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サッカー日本代表、警戒すべき「円熟の落とし穴」

「一つの試練を乗り越えた」。10月12日に埼玉スタジアムで行われた2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会アジア最終予選で、サッカー日本代表がオーストラリアに勝った直後の率直な感想である。

3連勝でB組トップを走るオーストラリアに勝てたのは森保一監督とスタッフ、選手が一丸になって戦えた証しだったと思う。日本サッカーの大命題であるW杯のベスト8以上をカタール大会で目指す上で、ターニングポイントになるような試合だったかもしれない。

最終予選らしい雰囲気

オーストラリア戦に先立つ10月8日(日本時間)のサウジアラビアとのアウェー戦は、柴崎岳(レガネス)のミスパスが失点に直結し、0-1で敗れた。向こうは試合前に6万人収容のキングアブドラー・スタジアムの上限を撤廃することを決め、実際に会場は満員になった。新型コロナウイルス禍で入場制限付き、あるいは中立地での試合がアジアで続く中、ある意味でやっと最終予選らしい雰囲気になったわけである。

試合を互角以上に進めながら僅差で日本が負けたのは、アウェーの環境が生み出した影響であったと思う。高温多湿の気象条件も含め、やはり日本のエネルギーが徐々に削られた面はあったのだろう。

逆にオーストラリア戦は埼玉スタジアムというホームの恩恵にあずかった。こちらは試合前に政府・自治体が定めるイベント人数制限の上限を1万人から1万5千人に増やした。新型コロナウイルスのワクチン接種済み、または国が指定した形で陰性証明がなされることを条件に5千枚のチケットの追加販売が認められたのだ。

たった5千人と笑うことなかれ。声援ができなくても鳴り物を使えなくても、とにかく勝利を願う人が客席に多ければ多いほど、選手やチームに補給されるエネルギーは増えるのがスポーツというものだ。

オーストラリアは日本の布陣を4-2-3-1と想定していたようで、4-3-3を日本が採用したこと、またインサイドハーフに抜てきした田中碧(デュッセルドルフ)と守田英正(サンタクララ)の特長をつかみきれず、後手に回る格好になった。日本はハイプレスが効いて開始8分で田中が先制点を奪った。試合を通して遠藤航(シュツットガルト)をアンカーに置いた逆三角形の中盤が、相手のボランチの脇をうまく使えていた。

サウジ戦は出場停止だった伊東純也(ゲンク)の復帰も大きかった。相手DF陣はワントップの大迫勇也(神戸)のポストプレーを警戒して中を閉じていた。左には南野拓実(リバプール)がいて、この要注意人物と大迫の絡みをどうしても恐れる。それで右サイドに張った伊東の槍(やり)のような走りが、どんどん生きる形が整った。78分から浅野拓磨(ボーフム)が入ると左の攻めも速くなった。

理にかなった森保監督の選択

61分に大迫に代わって出てきた古橋亨梧(セルティック)と伊東、浅野の「韋駄天(いだてん)トリオ」にオーストラリアは相当てこずった。彼らが裏を突く動きを繰り返せば、おのずと相手の守備ラインは下がり、中盤に余裕ができる。それを見越して、85分にうまく時間と空間を使える柴崎を出した森保監督の選択は理にかなったものだった。

86分の浅野のシュートは相手オウンゴールと記録されたが、クリアし損ねた格好のべヒッチには酷だった。GKライアンがシュートに触れていなければ入っていたし、そのシュートに対して日本は2人の選手がべヒッチを挟み込むように詰めていた。

近ごろの試合はGKとDFの間を鋭く通すラストパスが増え、戻りながら守備をする側のオウンゴールが増えている。それはラストパスに合わせてなだれ込んでいく攻め手がいるから起きることで、べヒッチをしっかり雪隠(せっちん)詰めにした日本は「オウンゴールに救われた」わけではなく、あれは〝立派な決勝点〟と胸を張っていい。

たぎる野心みたいなものが交代で入る若い選手にはあるが、今回はそれがうまく出た。これで中堅、ベテラン組も火がつくだろう。チーム一丸は当たり前のことで、チーム内にポジションを巡る競争があって、それを外向きのパワーに転化させて予選をくぐり抜けていかないと、チームに成長は見込めない。

正念場の一番で森保監督は先発とシステムの変更に打って出て、勝利をたぐり寄せた。が、システムに万能はなく、どんな形にも強みと弱みが派生する。日本が何をするか相手に読ませない、戦術的な幅を出せるメンバーはそろっているのだから、今後も固執することなく柔軟に緻密にやっていけばいい。慎重な性格の森保監督だが、監督自身も最終予選を通じて成長していけばいい。この逆境を乗り越えたとき、監督として一回りも二回りも大きくなっていることだろう。

今後の最終予選の戦いで気になるのはセットプレーの失点だ。オーストラリアに追いつかれた70分のFKは決めたフルスティッチを褒めるべきかもしれないが、東京五輪以降セットプレーからの失点が続くのはやはり気になる。上のレベルの戦いになればなるほど、小さな詰めの差で勝敗が決まるからだ。

オーストラリアはスピード勝負では長友佑都(FC東京)、酒井宏樹(浦和)の両サイドを崩せないと見るや、シンプルなロングボール攻撃に切り替えた。

3年前のロシアのW杯でも、攻めあぐねたベルギーは大型選手を前線に投入し、ハイクロス攻撃で反撃ののろしを上げた。今夏の東京五輪の3位決定戦で高さのミスマッチを突くメキシコに3失点したのは記憶に新しい。10月8日のサウジ戦もFKからあわや失点という場面があった。

ノーマルな攻めであれ、セットプレーからであれ、高さを武器に持つチームは必ず日本に空中戦を仕掛けてくる。早急に改善が必要であり、長い目で見ると、攻守両面でセットプレー対策を突き詰める、専門のコーチの養成と配置を育成年代のチームから考えたい気もする。

最終予選無条件突破は勝ち点20?

個人的には最終予選を無条件でクリアできるラインは勝ち点20と見ている。2勝2敗で現在勝ち点6の日本がそこに到達するには、残り6試合で5勝1敗、4勝2分けの線が必要。ベトナム、オマーンとのアウェー2連戦が待つ11月も負けられない戦いは続く。が、ノックアウト方式で優勝を決める大会ではないから、まだ1敗はできるという余裕もどこかで持っていてほしいと思う。

B組で3位になるとアジアA組、他大陸代表とのプレーオフに回る。アジア最終予選よりさらに厳しい戦いになるが、そういうしびれまくる試合を勝ち抜いて底力をつけるのは悪いことではない。そうなったらそうなったで、覚悟してやればいいだけのこと。

カタールの本大会のことを考えたら、ぎりぎりまで追い詰められて勝ち抜いて出るW杯の方がいい気もする。チームにまとまりがあれば、苦境の中で根底から引き出されるものがある。外からあれこれ言われても、それすら活用して強くなっていけばいい。

現欧州王者イタリアもロシアのW杯は欧州予選で敗退し出られなかった。当時世界王者だったドイツは本大会で韓国に不覚をとり、1次リーグで消えた。アジア最終予選も周りのレベルがさらに上がり、楽に勝てる試合は一つもない。

日本が一番警戒すべきは「円熟の落とし穴」にはまること。メンバー表の顔ぶれを見て、所属クラブ、年齢構成、経験値を比べて「負けるわけがない」と思ったときから、落とし穴に向かって歩き出している。自信と過信の境界を歩きながら、過信の側に落ちないメンタルコントロールが残り6試合、必要になる。

(サッカー解説者)

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