住商、倉庫作業をDX 量子コンピューター活用

住友商事は倉庫作業を効率化するDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。労働集約型の現場改革に向けて、通販の物流施設で個々の作業を見える化するシステムを開発。勤務シフトの作成では量子コンピューターを活用する。これを機に、交通インフラやスマートシティーなど幅広い分野で量子コンピューターの応用の可能性も探る。
デジタル化の舞台は、カタログ通販大手の千趣会の物流センター「ベルメゾンロジスコ」(岐阜県)だ。通販に特化した物流施設で、約1000人が働いている。住商の物流子会社、住商グローバル・ロジスティクスが2017年に51%を出資しており、運営に携わる。
足元では新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要で通販利用が拡大し、中部圏企業のEC物流も取り込む。取扱量は1日4万件にのぼる。
「通販は扱う商品や売れ行きが刻々と変化するため、そうした動きに勤務が左右される」と、ベルメゾンロジスコの犬山直輝社長は話す。
例えば、寒気到来でコートが急に売れた際は梱包にかかる時間も増える。だが、自動車工場のように綿密に計算された製造ラインが整備されていたり、熟練工がいたりするわけではない。
パートやアルバイト勤務が多い作業現場は標準化しにくく、日々変わる環境に応じてどう最適化するかが長年の悩みの種だった。
システムで作業見える化
米アマゾンなど大手企業は搬送ロボットの導入など自動化の取り組みに積極的だが、多くの中小規模の倉庫にとっては投資コストが重く非現実的な選択肢だ。そこで第1段階として独自に開発したのが、作業を可視化するシステム「スマイルボード」だ。
倉庫内の作業は入荷から保管、ピッキング、梱包、発送などに分かれる。スマイルボードは作業が終わるごとにバーコードを読み取ることで、どこで誰がどんな作業をしたかのデータを一元管理する。各工程やチーム、個人レベルでの進捗と計画との差をグラフで表示。管理者がスマートフォンやタブレットでリアルタイムで見られるようにした。
計画と実績を見える化したことで、前後の工程間の進み具合で生じる仕事の待ち時間を3.5%削減した。1日25万円のコスト削減効果が出る計算だ。進捗に応じて声かけをすることでチームや個人単位での目標意識が向上し、生産性の改善効果も表れたという。
システム自体は一見シンプルだが、多くの物流倉庫は作業内容をエクセルや日誌に記録しており、使いやすさや導入のしやすさを優先した。効果を確認し、6月にも外販を始める。

スマイルボードでデータを集約した上で、第2段階の実証が本命となる人員配置の最適化だ。この部分で、組み合わせ最適化の計算が得意な量子コンピューターをエンジンに搭載した。計画と進捗を把握するだけでなく、計画そのものをどう改善するかを提案することで、他の倉庫管理システムと差異化するのが狙いだ。
最適化の実証は19年度と20年度の2回にわけて実施した。まずは梱包業務を対象に、4種類の作業や当日出勤可能な人員、個々の作業能力などを条件に量子コンピューターが計算し、最適なシフトを組む。
残業時間を減らしながらノルマを達成する組み合わせをはじき出したところ、人手による勤務シフトの作成と比べ、3割弱の効率改善になることが分かった。
梱包作業で効果は証明できたが、実際に最適なシフトを敷くには複雑な要因を整理しなければならない。
交通やヘルスケアなどの用途開拓
「連続勤務を避ける」「特定の人同士を同じチームにしない」。シフト作りでは現場の細かい情報や慣習を取り込む必要がある。過去のデータから傾向を計算する人工知能(AI)も組み合わせつつ、将来的には個人の能力や状況に応じてより柔軟に配置できるシステムを目指す。まずは3月までに試作品を完成させる計画だ。
ベルメゾンロジスコの取り組みは単発の案件だが、住商全体でもここにきて量子コンピューターの事業化を視野に入れた動きが始まった。
物流の実証で採用された「量子アニーリング」方式は、勤務シフトの計算や車のルートを分散させる渋滞予測など、膨大な候補の中から最善の選択を導く組み合わせの問題を得意とし、企業での活用が広がっている。計算能力が進化し、従来のコンピューターとは異なる方式として実用化の入り口に立ちつつある。
住商は20年秋に量子コンピューター専門の「QX(クオンタムトランスフォーメーション)プロジェクト」を立ち上げた。数十年後の社会実装を目指す長期ビジョンを掲げる。
これまで渋滞予測の実証などに携わってきた量子コンピューター業界の第一人者を採用したほか、東北大学や慶応大と共同研究も始めた。
幅広い業界に根を張る商社として、交通やヘルスケア、デジタル広告など様々な産業で量子コンピューターの用途を見つけ出していく考えだ。(企業報道部 薬文江)
