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「副業先生」学校に現る 報酬が高める緊張感

働き方innovation 一つの仕事で満足ですか(7)

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副業をする人が増え、選べる仕事の幅が広がってきた。もう一つの職場として、学校など教育現場を選ぶ人が出てきている。教育現場は外から飛びこむにはハードルが高い印象があるが、やりがいが得られ、自身の成長にもつながる。受け入れる学校や生徒たちの意識にも変化が起きている。

高校で講師 プレゼンテーション術を伝授

「プレゼンって型を覚えると意外に使えるんです。例えば『お小遣い上げて』とお願いする場面」。1月下旬、英理女子学院高校(横浜市)の教室。上原正太郎さん(46)は40人ほどの生徒を前に授業に臨んでいた。担当するのは課外授業「グローバルプレゼンテーション講義」だ。

外資大手に勤めながら、副業で講師をする。授業では生徒が皆の前で話す実践の時間を大切にしている。「スライドを見たくなるけれど、目線はもっと皆の方に向けてみよう」「データの引用元を書くのはいいね」。SDGs(持続可能な開発目標)をテーマに発表を聞き、よかった点、改善点を指摘していく。最終的に英語でプレゼンできるようにするのが目標だ。

上原さんは米国で大学を卒業後、自動車メーカーやIT(情報技術)企業でキャリアを積んだ。「副業に関心があり、募集サイトが偶然目に留まった。教えた経験はないが、プレゼンは仕事でしてきたこと。私自身学ばせてもらいながら新しい経験ができればと思った」と応募時を振り返る。

生徒のプレゼンテーションにコメントする上原正太郎さん(右奥)=横浜市の英理女子学院高校

応募150人 「本業にも生きる」 

この高校を運営する高木学園は国際舞台で活躍する人材を育てる「iグローバル部」新設を機に民間人材を招こうと決断。2019年に人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)の協力で副業に限って募った。このポストへの応募はなんと150人。学園の高木暁子理事長は「副業限定がよかったのかもしれない。これだけ優秀な方々とは普通なかなか会えない」と驚く。

上原さんからプレゼンを学び、校外での研究発表で好成績を収めた2年生の高野優花さん(17)は「話の間の取り方や資料の作り方などいつも真摯に答えてくれた。上達するのが自分でも分かってうれしい」。上原さんも「彼女たちの多様な視点に気付かされることが多く、本業にも生きる。ボランティアではなく、仕事だからこその緊張感もある」と語る。

「仕事だからこそ」 質の追求しやすく

これまでも総合学習や部活動など様々な形で外部人材の協力を求めてきた学校は多い。ただ住民や教員の知人などツテをたどってボランティアで依頼するケースが大半。無報酬だと「善意でしているのだから」と学校側も協力する側も注文を付けにくく、質の追求が難しい面があった。

副業で仕事となれば、互いに意識が変わる。だが協力したい人がいても「学校との接点がない」「ニーズに合う知識やスキルが自分にあるか分からない」といった声が聞かれる。学校側も「外部の人が学校に入る」「協力者にお金を払う」ことへの抵抗感は根強い。社会人と学校の間を隔てる壁はまだ高い。

そんな両者をオンラインで結び付けるサービスが20年6月に始まった「複業先生」。LXデザイン(東京・千代田)が運営する。講師希望者は教えられる分野を無料で登録し、学校は求めるスキルや報酬などを掲載。互いのニーズが合えば、授業内容や条件について打ち合わせし、先生としてデビューする流れだ。

静岡県下田市でウェブデザイナーとして働く藤井瑛里奈さん(24)は市立下田東中学校で「下田を再発見する」授業の講師を引き受けた。地元の魅力を写真や映像などを使って発信する方法を学ぶ。「私自身、下田が好きな人を増やす活動をしていて、授業内容とピッタリだった」と明かす。

学校や生徒にも化学反応 3者にメリット

経験を生かせるキャリア教育の講師も需要が多い。NTT東日本で働く小林千夏さん(31)は富山県立滑川高校の授業の講師をオンラインで務めた。「学校との縁ができるのはいい。自身の成長にもつながる」。オンライン授業なら副業先の選択肢も広がる。

滑川高の小柴憲一教諭は「生徒にとって第一線で働く社会人との接点は貴重。高校で開発した商品の広告戦略で助言を求めるような活用法もあるかもしれない」と期待を口にする。

LXデザイン社長の金谷智さん(30)は教員経験を経て起業。「教育に関わりたい人は多い。副業なら仕事を辞めなくてもできると考える人を呼び込めば、学校の抱える課題解決の助けになるはず」と意気込む。

副業に詳しい法政大学大学院の石山恒貴教授は「副業者自身はもちろん、学校や生徒にも化学反応が起きて『三方よし』になる可能性がある」と語る。一方で「現場に入る前に目標や理念をすり合わせておく必要がある。そのためにも仲介役の存在がカギになる」と指摘する。

教育現場の副業に興味64% 予算確保など課題も


副業人材が活躍するのは生徒と向き合う現場だけではない。さいたま市教育委員会は教育のデジタル化を推進する副業人材を起用。プロジェクト管理を担当するグーグル・クラウド・ジャパン(東京・港)の山本修平さん(45)は「学校教育を変える手伝いができれば」と奔走する。
この副業人材採用の仲介役となったビズリーチの調査(2020年6月、ビジネスパーソン1700人が回答)では、教育現場での副業や兼業に「興味がある」と答えた人が64%に上った。副業先選びでは報酬よりも仕事内容を重視する傾向が目立つ。社会に貢献している感覚が得られ、自らの成長につながる機会ととらえているようだ。
学校側も外部人材の活用に関心を寄せるが、受け入れには課題も多い。NPO法人スクール・アドバイス・ネットワーク(東京・杉並)の生重幸恵理事長は「とりわけ公立校には予算などの制約が多い。現場には外部人材への抵抗感も残る」と分析する。
ベネッセ教育総合研究所の16年調査では外部人材活用の効果として「学習内容が充実した」と答えた中学校長が85%に上った。一方で課題として「予算が足りない」が61%、「ニーズに合った人材が少ない」が50%に達している。
予算確保は学校にとって悩ましいところ。副業人材への報酬は教える内容や期間によって1日数千~数万円と幅が大きいが、LXデザインの金谷さんは「持続可能な形で続けていくためにも、報酬の仕組みをどう根付かせるかが課題のひとつ」と話す。ボランティアでは継続が困難だ。
社会に出てから「学校でこんなことを学べたらよかったのに」と感じた人は多いはず。教育現場での副業の機会が増えることは、やりがいを求めるビジネスパーソンの背中を押すことにもなりそうだ。(生活情報部 河野俊)

(この項おわり)

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