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直接上場やSPAC 新たな調達・出口戦略の長短所

米国などでは従来と違った方法で新規株式公開(IPO)に踏み切るスタートアップが増えている
CBINSIGHTS
ベンチャーキャピタル(VC)はスタートアップ企業の成長に欠かせない。米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビー、宇宙開発のスペースXはVCの後押しを受け、新市場を切り開いてきた。新型コロナウイルス下でもVCからの資金供給量は減らず、米企業への投資額は2020年に過去最高に達した。しかし、足元では別の選択肢も現れている。一例がクラウドファンディングによる資金調達や特別買収目的会社(SPAC)を使った上場だ。新たな資金調達手段と出口戦略について、メリットとデメリットを紹介する。

VCはイノベーション(技術革新)やスタートアップの成長を支える基盤になっている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

VCがもたらす資金や名声、助言により多くの企業は事業を構築し、何十億ドルもの利益を上げてきた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により投資活動は当初減速したが、市場はすぐに回復し、2020年7~12月期には過去最高を記録した。

20年のVCによる米企業への投資額は過去最高の1300億ドルに達した。宇宙開発ベンチャーの米スペースXによるシリーズJラウンド(調達額19億ドル)など超大型のVC案件や、米民泊大手のエアビーアンドビーや米料理宅配サービス大手ドアダッシュ、企業向けデータ保管・分析サービスの米スノーフレイクなどVCから出資を受けた企業による数十億ドル規模の新規株式公開(IPO)が常に見出しを飾っている。

20年のVC投資額、コロナ禍にもかかわらず過去最高を記録(米スタートアップによる年間調達件数と調達額) 出所:プライスウォーターハウスクーパース(PwC)/CBインサイツ「マネーツリー・リポート20年10~12月期」

だが、VCは唯一の選択肢ではない。

成長を目指す企業はこれまで、VCマネーを取り込み、追加の調達ラウンドでさらに多くのVCマネーを取り込んだ後、最終的にはIPOを通じて公開市場へのエグジット(出口=利益の獲得)を果たしてきた。IPOはベンチャー投資家にとっていわば給料日だった。だがここ数年は、この従来のルートの魅力的な追加や代替の手段として、他の調達形態が勢いづいている。

資金供給ルートは従来のVC以外にも広がりつつある

今や規模を迅速に拡大しようとするスタートアップにとってVCは必須ではなくなり、IPOはもはや唯一の最終目標ではなくなった。このリポートでは、スタートアップが現在利用できる様々な資金調達やエグジットの選択肢について取り上げる。クラウドファンディングやエンジェル投資から未上場株の売買、SPACに至るまで、現在のスタートアップが利用できる様々な調達手段のメリットとデメリットについて調べる。

なぜVCが成長したのか

VCは様々な業界で有力な投資勢力へと成長した。配車サービスの米ウーバーテクノロジーズ、民泊のエアビー、宇宙輸送のスペースXのように、VCから出資を受けた多くの企業が新たな市場カテゴリー全体の成長を促している。こうした例はVCの歴史がいかに絶え間ないイノベーションに特徴づけられているかを示している。

VCとは

ベンチャーキャピタル(VC)は機関投資家や個人富裕層向けの投資手段だ。各社はリミテッド・パートナー(LP)と呼ばれるこうした投資家からの資金をプールし、ベンチャーファンドを組成する。ベンチャーファンドは買収やIPO、合併などの「流動性イベント」が起きた際に持ち株の一部または全てを換金することを目標に、様々な投資段階のスタートアップの株式を買う。

VC投資はハイリスクだが、ハイリターンを得られる可能性もある活動だ。VCから出資を受けたスタートアップの3分の2は失敗に終わるが、成功した企業は巨額の利益を生む場合がある。一例は米フェイスブックだ。米VCアクセルパートナーズは05年、フェイスブックの株式10%を1270万ドルで取得した。この大手ソーシャルメディアが12年に上場すると、アクセルは投資から90億ドルの利益を手にした。

