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電気自動車の時代、バッテリーのリサイクルが鍵に

ナショナル ジオグラフィック

中国、南京の圖為欣旺達電動汽車電池有限公司の工場で自動車用バッテリーの検査をする作業員。同社は、電気自動車などに使われるリチウムバッテリーを製造している。(Photograph via AFP/Getty)

米国にも電気自動車(EV)の時代がやって来そうだ。

2021年5月、米フォードが電気自動車「F-150ライトニング」を発表した。米国の自動車で最も売れているピックアップトラック「F-150」の電気自動車版で、価格はおよそ4万ドル(約435万円)。フォードに入った予約は、わずか48時間で4万5000件近くに上った。これは昨年米国で登録された全EV台数の20%近くに相当する。

電気自動車は、気候変動の問題に取り組むうえで不可欠な産業だが、その成長にともなって新たな課題も生じている。バッテリーに必要な金属をどうやって手に入れるかだ。

バッテリーに含まれるリチウム、ニッケル、コバルト、銅は、すべて地中から採掘される。現在、その採掘地はロシアやインドネシア、コンゴ民主共和国などに集中しているが、環境監視が行き届かない、労働基準が曖昧、地域社会との対立があるなど問題も多く抱えている。EVの数は2020年の1000万台から2030年には1億4500万台に増えると予想されていることから、バッテリー用の鉱物需要が急増するのは必至だ。クリーンな車への移行が、不正な採掘を増長させかねないと危惧する声も上がっている。

新たな採掘を減らすうえで鍵となるのが、いかにバッテリーをリサイクルするかだ。今後数十年の間に廃棄されるバッテリーは数百万トンに上るとみられる。これらを単なるごみにしてしまわないためには、より良いリサイクル方法と、それを支援する政策が欠かせない。

「『気候変動の問題に取り組もう、新たな鉱床を開発しよう、できるだけ早く採取しよう』というやり方は、短期的には機能するかもしれません。しかし、長期的な問題にはより注意の行き届いた解決策を考える必要があります」と、非営利の環境団体アースワークスのパヤル・サンパット氏は言う。

バッテリーの分解

EV用バッテリーは複雑な技術の塊だが、原理は携帯電話で使われているリチウムイオン電池と同じ。個々の電池は、リチウムやコバルトなどでできた正極、黒鉛でできた負極、それらを分けるセパレーター、電解液で構成されており、負極に蓄えられていたリチウムイオンが正極に移動することで電流が発生する。

携帯電話ならこのような電池1つで十分だが、車を走らせるには数多くの電池をひとつに束ねる必要があり、総重量は数百キロに達する(F-150ライトニングのバッテリーは900キログラム近いと言われている)。

リサイクルしたい貴重な物質は電池の中に含まれているものの、それらを個々に分離、抽出するのは容易ではない。そのため、現状のリサイクル方式は未成熟だ。たいていは、放電したバッテリーを切り刻んで炉に放り込み、溶融後に残された銅、ニッケル、コバルトなどの合金を精錬する。この方法は大量のエネルギーを必要とするうえ、排出される有毒ガスや廃棄物を回収しなければならない。

将来的には、よりクリーンでより効率的な方法が生まれる可能性もある。例えば、個々の電池から正極材を取り出した後、個別の金属を抽出する代わりに、電池の使用によって減少したリチウムなどを加えるなどの方法で再生できるかもしれない。まだ開発の初期段階にあるものの、このアプローチによって今後バッテリー内のより多くの物質を回収し、より価値の高い最終生成物を得られるようになるのではないかと、ファラデーインスティテューションの研究員、ギャビン・ハーパー氏は述べている。

「原料物質にはもちろん価値があります。しかし、それらを組み合わせることにもっと価値があるのです」とハーパー氏は言う。「ただの物質ではなく、その構造にある価値を維持しようとすること、それはある意味でリサイクルの理想と言えるでしょう」

リサイクルの規模拡大

国際エネルギー機関(IEA)の推定によると、現在世界で年間18万トンの使用済みバッテリーをリサイクルしうるという。それに対し、2019年に使用されていたすべてのEVからは、最終的に50万トンの電池廃棄物が発生する。

2040年までには、リサイクルが必要なバッテリーの量は1300ギガワット時(GWh)相当になるとIEAは見積もっている。これは、テスラのEVバッテリーに換算すると800万トン弱の電池廃棄物、エジプト、ギザの大ピラミッドの質量の1.3倍に相当するとハーパー氏は言う。

リサイクルの規模を拡大できれば、こうした廃棄物は重要な鉱物の供給源になるかもしれない。気温上昇を2℃未満に抑えるという目標に合うペースでEV市場が拡大した場合、2040年までのEV産業における金属需要のうち、最大12%がリサイクルによってまかなわれるとIEAは見積もっている。

アースワークスからの委託で最近出された報告書によれば、仮に使用済みのEV用バッテリーが100%回収されてリサイクルされ、金属、とりわけリチウムの回収率が100%であるとしたら、2040年までのEV産業におけるリチウム需要の25%、コバルトとニッケル需要の35%を、リサイクルによって満たせるという。

これらの見積もりは「未来を予想しようとしたものではありません」と、オーストラリア、シドニー工科大学の研究部長で、報告書の共同著者であるニック・フローリン氏はメールに書いている。「新たな採掘の需要を補うための主要な戦略として、リサイクルがどれほど重要かを調べるために、考え得る未来の姿を示したのです」

そのような未来の鍵を開くために必要なのは、政府が確固たる政策としてEV用バッテリーのリサイクルを支援することだと、フローリン氏らは強調する。たとえば、リサイクル時にもっと簡単に分解できるようなバッテリー設計の基準や、バッテリー回収計画、埋め立てによる処分を禁止する法律、リサイクルを目的とする有害な電池廃棄物の海外輸送をしやすくする規則の整備などが考えられるだろう。

すでにEUは、「拡大された生産者責任」に基づくEV用バッテリーの処分に対する規制を行っており、現在は鉱物回収の規制を更新しているところだ。しかし米国では、リチウムイオン電池のメーカーに廃棄物の処理を義務付けている州はたった3つしかない。

「バッテリーを販売した会社に、その寿命が尽きた時点で回収することを義務付けるのは、非常に明確な政策です」と、アースワークスのベンジャミン・ヒッチコック・アウチエッロ氏は言う。

EV産業が急成長段階に入れば、そのバッテリー用鉱物の需要をリサイクルで大きくまかなうことは難しいだろう。リサイクルは新たな採掘を減らすための「多くの戦略のひとつ」と、米プロビデンス・カレッジの政治学者、テア・リオフランコス氏は考える。ほかにも、鉱物使用の少ないバッテリーの開発、徒歩や自転車に向いた都市の構築といった多面的なアプローチが必要だからだ。

それでも、今後数十年間に必要とされるバッテリー用鉱物の4分の1から3分の1でもリサイクルによってまかなえるなら、注目する価値は十分にあるとリオフランコス氏は言う。なぜならそれが「テクノロジーと私たちの関係を考え直す」のに役立つからだ。

「リサイクルは、生物物理学的な限界を考えるきっかけになります」とリオフランコス氏。「これらは究極的には再生不可能な資源だ。地中から取ってきておいて捨ててしまうのではなく、できる限り有効活用できるように扱おうと考えるようになるということです」

文=Madeleine Stone/訳=山内百合子 (ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年6月11日公開)

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