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保守分裂ドミノ、地方の反旗 小選挙区25年で出馬枠減り

政界Zoom

各地の知事選で保守分裂が相次ぐ。一因とされるのは導入から四半世紀を迎えた小選挙区制だ。国政選挙に出るチャンスが減った地方議員の不満が蓄積した一方で、自民党本部や派閥の地方への統制は弱まった。国会議員が推す候補に、地方議員が反旗を翻す土壌ができあがった。

岐阜県知事選で5選を決め、支持者と喜ぶ古田肇氏(右、24日深夜、岐阜市)=共同

24日に投開票した岐阜県知事選は55年ぶりの保守分裂選となった。現職の古田肇氏に対抗馬を立てたのは当選13回で「岐阜政界のドン」と呼ばれる自民党の猫田孝県議。「県議の意見を聞かない」と古田氏を批判し、内閣府官房審議官だった江崎禎英氏を新人候補として担ぎ出した。

同じ自民党の野田聖子幹事長代行ら国会議員は「長老支配の政治だ」と猫田氏に反発した。県選出の国会議員7人のうち6人が古田氏の陣営についた。接戦を制した古田氏があいさつに立ったのは前回知事選より2時間以上遅い午後10時半だった。

野田氏は自身が推す候補を勝利に導きながらも「1つにまとめられなかった」と語り、県連会長を降りると表明した。他の県連役員にも辞任を促した。自民支持層を割った戦いのしこりが残った。

保守分裂選は増加傾向にある。分裂した知事選を5年単位で集計すると2017~21年は8件で、20年前から倍増する見通しだ。19年の統一地方選は11の知事選のうち島根、福岡、徳島、福井の4県で分裂した。いずれも少なからぬ県議が党本部や国会議員の方針に従わなかった。

背景には1996年に小選挙区制を導入した影響が徐々に出てきたことが挙げられる。衆院選小選挙区で1人しか当選できない制度で、中選挙区時代に比べて新人が出馬しにくくなった。自民党の大勝が続く12年以降は、落選した候補に取って代わる機会も少ない。

駒沢大の大山礼子教授は「昔は現職がいても無所属で出馬し、当選後に追加公認を受ける道があった。今はそうした挑戦はほぼ不可能だ」と指摘する。たまった不満が県議を反乱に駆り立てる。

小選挙区制は保守分裂につながる別の要因ももたらした。中選挙区制で国会議員は地元の県議や市議を応援し、自らの系列議員を多く作った。原資となったのは派閥からの支援だった。党本部が公認権を握る小選挙区制で派閥は次第に弱体化した。

国会議員や派閥による地方選への関わりは以前に比べて薄くなった。東北大の河村和徳准教授は「国会議員が氷代や餅代を配り、地元議員が借りを返す『ご恩と奉公の関係』がなくなった」と説明する。地方議員への統制が弱まれば分裂は起きやすくなる。

同様の現象は一部の国政選挙でも起きている。次期衆院選で熊本2区の野田毅元自治相、福岡5区の原田義昭前環境相に県議が対抗馬を立てる動きがある。河村建夫元官房長官が現職の山口3区では、参院山口選挙区の林芳正元文部科学相によるくら替えが取り沙汰される。

分裂選は自民党が強固な地盤を持つ西日本に偏在する。野党候補が弱いため保守層が割れても勝てるという計算が働く。神戸大の砂原庸介教授は「野党が強ければ分裂しにくい。知事の多選などで権力集中が進み、それを好まない自民党の勢力が出てくると分裂する」と解説する。

地元の分裂は次の選挙に悪影響をもたらしかねない。自民党本部は次期衆院選をにらみ、地方議員の感情に一定の配慮を示す。過去の選挙で比例復活が2回以上続いた議員に、小選挙区と比例代表の重複立候補を認めない方針を打ち出したのはその一環だ。

比例代表で73歳以上の立候補を認めないルールについて若手議員が「厳守」を訴えるのも同じ文脈である。

目先の選挙で勝つには現職優先での対応が有利とされるものの、地方地盤が揺らぐのも避けたい。党本部は選挙直前まで情勢の見極めに追われる。小選挙区制の導入時に想定していなかった影響はこんな形でも表れている。

〈記者の目〉弱い野党より保守分裂

保守分裂は多選候補がいる選挙で起きやすい。岐阜県知事選は県政初の5期目を狙う現職と新人の争いだった。新人陣営は「新たな政策が見えない」と批判し、現職側は新型コロナウイルス下で「船頭を変えるべきではない」と訴えた。

多選は権力の固定化や業界との癒着といった指摘がつきまとう。多選自粛条例を定める地方自治体があるものの、多選が問題とは一概に言い切れない。是非は選挙による有権者の判断に委ねられればいい。

接戦となった岐阜県知事選の投票率は20年ぶりに45%を超えた。野党が弱い候補しか立てられないなら、有権者に現実的な選択肢を示す点で保守同士が政策論争を交わす構図は悪くない。コロナ対策で知事の責任が増す今、多選知事に挑む保守候補がもっと出てもいい。(名古屋支社 林咲希)

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