VC投資家は長期的なプレーヤーだ。いずれ市場(の平均)を上回るリターンを達成すると期待し、数回のラウンドを通じてスタートアップに数年にわたって資金を提供する。こうした投資の多くは失敗に終わるが、優れたVCは多くの損失があってこそめったにない大成功をものにできると知っており、そう想定している。投資が大成功すればVCのリターンの大半をもたらし、損失を全て埋め合わせてくれる。

スタートアップは初期のシード段階では、VCから調達した資金で「実用最小限の製品(MVP)」を開発する。次の段階では、調達資金を新たな事業チャネルの調査や製品の改善、近隣市場への事業拡大に使う。その後の段階では、さらなる成長やライバル会社の買収、上場準備に充てる。VC投資の最終段階では、前述の流動性イベントの一つを通じてエグジットを果たす。

スタートアップによる資金調達の段階 出所:米ユニバーシティ・ラブ・パートナーズ

スタートアップが目指す市場は大きければ大きいほどよい。このため、BtoB(企業向け)ソフトウエア、BtoC(消費者向け)ソフトウエア、消費者に商品を直接販売するD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)、生命科学産業など、対象市場が非常に大きく、初期費用が少ない分野でVC投資が最も盛んなのは驚きではない。米グーグルやビジネスチャットの米スラックなどの企業は、VCからの資金調達も奏功して支配的な地位にのし上がった。

VC資金調達のメリット

スタートアップがVCからの資金調達を目指す理由はたくさんある。一つには、銀行は担保がほとんどない初期段階の企業に融資を提供する可能性が低いのに対し、VCは財務諸表以外にも目を向けてスタートアップの価値を評価するからだ。VCは銀行とは違い、製品や創業者、推定市場規模を考慮してスタートアップに資金を提供するか否かを判断する。VCは投資に伴い株式を取得し、スタートアップは借金を抱えることなく規模を拡大できる。

多くのVCには初期段階の企業を監督する豊富な経験がある。VCからの助言は特に初めての創業者にとって非常に貴重だ。

スタートアップはVCのコネやリソース、専門知識も活用できる。米VCアンドリーセン・ホロウィッツ(a16 z)は出資先スタートアップに様々な会計やマーケティングのサービスを提供している。米アルファベットのVC部門であるGVは、スタートアップの製品設計やマーケティングを支援している。

VC資金調達のデメリット

VCとの提携における問題の一部は、起業家が資金と引き換えに多くの株式を配ることで生じる。投資家はその企業の一部所有者になり、IPOや買収など流動性イベントの際には持ち分に応じた分け前を手にする権利がある。投資家が受け取る株式が増えるほど、社員や経営陣に残る分は減る。このスタートアップが大成功を収めれば、創業者は銀行融資を受けていた場合よりもはるかに巨額のお金を提供する羽目になるかもしれない。

VC投資を利用することは、その会社の経営権を一部失うという意味にもなる。投資家は大抵、取締役に就く。製品の発売時期やエグジットの達成方法など一定の経営判断に影響を及ぼしたがるかもしれない。

さらに、VCは巨額のリターンを求める。企業は毎月成長し続けるよう迫られ、顧客獲得に大量の資金を費やすことになるかもしれない。こうしたプレッシャーがマイナスに作用する企業もある。しかも、全ての企業が驚異的な成長を追求したいわけではない。

例えば、米ゲームスタートアップのアルカディアム(Arkadium)は自力で社員150人を抱えるまでに成長した。同社は13年、うまい話に魅了されてVCから500万ドルを調達した。ところが、創業者のジェシカ・ロベロ氏とケニー・ローゼンブラット氏は資金を調達し続け、上場を目指して絶えず成長することを渋ったため摩擦が生じた。同社は出資を受けていたVCとの条件を満たせなくなり、自社の利益を使って投資家の持ち株を買い上げ、18年に独立した状態に戻った。

