芥川賞に宇佐見りん氏、直木賞に西條奈加氏
第164回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が20日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は宇佐見りん氏(21)の「推し、燃ゆ」(「文芸」秋季号)、直木賞は西條奈加氏(56)の「心淋(うらさび)し川」(集英社刊)にそれぞれ決まった。贈呈式は2月中旬に都内で開かれ、受賞者には正賞の時計と副賞100万円が贈られる。
宇佐見氏は静岡県生まれ。2019年に「かか」で文芸賞を受賞してデビュー。同作で20年、三島由紀夫賞を最年少受賞した。芥川賞には初の候補で受賞が決まった。現在は大学2年生。
受賞作は、あるアイドルを応援する「推し」活動に心血を注ぐ女子高校生が主人公。「推し」の炎上を機に変化する主人公の生活や周囲との関係を、ネット社会の巧みな描写を織り交ぜてつづった。
21歳での芥川賞受賞は、04年に同時受賞した綿矢りさ氏、金原ひとみ氏に次いで3番目の若さ。記者会見で宇佐見氏は「ありがたいと思いつつ、若さに振り回されず書いていきたい」と抱負を語った。選考委員で作家の島田雅彦氏は作品について「ヒロインを描く言葉が鮮やかで、かなり吟味されて繰り出されている」と評価した。
西條氏は北海道生まれ。貿易会社勤務などをへて、05年「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。14年の「まるまるの毬(いが)」で吉川英治文学新人賞を受賞。直木賞には初の候補での受賞となった。
受賞作は江戸の下町が舞台。町を流れる小さな川をモチーフに、近くの長屋に住む庶民の喜びと悲しみをたたえた暮らしぶりを描く連作短編集だ。西條氏は「地面をはいずり回りながら生きている人を書きたかった。シリアスで地味なものが評価されたのはうれしい」と語った。
選考委員で作家の北方謙三氏は作品について「完成度が高く、人間関係がしっかりと描かれていた。それは時代を問わず普遍的なものだ」と、授賞決定に至った理由を述べた。