて練ると、こうしたタンパク質はバラバラになって肉の周囲の塩水に溶け出してくる。

さらに練り混ぜていくと、これらが結びついて「アクトミオシン」と呼ばれる状態になる。バラバラの糸が絡み合って丸まった状況を想像してみてほしい。こうなると、絡み合った糸の内側に水分をとじ込めることができる。タネに粘りと弾力が生まれる。肉汁も流れ出しにくい。

この工程をしっかりやっておかないと、タネがうまく団子状にまとまらなかったり、煮汁に入れたときに形がくずれてしまったりする。

アクチンとミオシンを効率よく溶かし出し、アクトミオシンをつくるにはコツがいくつかある。まず塩分濃度が高いほどこれらのタンパク質はよく溶け出すと考えられるため、最初は塩や味噌といった塩分を含む調味料だけを加えて練るようにしたい。十分に粘りと弾力が出たところで、他の材料を加えていこう。

タネを混ぜるときには先にスプーンやヘラなどの道具を使おう。もっと粘り気を出したいというときにだけ、手でこねるようにする。筋肉から溶け出してバラバラになっているミオシンは熱に弱く、人間の体温程度でも壊れやすいからだ。タネはもちろん、練るときに入れるボウルも冷やしておき、あまり熱が伝わらないうちに手早くこねあげるようにしたい。

完成したタネが少しゆるいと感じる場合、しばらく冷蔵庫で寝かせておく。アクトミオシン同士が部分的に結びつき、タネの弾力が増して扱いやすくなる。

できあがったタネではアクトミオシンが部分的に結びつきながらも、ある程度は自由に動くことができる。手で押したり、スプーンですくったりすると、自由に形を変えられる。ただし加熱すればアクトミオシンは固まっていき、変形しなくなる。

こうした現象が見られるのはつみれにとどまらない。かまぼこやさつま揚げといった練り物でも同じだ。すり潰した魚肉に塩を加え、その名の通り、よく練ってから加熱してつくる。やはりアクトミオシンの性質を上手に活用している食べ物だ。

ハンバーグのレシピにも「粘りが出るまでよくこねる」と書かれているだろう。ひき肉と塩を先にこねて、パン粉や牛乳、卵といったつなぎは後から加えると、粘りが出やすい。しっかり練れば結果的に肉汁がとじ込められ、ジューシーな食感が楽しめる。

練る、こねる作業は少し大変かもしれないが、そのひと手間がおいしさを引き出してくれるはずだ。

◇    ◇    ◇

イワシのうま味 ゆで汁にも

イワシにはかつお節などと同じように、うま味成分の「イノシン酸」が多く含まれている。昆布のうま味成分「グルタミン酸」と組み合わせれば、うま味が何倍にも増すことで知られる。つみれを昆布だしでゆでれば、そこにイノシン酸が溶け出し、おいしいだしになるのだ。ゆで汁はそのままつゆとして使おう。

うま味と一緒に生臭さが出てしまわないか心配になるかもしれないが、意外と気にならない。タネに使うショウガ汁、酒、味噌などが生臭さの成分の揮発を抑えてくれるからだと考えられる。

(科学する料理研究家 平松 サリー)

[NIKKEI プラス1 2022年7月30日付]

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