VCエコシステム(生態系)のもう一つの根強い問題は、投資家に多様性がない点だ。米VCの意思決定者の約9割は男性で、これによりどの起業家が資金を得られるかに歪みが生じている。VCが19年に創業者が全員女性のスタートアップに投資した額は計33億ドルで、同年の米スタートアップへの投資額全体の2.8%にとどまった。

投資家の口コミ評価サイトを運営するレート・マイ・インベスターのリポートでは、VCマネーの大半は白人男性が経営するスタートアップに投じられていることが明らかになった。一方、別の研究では黒人起業家は白人起業家に提供される資金の3分の1で創業していることが示されている。

こうした点を考慮すると、VCに頼らないことを選ぶスタートアップが存在するのもうなずける。様々な代替調達手段が成長しているため、VCは単に不要なのかもしれない。

増えつつある資金調達オプション

VCからの資金調達だけでなく、他の調達手段も成長している。企業は今や、クラウドファンディングやローリングファンド、ダイレクトリスティング(直接上場)など、従来のVC資金調達の追加・代替になる資金調達やエグジットの多様な選択肢を得ている。自らのニーズや成長段階に適したオプションを選べるようになった。

こうした資金調達の選択肢の一部と、それが現在の起業家に及ぼす影響についてまとめた。

クラウドファンディング(通常は初期段階)

クラウドファンディングはプロジェクトや企業に資金を供給するため、多数の個人から資金を集める活動だ。調達資金は比較的少なく、主に米キックスターターや米インディゴーゴーなど人気の高い専用プラットフォームで実施される。

対象分野や地域を限定したクラウドファンディングは以前からあったが、このカテゴリーはこのところ成長している。20年のクラウドファンディングによる調達額は前年比34%近く増えた。独調査会社スタティスタによると、23年にはクラウドファンディングで資金を調達するプロジェクトは年間1200万件に達する見通しだ。

ここ数年の法規制の変更により、クラウドファンディングはVCシードラウンドの有効な代替手段になりつつある。シードラウンドはその後の段階に比べて多くの株式を求められる傾向にある。

米証券取引委員会(SEC)は16年、スタートアップが証券を発行し、個人投資家からクラウドファンディングで年間最高107万ドルを調達することを認めた。20年11月にはこの限度額を500万ドルに引き上げた。VCシードラウンドの平均調達額は約200万ドルのため、クラウドファンディングを創業資金の調達に使えるようになっている。

12年以降に企業がクラウドファンディングで調達した額は計18億ドルに上る。その一つは12年にキックスターターに登場し、今はフェイスブック子会社になった仮想現実(VR)端末メーカーの米オキュラスだ。オキュラスは25万ドルの調達を目指していたが、最終的な調達額は240万ドルに達した。同社はその2年後、フェイスブックに20億ドルで買収された。

成長し続けるには支援ネットワークやVCからの追加資金が必要だと企業が判断した場合には、特に後期段階ではクラウドファンディングと従来のVC資金調達を並行して実施できる。3Dレーザープリンターの米グローフォージ(Glowforge)は15年、キックスターターで2800万ドルを調達し、月間としては過去最高の調達額を記録した。同時に、15年以降に複数回のラウンドでVCの米トゥルー・ベンチャーズや米ファウンドリー・グループから資金を調達した。調達資金は製品開発や納入プランの支援に使われた。

クラウドファンディングはVC投資とは違い、創業者が経営権を差し出す必要はない。スタートアップは寄付、借金、報酬ベースのクラウドファンディングを選ぶことができ、報酬ベースのタイプが最もよく知られている。投資家は資金を提供する見返りに、その企業が開発に取り組んでいる製品やサービスの大幅な値引きなどの報酬を得られる。

