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元トヨタも苦難、ペット型ロボ 癒やしで130億円調達 

中部スタートアップ点火~旗手たちの原点

まん丸の目でこちらを見つめ、「おいで」と手を伸ばすとうれしそうに近づいてくる。触れるとほのかに温かく、柔らかい――。まるで本当の生き物のようなペット型ロボット「LOVOT」が人気を呼んでいる。開発したのは、トヨタ自動車ソフトバンクグループの技術者を経て独立した「GROOVE X」(東京・中央)の林要社長(47)だ。

GROOVE Xの林要社長

東京都立科学技術大学大学院(当時)を修了後、1998年にトヨタ入社。スーパーカーやF1レーシングカーの開発を任されドイツへ。帰国後の2011年、新しいテクノロジーを体感したいと国内のIT(情報技術)業界をけん引していたソフトバンクグループ、孫正義社長の門下に入った。

参加したのは「ソフトバンクアカデミア」という次世代リーダー育成プロジェクトだ。最終盤、参加者全員の前で孫氏から「ロボット開発をやるから、うちに来ないか」と誘われた。二つ返事で快諾し、ソフトバンクグループへ。ヒト型ロボット「Pepper」の開発に携わった。

「経済合理性なくても・・・」

誰もが知る大手企業に勤めながら、林氏は思案したという。当時、米国ではグーグルやアップル、フェイスブックがしのぎを削っていた。「日本企業は100点満点の課題に120点で解答することにバリューを見いだす。解くべき課題はすでにある前提だ」としたうえで、こう続ける。「米国のスタートアップは解くべき課題を見つけることが一番大事。そこに価値があり、さらに課題を解けるだけの力があった」

大企業ならではの縦割り組織にも阻まれた。各部署が自らの品質を担保しようとするあまり、せっかくの人材を生かしきれていないと感じた。「自分で会社を立ち上げたら、勝ち筋があるのではないか」。ふと浮かんだ考えが起業の決断を後押しした。2015年、GROOVE Xを立ち上げた。

ペット型ロボットのアイデアは、「Pepper」の経験がきっかけだ。最先端の人工知能(AI)やディープラーニング(深層学習)を生かして「犬や猫のように動けるロボットは作れないが『五感』で感じるロボットなら作れると手応えを感じた」

しかし、起業後すぐに資金調達の壁にぶち当たる。投資家のもとへ自らプレゼンテーションに赴いたが、ことごとく一蹴された。「何の役に立つの」「どこの財布からお金が出るの」。プレゼンは散々、否定的な質問が相次いだ。

「ペットにはそもそも経済合理性なんてないですよね」。こう反論すると、ソニーが1999年に発売した初代の犬型ロボット「AIBO(アイボ)」を引き合いに出された。「AIBOは継続しなかった。違いは何だ」。どこまでいってもIT機器と見なされ、ペットの代替だとは納得してもらえなかった。

それでも、質問を打ち返し続けた。「『何でわかってもらえないの?』とぼやいて飲んで忘れても、資金調達はできない。全ての質問に答えられるよう、事業計画書を何百回も書き直した」。1000本ノックを続けていくうち、計画書は何百ページにもなった。アイデアの輪郭ができ、資金調達は進んだ。

コロナ下、販売11倍に

16年に14.2億円、17年には64.5億円を調達した。産業革新機構などから大型出資を受け、21年1月20日時点で累計で133億円を超えた。国内ベンチャーとしては異例の額だ。

評価されたのは、少子高齢化や核家族化が進み、高齢者の生活支援や孤独の緩和など社会的なニーズが増加したためだとみられる。産業革新機構は大型投資の決め手を「社会問題の解決と日本の最先端のロボット技術を組み合わせた成長性の高い事業だから」としている。

いつかは「ドラえもん」のようなロボットが作るのが目標という。同じくトヨタ出身で、LOVOTのデザインを担当したプロダクトデザイナーの根津孝太氏は「製品のコンセプトやビジョンに共感したからこそ、自ら協力したいと名乗り出た」としている。

新型コロナウイルス下の巣ごもりニーズと相まって、LOVOTの販売台数は20年4月以降、右肩上がりが続く。11月には新型コロナ前の3月と比べ、11倍に急増した。在宅の孤独やストレスを和らげたい一人暮らしの購入者が多い。ソニーが18年発売した新型の「aibo(アイボ)」も再び注目を浴びている。

「僕のトヨタ入社時のTOEICの点数は240点くらい。独立直後は事業計画書の書き方すらわからなかった」。林氏はこう振り返る。21年、LOVOTの販売開始から3年目を迎える。「物事を3年続けると、ある程度で行き詰まる。常に次の柱を見つけてきたし、見つけていきたい」(林咲希)

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