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舞台と人生(12)俳優 中村伸郎

芝居一途 心の花に拍手あれ  編集委員 内田洋一

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小津安二郎監督の「東京物語」や「秋刀魚の味」の渋い脇役で知られた中村伸郎さんは、折々に俳句を詠んだ。随筆集の題に引いた句に「秋ゆくや永くもがなの酒びたり」がある。

酒場の清談を好む者同士だった芸能評論家の矢野誠一さんから、中村さんの寝酒の作法を聞いた。寝支度をし、飲みながらパジャマのボタンをひとつひとつはずす。しまいまできたら、ひとつひとつつける。それを何度もくりかえし、ボタンがずれたところで眠るのだそうだ。

かの小津監督はせりふの語尾を上げるのを嫌った。「そう思わないかい?」の「かい」の音を上げると「語尾を上げちゃダメ」と神経質に怒る。中村さんは、たまにはいいだろうとテストで語尾を上げてみた。やっぱり直される。共演者の笠智衆に、あれはおかしいなあ、というと「いや、絶対に先生は正しい」と返されたという。回想記にある話。命に服する笠智衆、飄々(ひょうひょう)とゆさぶりをかける中村さん、ふたりの対照がおもしろい。

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西洋の油絵を取り入れて洋画という領域ができたように、西洋のせりふ劇をとりこんで新劇は始まった。バタくさい芸術を日本人の感性にどう溶かしこむか。絵描き志望から新劇役者に転じた中村さんは、いわば洋画家が絵で試みたように演劇の美を追い求めたのだろう。

築地座という戦前の劇団で仕込まれた物言う術はこういうものだった。相手のせりふを新鮮に聞き、新鮮に答える。相手の言う語尾の意気をすくいあげるように応答する。心から発した日本語の高低、緩急、強弱を生かす。後年、妻との会話もせりふもどきになったとか。生返事をつい分析してしまう。...

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