宇宙産業「成長期に」、課題はスピード感 都内で宇宙イベント

国内外の宇宙関連企業や宇宙機関が集まり宇宙ビジネスを討論するイベント「スペースタイド2021」が23、24日に開かれた。議論を通して日本でも衛星を使った観測サービスなどが事業化段階に入ったことを印象づけた一方、国を超えた連携の必要性など課題も浮かび上がった。スタートアップが存在感を増すなか、成長に向け「スピード感が欠かせない」との意見も相次いだ。
イベントは一般社団法人SPACETIDE(東京・中央)が主催した。A・Tカーニーで宇宙分野の戦略立案などを支援するSPACETIDEの石田真康代表理事は「サービスの需要はtoB(企業)、toG(政府)、toC(消費者)、toS(社会)の4つが見えてきた。宇宙ビジネスは黎明(れいめい)期から成長期に移行してきた」とここ数年の変化を強調した。
初日のオンラインイベントの冒頭では、宇宙旅行の実現に向けて各国の事業者が意見を交わした。米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が設立した米ブルーオリジンのセールスディレクター、アリアン・コーネル氏は、宇宙飛行機の開発と事業化について「IT企業は開発サイクルが短くて早いが、宇宙ビジネスは時間がかかる。試験を繰り返さないといけない」と指摘。事業化まで時間を要し、多額の資金が欠かせないとあって「宇宙旅行機を離陸させるためにはより多くの投資家の参加を加速すべきだ」と訴えた。
国内で有人宇宙飛行機を開発するスペースウォーカーの真鍋顕秀代表兼CEOは、国境を越えた官民連携の必要性を指摘した。真鍋氏は「法律作りで国際的な連携は欠かせない。日本で打ち上げた飛行機が米国に帰ることも想定される。各国の共通認識の中でルールを作っていくべきだ」と関係者に注文をつけた。
2日目は国内の宇宙産業の現状が議論された。合成開口レーダー(SAR)衛星を開発するシンスペクティブ(東京・江東)の共同創業者で慶應義塾大学の白坂成功教授は、スタートアップの機動力を強調。「民間の需要は出ているが広がりに欠ける。スタートアップはニーズに対応して変化し、安定したサービスを提供し続けることが必要。高性能かどうかより(ニーズに合わせ)いかに早くサービスを出せるかが大事だ」と述べた。
持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、宇宙から課題を解決する動きも広がっている。こうした動きに、ベンチャーキャピタル(VC)のABBALab(アバラボ、東京・千代田)の小笠原治代表は「ESG投資の対象が宇宙にも広がるかどうかは今後5年が勝負。スピード感を持って宇宙が投資対象になることを示していかなければならない」と訴えた。
異業種の経験をもつエンジニアからも「スピード感」を追求する声が上がった。宇宙飛行士の作業を代替するロボットを開発するGITAI Japan(東京・目黒)のロボット開発責任者の中西雄飛氏は、米グーグルに買収されたSCHAFT(シャフト)を創業した経験を持つ。そのキャリアを踏まえ「宇宙には信頼性が欠かせないが、ロボットは信頼性を追求したらコストがかかるうえ、開発が大幅に遅れる。まずは信頼性よりもスピードを重視して宇宙である程度動くロボットの開発に注力したい」との見解を示した。
宇宙開発ベンチャーの米スペースXや宇宙旅行会社のヴァージン・ギャラクティックは、民間人を乗せた宇宙飛行機を21年中に打ち上げると発表している。そのほか衛星を使った地球観測サービスでも米国が先行。衛星の運用だけでなく、農業やエネルギー、保険などの分野で観測データを活用した新サービスを次々開発している。

日本は出遅れていたが、ようやく宇宙を舞台にしたビジネスが本格的に動き出した。22日には、小型衛星開発・運用のアクセルスペース(東京・中央)と、宇宙ごみ(デブリ)除去サービスのアストロスケールホールディングス(東京・墨田)が自社衛星の打ち上げに成功した。
アクセルスペースは4基同時に打ち上げ、既に運用する1基と合わせて6月から5基体制でサービス提供を開始。地上の撮影頻度が2週間に1回から2、3日に1回に増え、商用のエンジンが点火した。
アストロスケールは技術実証機を使いデブリを捕獲、大気圏で燃やす実験に入る。世界初となる技術実証だ。
成長段階に差しかかり、品質と安全性を担保しながら、スピード感も求められるようになった日本の宇宙産業。ものづくりからデータ利用のクラウドサービスまで総力を結集して宇宙ビジネスを軌道に乗せるための挑戦は続く。(五十嵐沙織)