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伊与原新が新刊、科学嫌いの心つかむ短編集

「科学について知りたいと思っていない人が手に取ってくれたらうれしい」。推理小説を得意とする作家、伊与原新が科学の要素をちりばめて人間ドラマを描いた短編集「八月の銀の雪」(新潮社)を出した。

就活で苦戦する大学生の前に現れる、コンビニ店員のベトナム人女性、子育てや日々の生活に疲れたシングルマザーなど、人生に行き詰まった人々が登場する。地球内部の話やクジラの生態、珪藻(けいそう)を使ったアートなど、科学の事象や科学的思考に触れて、彼らの視界が開け、世界の見え方が少しずつ変わっていく人間模様をすっきりとした文体で描いた。

もともと地球惑星科学の研究者だった伊与原。科学を取り入れた小説だと前面に打ち出すと「自分向けの本ではないと、そもそも手に取ってもらえないリスクがある」が「自分のアイデアの源泉は科学か研究の世界にしかない」と割り切った。そうして書いた前作「月まで三キロ」は、科学を織り交ぜつつ温かい読後感が共感を読び、今回はその第2弾の位置づけだ。

「2作目はほっこりするいい話だけではだめ」だと、「読後感は変えないように、社会が持つ苦さや痛みの要素を足した」。物語を作る際は、ストーリーから考えてそれに合う科学の事実を探すことも、反対に科学の事象から展開を考えることもあるが、「物語に織り込む科学の事象について調べる作業に一番時間がかかった」と振り返る。そうして描いた今作は、来年1月の直木賞候補に選ばれた。

「実は個人的な好みとしては、身近な世界の話より、例えば近未来とかスケール感のある話が好きだし、描きたいと思う」と笑う。今回のような短編からは少し離れる予定だが、「永遠の課題」に据える「無理のない科学と文学の融合」で、科学嫌いの読者の心をこれからもつかむのだろう。

(光井友理)

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