クラウドファンディングのメリットは金銭面だけにとどまらない。企業は以下の点を達成しやすくなる。

・関心の測定 : 潜在顧客でもある投資家に出資してもらうことは、事業アイデアを追求する価値がある証拠になる。クラウドファンディングの成功は、その後の資金調達ラウンドを確保するために極めて重要だ。

・ブランド構築 : 創業初期からの支援者は往々にして偉大なスタートアップの伝道師だ。彼らはアイデアに夢中になり、出資したクラウドファンディングのキャンペーンに関するメッセージを拡散してくれる。

・アイデアの実行 : クラウドファンディングのキャンペーンでは複数のVCに売り込んだり、多くの利害関係者と交渉したりする必要はなく、1回の売り込みで数百万人に伝えられる。起業家は速やかに資金を集めてアイデアを実行に移せる。

・リスクの軽減 : たとえクラウドファンディングのキャンペーンが失敗に終わっても、創業者が借金地獄に陥ったり、完全に経営権を失ったりすることはない。新たなアイデアにより簡単に事業を転換できる。

とはいえ、クラウドファンディングは起業家にとってリスクがないというわけではない。キックスターターのプロジェクトの約3分の2は調達目標を達成できない。

クラウドファンディングには他にも次のようなリスクがある。

・評判に傷がつく : クラウドファンディングのキャンペーンが失敗に終わった場合、その企業には投資や連携の価値がないというサインを他の投資家に送ることになる。このマイナスイメージを払拭するのは難しい。

・顧客を失う : 企業が創業初期からの支援者への約束を果たせない場合、金銭的・法的トラブルに発展する恐れがある。忠実なファンが最も必要なときに、こうしたファンを批判者にしてしまうリスクもある。

・100かゼロかの資金調達 : キックスターターなど一部のプラットフォームでは、プロジェクトは目標額を達成しなくてはならない。達成できなければ、資金を支援者に返すことになり、それまでの努力は全て水の泡になる。

エンジェル投資(通常は初期段階)

エンジェル投資はクラウドファンディングと同じく、主にスタートアップの資金調達の初期に実施される。もっとも、これも従来のVCラウンドと並行して実施できる。

エンジェル投資家とは通常、一部所有権を得る代わりに零細スタートアップや起業家に投資する個人富裕層を指す。こうした投資家は「適格投資家」だと認められており、資産100万ドル以上を保有しているか年間収入が20万ドル以上ある。エンジェル投資家は主に自己資金で投資するため、複数のLPからの資金をプールするVCよりも投資額が少ない傾向にある。

エンジェル投資はクラウドファンディングと同様に以前から存在していたが、ここ数年伸びている。20年のエンジェル投資家による株式取得や引き受けを伴う投資件数は1500件近くで、投資額は27億ドルだった。過去最高だった前年の29億ドルからはやや減ったが、16年の水準の2倍近くに増えた。さらに、エンジェル投資1件当たりの平均投資額は年々増加している。

エンジェル投資は19年にピーク、1件当たりの投資額は毎年増加 12~20年のエンジェル投資の件数と投資額(単位は100万ドル、公表ベース)

エンジェル投資家は従来、主に創業者の家族や友人だったが、スタートアップは今やもっと広範な個人富裕層のネットワークを活用できるようになっている。こうした投資家はリスクの高い冒険に積極的なスタートアップ業界出身者であることが多い。

代表的なエンジェル投資家の1人は、エンジェル投資家のマッチングサイト、米エンジェルリストの共同創業者ナバル・ラヴィカント氏だ。同氏は160社以上に投資し、50社以上がエグジットを果たしている。

顧客情報管理ソフトウエア大手、米セールスフォース・ドットコムの創業者のマーク・ベニオフ氏も著名なエンジェル投資家だ。同氏は企業や個人向けに職場での生産性を上げるノウハウを指導する米スライブ・グローバル(Thrive Global)や、サブスクリプション(定額課金)の管理プラットフォームを手掛ける米ズオラ(Zuora)、不動産テックの米コンパス(Compass)、ソフトウエア開発の米ギグスター(Gigster)など様々なスタートアップに投資している。投資件数は130件を超え、30社以上がエグジットを達成した。

