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エアビー上場、コロナ禍でのしたたかな対応に支持

グロービス経営大学院教授が解説

民泊仲介サービスのパイオニアであるエアビーアンドビーが12月10日、米国ナスダック市場に上場しました。新型コロナウイルス感染症のまん延で大きな打撃をこうむりましたが、いち早く対策を実行し、早期にそして市場の予想を大幅に上回る株価で上場を果たしました。エアビーは他の不動産シェアサービス系のユニコーンとは一味違う先見性、そしていい意味での「したたかさ」を持つ点が、株式市場で好感を持って受け入れられたようです。その背景について、グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が「PEST分析」の観点を交えて解説します。

【解説ポイント】
・新事業を創出し、リストラとともに黒字捻出した姿勢が株式市場の高評価に
・コロナ禍では大きな社会の変化を見極め、対策を講じる経営者の力が試される

米IPO市場の回復を見逃さず

エアビーは2020年8月に「秘匿扱い」として売上高や利益を開示せず、また新規株式公開(IPO)時期も明らかにしないまま、米国証券取引委員会(SEC)に上場申請書類を提出するという異例の上場手続きを行いました。7~9月期は開示のある18年から黒字を確保しており、20年の同四半期も減収ながら、早期の新型コロナ対策で新しい収益源の確保や経営体制のスリム化によって黒字を確保できるとの読みから上場申請に踏み切ったと思われます。

その背景として次のような要因があげられます。

(1)新型コロナが迫る社会変革やIT(情報技術)活用を縁の下で支えるユニコーン企業が中核となって、8月以降の米国IPO市場は急回復をみせていた
(2)コロナワクチンの普及後に旅行ブームの到来が予測されている
(3)19年のウィーワークの上場失敗に象徴されるように、市場はいつまでも黒字化のめどの立たないユニコーンの上場には愛想をつかしていた

エアビーは、新型コロナの影響が長期化・深刻化するかもしれないという観測が出始めた20年4月に20億ドルの長期借入金を調達して資金繰りを安定させる一方、5月には約25%に当たる正社員をリストラするとともにマーケティング費用や新規投資を凍結するなど経営体制のスリム化を断行しました。こうした早期の対策によって7~9月期の黒字維持を確実にすることで、早期のIPOを目指したものと思われます。

また、事業面では「Go Near」キャンペーンで自宅近隣での宿泊ニーズを取り込むとともに、「オンライン体験」を提供するなど旅先でのリアルな体験ニーズの代替えとなる新商品を開発しました。事業パートナーの民泊提供者に新しい収益源を提案することで、コロナ禍で大きな打撃を受けた民泊需要の下支えに手を打ちました。特に「オンライン体験」は、新型コロナが収束した後でもオンラインとリアルの融合を通じて民泊需要を大きく喚起できる施策であり、エアビーはピンチをチャンスに転換するイノベーション力を有していることを株式市場に印象付けました。

社会の潮流を見極める「PEST分析」

経営者にとって最大の任務のひとつは、社会の変化の大きな潮流を見極め、自社の戦略の方向性を決定することにあります。この際に威力を発揮するのがPEST分析です。PESTとは、Politics(政治面)、Economy(経済面)、 Society(社会面)、そして Technology(技術面)のこと。世の中の大きな流れや変化を多面的に分析し見極めて、自社にとっての大きな経営課題を発見するうえでとても有益なツールといえます。今回の例で言えば、Economy(経済面)の観点から、黒字のめどが立たないユニコーン企業に対する疑念の高まりがありつつも、収益をあげられる企業に対しての評価は機能していました(8月以降の米国IPO市場は急回復していました)。また、Society(社会面)からはワクチン普及後の旅行ブーム到来も予測できます。さらにTechnology(技術面)ではオンラインサービスの急速な普及が挙げられます。

環境変化は、今回のような新型コロナを除けば、毎日連続的に発生しているのでなかなか気づきにくいですが、5年前、10年前はどうであったかをしっかり振り返れば、変化の大きな潮流は意外と見つけやすいのではないでしょうか。今回は、新型コロナという大きな外乱要因があり、このような事態が継続した場合、自社の事業はどのような影響を受けるか、ダメージを最小限にするためにはどうすべきか、さらには危機を新規事業の創出機会に変えるにはどうしたら良いのかを考える絶好の機会だったのではないでしょうか。ここでしっかりとダメージを最小限にするような対策を講じる、危機を事業機会の創出に転換できるような方策を捻出できるかどうかが、まさに経営者に要求される資質なのではないでしょうか。

エアビーの上場とは、新型コロナによる経営環境の激変にどう対応していくべきか熟考すると同時に、これまでのユニコーンが株式公開に失敗、もしくは上場してもその後の株価がさえなかった原因を的確にとらえたうえでの決断だったのではないでしょうか。

他のユニコーンと違いを示したIPO

要約すれば、エアビーはウィーワークと同じ不動産シェアサービスでありながら、

(1)民泊仲介サービスに何ができるかという、事業モデルの本質を見極める力
(2)環境変化に柔軟に対応できる、しっかりとした事業と危機管理能力
(3)ピンチをチャンスと考えて新しい事業機会を見いだすイノベーション力

が強さであり、これを株式市場が理解できるように効果的に発信したことが、高い市場評価でのIPOを果たした原動力と思われます。

上場前に機関投資家を訪問するロードショー時点で、主幹事証券会社が付けた仮の公募・売り出し価格(公開価格)は44~50㌦でした。投資家の反応が良いことから55~60㌦に切り上げられましたが、最終的にはさらに高い68㌦に設定されました。ところがIPOにあたってエアビー株を取得できなかった投資家の期待は高く、上場初日の初値は146㌦と公開価格の2倍以上となりました。株価は一時165㌦まで上昇し、当日の終値は144.71㌦、時価総額は864億5000万㌦(約8兆9500億円)まで膨れ上がり、大成功のIPO案件となりました。株価は12月24日時点でも高値を維持しています。世界最大級のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルの時価総額が418億㌦ですので、これを大きく上回る世界最大の宿泊サービス仲介会社となったわけです。

まさに、新型コロナという未曽有の危機を乗り越える経営管理能力、そして危機を機会に変換するイノベーション力が評価され、普通のユニコーンとは一味違うことを印象付けたIPOだったのではないでしょうか。

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。銀行からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーの取締役最高財務責任者(CFO)と米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、東証1部のモバイル向けコンテンツ配信企業で取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

「PEST分析」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/b348e62c(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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