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琵琶湖の6倍「東海湖」跡に太古の粘土 瀬戸・常滑焼育む

ナゴヤのトリセツ

愛知は古くから焼き物が盛んな土地で、伝統の「日本六古窯」にも瀬戸焼と常滑焼が名を連ねる。なぜ、それほど窯業が根づいたのか。歴史をたどると、太古の巨大な湖である「東海湖」が果たした不可欠な役割が見えてきた。

焼き物を作る道具の廃材を敷き詰めた幾何学的な石垣。その先に、斜面へ沿って長さ14メートルに及ぶ巨大な窯が姿を現す。江戸時代に創業した窯元「瀬戸本業窯」だ。ベテランの陶工が瀬戸特有の伸びやすく白い粘土を美しい器に形作る。この窯では年間2千から3千ほどの陶器を手掛ける。

瀬戸は日用品として使われる飲食器の産地で、陶磁器の総称である「せともの」の由来でもある。創業家の水野雄介さん(41)は「瀬戸焼は、日常生活で使われる中で生まれる美しさがある」と魅力を語る。「手に取って使うからこそ、手仕事でしかかなえられない肌触りにこだわった」。機械化が主流になる中、昔ながらの手作業を続ける。

「瀬戸の白い粘土を生んだのは、東海湖(ができる)以前にあった凹地だったんです」。愛知県陶磁美術館の学芸員、佐藤一信さんは明かす。凹地には、周りの山や丘から花こう岩の白っぽい粒が流れ込んでおり、底に粘土質が形成された。

名古屋市史によると、650万年前~100万年前、伊勢湾北部から濃尾平野に至る巨大な湖「東海湖」があった。最大で琵琶湖のおよそ6倍の大きさだったとされ、三重県にある国の天然記念物の湿地「御池沼沢植物群落」に生える植物はその名残を残す。地殻変動によって東海湖は姿を消したが、堆積した粘土は焼き物に欠かせない原料となった。

豊富な粘土が支える中部地方の窯業。その起源は5世紀後半にできた「猿投窯(さなげよう)」に遡る。名古屋市東部の丘陵に位置し、東山動植物園(同市千種区)には発掘当時の窯が保存されている。古墳に飾る埴輪(はにわ)に始まり、鎌倉時代まで焼き物の生産が続いた。

当初は今の名古屋市東部が中心だったが、燃料の木々を求める人たちが南北に産地を広げた。約20キロ四方に1000カ所を超える小さな窯の跡が確認されている。「とこなめ陶の森」の学芸員、小栗康寛さんは「北上して盛んになったのが瀬戸焼。南下で発展したのが、常滑焼だった」と語る。

粘土質の露出が多い土壌を「床(とこ)が滑(なめ)らか」と呼ぶようになり、「そこから常滑市に転じた」(同市)との説もある。粘土は鉄分を多く含み、焼くと褐色になるのが特長だ。「海が近く船で物資を運搬できたため、瀬戸と違って大きな水がめなどを作って栄えたそうです」(小栗さん)。

江戸時代に生まれた朱泥の急須でも知られ、明治時代には水道の土管や帝国ホテルのタイルなど工業向けに多くの焼き物を作った。「INAX」(現LIXIL)が創業したのも常滑だ。

長い歴史を誇る産地にとって、担い手の不足は大きな課題。常滑市では最盛期に300カ所を超えた窯元が100カ所ほどに減った。瀬戸でも地元の組合に加わる事業者が多いときの3分の1ほどになった。

瀬戸の組合は19年、会員を増やすため、気軽に組合員を体験する「準会員」の仕組みを始めた。地元商店街の窯元も手ぶらで焼き物を体験できる店舗の「CONERU」をオープン。店主の牧幸佑さんは「陶芸は難しいというイメージを払拭し、若い人にも裾野を広げたい」と意気込んでいる。

(宮田圭)

戦国時代、移った陶工で美濃焼が発展


瀬戸焼の始まりは平安時代後期に遡る。植物の灰を混ぜた上薬をかけて焼くことで光沢を出す「灰釉(かいゆう)陶器」が作られた。1933年には、旧国鉄が越美南線の工事中、長滝白山神社(岐阜県郡上市)に「正和元年」(1312年)と刻まれたつぼを発見。年代が明らかな瀬戸焼としては最古だという。
転機が訪れたのは戦国時代だ。諸説あるものの、織田信長の美濃進出に伴い、瀬戸の窯屋の多くが現在の岐阜県に移転したとされる。岐阜県土岐市や多治見市を中心とする美濃焼は瀬戸から移動してきた陶工たちが発展させたというわけだ。1584年の「小牧・長久手の戦い」をはじめとする戦火を避けたとの学説もある。
このほか三重県四日市市の万古焼は土鍋が有名で、優れた耐熱性が特長だ。熱に強い葉長石(ようちょうせき)と呼ばれる鉱石を混ぜているという。強度が増し、じか火や空だきにも耐えることができる。この技法は、四日市万古焼の特許となっている。
三河地方では愛知県高浜市を中心に三州瓦が作られている。この地域で採れる粘土はきめが細かく高品質であるため仕上がりが美しいとされる。三州瓦は1100℃以上の高温で焼き締めるため、耐久性が高く、雨水にも強い。最近では、人気アニメ「鬼滅の刃」と連携した商品を販売し、注目された。

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