一方、米ヤフーのマリッサ・メイヤー元最高経営責任者(CEO)も30社近くに出資し、5社がエグジットを遂げている。働く親を支援するプラットフォームを運営する米クレオ(Cleo)、ソフトウエア技術者のマッチングサイト、米トリプルバイト(Triplebyte)、子供向けクラスやイベントを運営する米ザ・ワンダー(The Wonder)、同窓会SNS(交流サイト)の米アルマ・キャンパス(Alma Campus)などに投資している。

人気の著名人もエンジェル投資家として知られている。米俳優アシュトン・カッシャー氏、米ラッパーのナズ、米人気歌手レディー・ガガ氏の元マネジャーのトロイ・カーター氏などは増えつつある著名人のスタートアップ投資家に名を連ねている。

著名人から出資を受けている企業は名前を思い出してもらいやすいメリットがある。例えば代替肉を手掛ける米インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)は多くの著名人から出資を受けており、米人気歌手のケイティ・ペリー氏などは画像共有アプリ「インスタグラム」で同社を宣伝している。

エンジェル投資のプロセスを簡単にする新たなスタートアップが登場しつつある。例えば、イスラエルのアワークラウド(OurCrowd)はスタートアップと会員投資家のマッチングサイトだ。投資家は取引を選び、スタートアップの多様なポートフォリオを簡単に築くことができる。1件当たりの最低投資額は1万ドルと通常のVC投資よりもはるかに少ない。業界専門家をメンターとして提供し、既に出資を受けているスタートアップへの支援も手掛ける。

エンジェル投資はクラウドファンディングと同様に、後の段階のVC投資を補強できる。そして、この手段がなければ見過ごされていたかもしれない企業に成長資金を提供する。

ローリングファンド

ローリングファンドは従来のVCファンドに似ているが、いくつかの重要な違いがある。ローリングファンドの運用担当者は常に資金を調達しており、従来のファンドのように全ての資金をあらかじめ調達する必要はない。このため、ローリングファンドの方が柔軟で、予定された資金のわずか一部を受け取るとすぐに投資に回せる。一方、VCはLPにファンドへの投資を説得するのに数カ月から数年かかり、企業に投資してエグジットを達成するまでに通常8~12年を見込む。

ローリングファンドには適格投資家も参加できる。LPは投資資金を10年間塩漬けにされるのではなく、四半期ごとに契約を増やしたり、停止したり、減らしたりできる。

従来のVCとローリングファンドの比較 出所:エンジェルリスト

ローリングファンドはベンチャーファンドよりも運営しやすく、恩恵は投資家にも及ぶ。例えば、エンジェルリストは自社の投資プラットフォームで設定されたローリングファンドの法的手続きの大半を引き受ける。このため、ファンドマネジャーは投資するスタートアップの調査により多くの時間を割ける。

ローリングファンドは投資に対する多くの障壁が取り払われているため、人気が出るのは当然だ。人気起業家やテック企業の幹部はとりわけ資金調達や新たなスタートアップの支援に熱心だ。フェイスブックの幹部だったデイブ・モリン氏が率いる起業家グループは20年7月、オフライン・ベンチャーズを創業した。このローリングファンドは初年度の目標調達額を5000万ドル、投資家からの四半期ごとの最低契約額を2万5000ドルに設定している。

もう一つの例はコンテンツ販売プラットフォーム、米ガムロード(Gumroad)のサヒール・ラビンジアCEOが立ち上げたローリングファンドだ。同氏は500万ドルを調達し、BtoB事業や電子商取引(EC)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)、開発者ツールなど様々な分野のスタートアップに投資するローリングファンドを組成した。このファンドの最低投資額は四半期当たり約3万1000ドルだ。

