牛の脱炭素、放牧に解? 北海道の菓子メーカー山を買う

ミルククッキー「札幌農学校」のきのとや(札幌市)のグループ会社は、2021年に買った札幌市内の盤渓山近くの山で放牧を9月に始める。将来的には育てた牛から絞る牛乳でスイーツをつくる。脱炭素の機運が高まり、酪農分野でも温暖化ガスの削減を迫られている。菓子メーカーも注目する放牧酪農とは何か。
放牧酪農では牧場内の牧草地を複数の区画に分けて数日おきに牛を移動し、牧草をまんべんなく食べさせることが多い。草の利用と生育を繰り返すことが狙いだ。日々の搾乳や雪が降る冬は牛舎で飼育する。
農林水産省によると、全国で飼育する乳牛は20年時点で約135万2000頭。放牧牛はうち2割の27万3000頭程度だ。北海道の放牧頭数は25万頭前後と9割強を占める。

きのとやグループのユートピアアグリカルチャー(北海道日高町)が札幌市内の山を買った。山での放牧に先立ち、同社が持つ日高牧場で調べた土壌の炭素量や牧草の窒素量など栄養分のデータを基に、森林や牧草地への二酸化炭素(CO2)吸収量を予測するための実証実験をしている。
放牧酪農は脱炭素にもつながる。トウモロコシなど飼料を増産するための森林伐採を食い止められるほか、飼料輸出入にかかるCO2を抑えられる。牛のふん尿は牧草の栄養源となり、育った草が光合成でCO2を吸収する。

放牧酪農は牛のゲップに含まれる温暖化ガスの影響も緩和できる。牛のゲップには温室効果が二酸化炭素の25倍といわれるメタンガスが含まれる。10年に排出した世界の温暖化ガスのうち、4分の1程度が農林水産業由来だった。農業では家畜のゲップなど消化酵素の働きによるメタン排出が温暖化ガスの4割を占める。
農林水産省の試算では放牧酪農の経費が牛舎で育てる「舎飼い」に比べ、乳牛1頭あたり約18%少ない。自ら牧草を育てる放牧酪農は海外からのエサの輸送コストがかからず、為替や飼料価格の影響を受けにくいからだ。農水省の「食料・農業・農村白書」によると、国内の飼料自給率は25%(2020年度)。酪農は飼料を輸入に頼っている。

ユートピアアグリカルチャーの長沼真太郎社長は「ベジタリアンやアニマルウェルフェア(動物福祉)に関心のある層に響くことは間違いない。生産者の顔が見えることで、家庭で安心して食べてもらえる」と話す。
課題もある。北海道大学の内田義崇准教授は「土壌や牧草などの炭素、窒素などをきちんと管理することが必要だ」と指摘する。農畜産業振興機構(東京・港)は、飼育する牛も多くなりすぎると牧草を再生産できなくなるとみているほか、海外では水質汚染の報告も出ている。
(神野恭輔)

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