技能実習生かなわぬ帰国、逃げ込んだ工場がコロナ破産
点描・中部シゴトの影
「早く帰国して妻と8歳の娘に会いたい……」。ベトナム人男性(31)は望郷の念を募らせる。新型コロナウイルスの影響で、勤めていた愛知県内の自動車部品工場が昨年6月に破産手続きの開始を申し立てた。未払い賃金があったが、11月に会社側から告げられたのは「全額払うのは難しい」との言葉。失意と落胆の日々を送る。

男性は2016年に外国人技能実習生として日本に来た。福岡県の建設現場で働いていたが、18年夏、日本人の同僚のいじめや暴言に耐えられず、逃げた。同胞の紹介でたどり着いたのが愛知の工場だった。気づけば在留期限が切れ、不法滞在の状態で働いていた。
コロナ禍でベトナムとの往来は制限され、希望する在留ベトナム人の帰国の手続きを大使館が進めているが、早期帰国がかなわない人は多い。男性の生活は苦しく、旅費を払うのも難しい。スマートフォンは使いたいときだけ友人に借りる。
来日前に抱えた2億ドン(約90万円)の借金は半分しか返せておらず、足りない生活費を補うためにさらに約40万円を知人から借りた。「今は友達の家で過ごすしかない。つらい」
厚生労働省によると、新型コロナの影響で解雇された技能実習生は、昨年10月下旬までに全国で4千人を超える。このベトナム人男性のように、当初の実習先からいなくなった人は統計に含まれず、困窮している人はより多いとみられる。
16年に実習生として来日したベトナム人男性(27)も、勤め先だった蒲郡市の染色工場が18年に倒産。大阪で解体などの仕事を転々としていたところを新型コロナが襲った。働き口を失って貯金も尽きた。昨秋、苦境にあえぐベトナム人らに住まいを提供する「徳林寺」(名古屋市天白区)に駆け込んだ。
1993年創設の技能実習制度は、日本で学んだ技術を生かして母国の発展に貢献してもらう目的を掲げる一方、実習生は人手不足の業界には欠かせない労働力となっていた。ただ、コロナ禍で職を失う実習生が相次いでいる。「国際貢献」の建前とかけ離れた実態が改めて浮き彫りになった。

立命館大学経営学部の守屋貴司教授(社会学)は「しっかり技能が身につく実習制度を組む企業もあるが、安価な労働力として単純労働しかさせない企業もある」と話す。多くの実習生は来日前に借金を背負い、現地の「送り出し機関」に簡単な日本語などを身につける授業の対価を支払う。守屋教授は「不法就労につながりかねず、母国で借金を背負わすシステムは転換すべきだ」と指摘する。
ものづくりが盛んな愛知県は実習生の人数が全国最多で、19年10月末時点で4万3210人に上る。実習生の受け入れを手がける「GTS協同組合」(知立市)によると、長く滞っていた受け入れは昨年秋ごろから再び増えてきた。仕事を求めて来日する若者らが数年後、晴れ晴れとした思いで故郷に帰ることができるのか。ふさわしい制度設計が問われている。