ラビンジア氏は「(VCは)ディスラプション(創造的破壊)を好むと言うが、ディスラプトされる側になればどうだろうか」と語っている。

ローリングファンドにより投資案件の獲得競争が促されることで、起業家は恩恵を受ける。外部投資家に対してより良い投資条件を得る力が増すからだ。ローリングファンドは常に資金を調達しているため、一定の期間で利益を出そうとしてスタートアップに身売りを迫る理由もない。

もっとも、ローリングファンドの規模はまだ小さい。後期段階のスタートアップが事業を速やかに拡大するには、なおVCに巨額の資金を提供してもらう必要があるだろう。ローリングファンドの人気は高まりつつあるが、まだ初期段階の投資方法であり、どれほど成果を上げられるかは見通せない。

未上場株の売買(通常は流通市場または後期段階の投資)

未上場企業の株主は未上場株の取引により持ち株を売却できる。成熟したスタートアップは中後期段階のVCラウンドで資金を調達したりエグジットを目指したりするのではなく、このオプションによって創業者や社員、初期の投資家に報いることができる。

プレIPO株は特に需要が高い。こうした株式を持つ社員が現金を必要としているがIPOまで待ちたくない場合、未上場株の取引で売りに出すことができる。例えば、企業はこうした社員が参加できる単発の入札を企画したり認めたりし、株式をどれほど売却できるかを規定できる。この入札はVC以外の個人投資家が未上場企業に投資するチャンスでもある。社員は持ち株を換金でき、もはやIPOを急ぐ必要はないため、企業はIPOや資金調達ラウンドを先延ばしする判断を下せる。

社員向けのストックオプション(新株予約権)の査定や売却をもっと簡単にしようと取り組んでいるスタートアップもある。例えば、未上場株を売買できる米エクイティーゼン(Equityzen)のプラットフォームでは、プレIPO企業の株主が適格投資家に持ち株を売却できる。このプレIPO株の取引プラットフォームは20万人以上の株主や投資家に利用されている。エクイティーゼンは利用者に企業の株価の推移や企業価値などのデータを提供する。

株式管理スタートアップの米カルタ(Carta)も未上場株の売買プラットフォーム「カルタX」を開発し、21年1~3月期に取引を始めた。カルタX事業を統括するアンドレ・トルヒーロ氏と、カルタの査定部門のゼネラル・マネジャー、チャド・ウィルバー氏は、カルタXを手掛ける理由についてこう述べている。

「後期段階にある最も魅力的な企業に資金がますます押し寄せているため、上場するきっかけが失われつつある。創業初期からの社員や投資家にとってはエグジットまでの期間が延びているということであり、このためプレエグジットの流動性が重要になっている」

スタートアップは未上場株の取引により主な利害関係者に柔軟に報いることができ、創業者は最適なタイミングだと確信する場合にだけ会社を上場させることが可能になる。だが、社員や創業初期からの投資家がストックオプションを売却しているため、創業者やCEOは新たな一部所有者を歓迎しなくてはならない。こうした出資者はその会社の経営方法について口出ししたがる可能性があり、現在の事業戦略を支持するとは限らない。

上場:SPACと直接上場(エグジット段階)

企業――そしてその企業に出資している投資家――は長年にわたって資金を調達し、製品を開発し、顧客基盤を拡大してきた末に、次の魅力的なステップは上場だと思うに至るのかもしれない。だが今や、企業の上場手段はIPOだけにとどまらない。SPACや直接上場は公開市場へのより速やかで簡単なルートを提供している。

SPAC(特別買収目的会社)はIPOを通じて資金を調達した後に未上場企業と合併し、その企業を上場させる目的で設立された「空箱」企業だ。スポンサーと呼ばれる投資家集団が設立し、他の投資家からの資金をプールする。スポンサーは十分な資金が集まった場合にだけ上場対象の企業を探す。

