名鉄「にしがま線」てこ入れ再び 復刻列車や駅ピアノ - 日本経済新聞
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名鉄「にしがま線」てこ入れ再び 復刻列車や駅ピアノ

愛知県の三河南部。名古屋鉄道の西尾駅(西尾市)と蒲郡駅(蒲郡市)の間、通称「にしがま線」の存続を目指し沿線の自治体が再び動き出している。かねて廃止が議論され沿線ウオーキングといったイベントで乗客数は盛り返していたが、新型コロナウイルス禍が直撃。ここに来て行楽の足が回復しつつあるとみて、てこ入れに躍起だ。

にしがま線は名鉄西尾線の西尾―吉良吉田駅間と、蒲郡線(吉良吉田―蒲郡)を指す。西尾線は名古屋駅から急行が直通するが、南端に近づくと周りには農地が多い。吉良吉田駅では乗り換えが必要だ。

蒲郡線では三河湾をのぞむ丘と集落を縫うように、2両編成のワンマン列車が上下左右に車体を揺らす。かつて温泉や観光地に多くの客を運んだが、目立つのは通学の高校生。いずれも乗降人数が1日千人に満たない駅が並ぶ。終点の蒲郡駅にはJR東海道線が隣接、名駅からの時間は勝負にならない。

存廃の議論は、名鉄が「経営努力の限界」として沿線の自治体に協力を呼びかけた2005年にさかのぼる。新型コロナ禍を受けた21年末、にしがま線の20年度路線収支について名鉄は8億円の経常赤字と公表。沿線の2市などでつくる対策協議会に「一事業者の自助努力だけで路線を存続させていくことは大変厳しい」と説明した。愛知県と岐阜県にまたがる名鉄の路線でも最大の懸案とされる。

沿線自治体は維持費を一部負担している。協議会は名鉄を交え20年に、25年度までの路線存続を決めたが、それ以降は「検討中」だ。今のところバスへの切り替えといった具体像は浮上していない。25年度の利用者を18年度と同様の340万人ほどに回復させる目標を掲げる。

まずは駅のスタンプラリーといった得意のイベントに加え、鉄道愛好家を含めた行楽客の呼び戻しに力が入る。

1980~90年代に名古屋本線などを走った人気特急、7000系パノラマカーのシンボル、車体に白いラインをほどこした「白帯車」を3月からスタート。9月には中部国際空港への空港特急「ミュースカイ」が西尾駅から蒲郡駅まで足を伸ばした。2日間限定で合計4便はすべて定員いっぱいだ。

協議会では地元の人にも乗ってもらおうと、西尾市内の子どもが描いた沿線や電車などの絵を11月に白帯車に飾る予定だ。23年には東幡豆(はず)駅を、干潮時に歩いて渡れる近くの島にちなみ「トンボロ干潟の見える駅」というように副駅名をつける計画もある。

さらに蒲郡線の西浦駅は駅舎をリニューアルする予定で、西幡豆駅と東幡豆駅も改修する案が浮上している。西尾駅には22年3月、同市が「おいでっき」と名付けた多目的スペースを設け、誰でも自由に弾ける「駅ピアノ」を置いた。

JR東海を除くJR各社が路線別収支を相次いで明らかにし、ローカル線の存廃を巡る議論は全国で盛んだ。新型コロナ禍で置かれた環境は大手私鉄も同じ。名鉄の23年3月期純利益は160億円の見込みで、19年3月期の5割ほどの水準にとどまる。

名鉄は04年に吉良吉田―碧南駅(碧南市)間と、猿投駅(豊田市)―西中金駅(同)間の三河線を廃止。05年には岐阜県内の揖斐線、岐阜市内線、美濃町線、田神線の運行を終えている。近畿日本鉄道も00年代以降、三重県内の内部・西日野線(四日市市)や伊賀線(伊賀市)といった路線を地元などに経営移管した。

最近は、鉄道を使う機会は少なくても列車が走る風景を大切にすることが「センチメンタルバリュー(情緒的な価値)」と呼ばれる。鉄道への過剰な評価を突き放す視点と言える。にしがま線も、現実的な価値を見極めようとされている。

(梅野叶夢)

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