SPACは上場を目指すスタートアップに多くの利益をもたらす。企業は市場の力に委ねるのではなく、購入価格を交渉できるため、SPACのルートは従来のIPOよりも確実性が高い。もう1つの要因は速さだ。SPACと対象企業の上場にかかる時間は3~4カ月で、従来のIPOの2~3年よりも大幅に短い。さらに、企業をIPO後の状況に導く経験豊富なリーダーや専門家チームを提供するSPACもある。

20年のSPACの米IPO市場での資金調達件数は200件を超え、調達額は800億ドル以上と従来のIPOを上回った。SPACの収益も前年比500%以上増えた。

21年も記録更新の年になるだろう。20年12月に買収対象を探している段階のSPACは210社に上った。各社は18~24カ月以内に対象企業を見つけて買収する。

SPACはスポンサーや投資家に高いリターンももたらす。20年に最も成功を収めたSPACの一部は次の通りだ。

20年に最も高リターンを上げたSPAC 出所:ファクトセット

もっとも、SPACの台頭はVCに難題を突き付けている。高成長の企業はVCに頼らなくても資金を得られるようになっているからだ。米VCアホイ・キャピタルの創業者クリス・ダボス氏は、さらに多くのスタートアップがSPACを活用して従来よりも早い段階で上場するようになれば、ベンチャー投資家は中後期段階のラウンドに出資する機会を失う可能性があると説く。

「ベンチャー投資家は総じて極めて平凡な公開市場の投資家だ。未上場の間は大人しくしている企業に対しては、彼らはより良きメンターで長期的なパートナーなのだ」

米ファーストマークキャピタルや米リビット・キャピタル、米ラックス・キャピタルなどの一部VCもSPACのスポンサーになっている。これにより未上場の資金調達段階から上場に至るまでスタートアップを支援できるが、これらはまだ珍しいケースだ。

ダイレクトリスティング(直接上場)はスタートアップのもう一つの上場方法だ。自社の証券を自ら引き受け、投資銀行や引受業者などの仲介者を利用しないため、コストを削減できる。スタートアップは自ら決済日や価格、提供期間、投資家1人当たりの最低投資額などの条件を決める。

米スラックは直接上場を選択(同社のロゴ)

注目度の高い企業がここ数年、直接上場により株式市場に上場するケースが相次いでいる。

・スポティファイ(スウェーデンの音楽配信サービス) : 18年4月に上場

・米ビジネスチャットのスラック : 19年6月に上場

・米パランティア(データ分析企業) : 20年9月に上場

・米アサナ(タスク管理ソフト) : 20年9月に上場

直接上場のデメリットの一つは株価が不安定な点だ。株価を事前に交渉しないため、株式は幅広い価格帯で取引される可能性がある。だが財務基盤が安定しており、十分に先が見込める企業なら、上場当初の株価の急変動を乗り越えられるだろう。

資金調達手段の多様化、創業者に恩恵

スタートアップ投資を巡る競争は激しくなりつつある。起業家には今やさらに広範な資金調達の選択肢があり、企業理念に合うオプションを選ぶことが可能になり、実際にそうしている。もはや驚異的な成長が唯一の好ましい路線ではない。スタートアップは持続可能な成長を支えてくれる投資家を見つけるより良い機会に恵まれるようになっている。

スタートアップ投資ビジネスへの参加者が増えれば、投資案件の争奪戦はさらに激しくなる。創業者は調達に伴う条件交渉でより有利な立場に立てるだろう。エグジットへの圧力は和らぎ、性急な身売りを避けられる。

このため、VCを補強し、代替する調達手段の成長は大きな変革力になる。調達手段が増加することが長期的にどんな展開をたどるかは誰にも分からない。だが、起業家が資金調達や戦略支援のために利用できる選択肢がさらに増えれば、創造的なビジョンを実現し、イノベーションの車輪を回し続けやすくなる。

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